アーロン・ジャッジは紛れもなく「MLBの顔」の一人だ。
MLBゲームの表紙を飾り、アメリカン・リーグのMVPを2度も受賞。先日、ワールドベースボールクラシック(WBC)アメリカ代表の主将にも任命されるなど、名実ともに、リーグを代表する選手となっている。
しかし、彼は本当に特別な選手なのだろうか?
日々高まり続ける周りからの期待と「50/50(50本塁打・50盗塁)」を達成したうえで、今度はマウンドにも立とうとする二刀流の存在は、打者として誰よりも結果を残す彼のパフォーマンスを「普通」だと錯覚させてしまうこともあるだろう。
しかし、アーロン・ジャッジ史上最高の右打者として、歴史に名を刻む選手になりうる。今回はその理由を紐解いていく。
まずは、今季ここまでの彼の成績を確認しよう。
今季最初の25試合で打率.415、出塁率.513、長打率.734。これはキャリア最高の4月成績であり、メジャー史上でもトップクラスだ。OPSはリーグ平均の2.5倍(最低100打席以上立った選手が対象)で、歴代でも屈指の4月成績を記録している。
まさに目覚ましい活躍を披露しているジャッジだが、この成績は彼にとって際立って特別なものではなく、これまでの月間の打撃成績トップ5に入っていない。いかに高いレベルのパフォーマンスを継続してきたかがわかるだろう。
2022年、ジャッジはOPS+210を記録し、現代の右打者としては歴代5位タイのシーズンを送った。さらに2024年にはOPS+223を叩き出し、右打者史上最高のシーズンを更新。つまり、彼はわずか2年で、右打者歴代トップ6のうち2シーズンを占める存在となったのだ。
そして迎えた2025年。もちろん現在の打率.415をシーズン通して維持するのは現実的ではない。だが、たとえ今後、成績が平均程度に落ち着いたとしても、リーグ平均の2倍以上を打つシーズンを、再び達成できるペースをみせている。
この成績をキャリアで3度以上記録した打者は、ルース、ボンズ、ウィリアムズ、ホーンスビー、そしておそらくジャッジだけ。ちなみにこれは、ハンク・アーロンやアレックス・ロドリゲスといった歴代のレジェンドたちが、3度どころか、一度も達成することができなかった成績である。
昨季、ジャッジは珍しく4月にスランプに陥り、OPS.754にとどまった。これは多くの打者にとっては上出来の数字だが、ジャッジにとっては物足りない成績だった。
しかし、その後、彼は打撃フォームを微調整し、以降は量産体制に入る。結果、2024年シーズン終了時点でWAR(Wins Above Replacement: 勝利貢献度)11.2を記録。これはバリー・ボンズ以来、メジャーで最も高い数字だった(大谷翔平ですら届いていない)。
そして現在から数えて、過去365日間の成績は、162試合で打率.360、出塁率.489、長打率.762、62本塁打。WARは13.7に達している。仮にこれを一つのシーズンとして捉えれば、1901年のアメリカン・リーグ誕生以降、歴代2位タイの結果となっている。
もちろん、過去すべての選手の365日間の成績を確認したわけではなく、「史上最高の1年間」と断言することはできないが「歴史に残る1年」であることは、疑いようがない。
史上最速でキャリア300ホームランを達成するなど、ほかにも圧倒的な成績を残してきたジャッジだが、通算のホームラン数や通算WARで歴代記録に迫ることは、年齢(デビューが25歳)や短縮シーズン(2020年)などの影響で難しいと考えられる。
しかし、「1試合あたりの貢献度」という観点では、ジャッジは史上屈指の存在だ。
キャリア通算の「162試合あたりのWAR」は8.7。これは、ベーブ・ルース(10.8)、ホーンスビー(9.3)、ウィリアムズ(9.2)、マイク・トラウト(9.1)らに次ぐ、歴代トップクラスの水準だ。
「史上最高の打者」というタイトルは現代の選手たちにはもはや不可能なものとなっている。野球そのものを変革し、今では再現不可能な領域に到達したベーブ・ルースや、時代を何十年も先取りした「MLB最高のレフト」テッド・ウィリアムズ、など異なる時代を戦い野球そのものの歴史を築いてきたレジェンドたちの存在しているからだ。
しかし、左打者である彼らを仮にトップ3だとするのであれば、ジャッジは「史上最高の右打者」のタイトルに最も近い男であるといえる。
現地時間土曜日に33歳の誕生日を迎えたジャッジは、33歳までのMLB歴代最高打撃成績ランキングで、「野球の神様」ベーブ・ルースと、最後の4割打者テッド・ウィリアムズに次ぐ、堂々の3位タイにつけている。
「いつも通り」の圧倒的なパフォーマンスで、今まさに、アーロン・ジャッジは野球の歴史に名を刻んでいる。