「Murakami 10」のピンストライプのユニホームを身にまとい、声援を背にマウンドへ向かい、左腕から見事なストライクを投げ込むと、観客から大きな拍手が送られた。
「涙が出るくらいうれしかったね」
日本人初のメジャーリーガー、村上雅則氏(81)は、そう振り返った。
村上氏は今回、イチロー氏の殿堂入り式典に出席するために来訪。式典前日にイチロー氏に会い、直接、祝福の言葉をかけた。
「最高にうれしかった。彼が選ばれて本当によかった。英語のスピーチも冗談を交えながら、すばらしかった」と、うれしそうに語った。
滞在期間中にヤンキース戦の観戦を希望し、同球団の知人にチケットの手配をお願いしたところ、サプライズで「始球式」を依頼された。
急に決まった出来事だが、元メジャーリーガーとしての血が騒いだのだろうか。始球式の直前にヤンキースの一塁側ダグアウト前で投球練習を行うと、81歳とは思えない力強い球にヤンキースのスタッフや選手たちには驚きの表情が浮かんだ。
ストライク投球にも「マウンドの前から投げたから、満足はしていないですよ。81歳で、あまり運動していないのでね。本当はもっと速い球を投げたいな」と話し、集まった記者たちを笑わせた。
1964年、65年の2年間、ジャイアンツでプレーした村上氏にとって、ニューヨークはメジャーデビューした思い出の土地でもある。1964年8月31日に、たった一人でJFK空港に降り立った。そこからバスを乗り継いでチーム宿舎のホテルに辿り着いたが、チェックインできず途方に暮れた。
「ロビーの隅で『このまま誰にも会えなかったらどうしよう。ハドソンリバーに沈められちゃうんじゃないか』と考えたりしましたね」
携帯電話もクレジットカードも無く、治安もさほど良くなかった時代に、20歳の青年が大都市ニューヨークでどれだけ心細かったか想像に難くない。
慌ただしい移動の末、翌9月1日のメッツ戦で、村上氏はジャイアンツのリリーフ投手として日本人初のメジャーリーガーとして、初登板を果たしている。
デビュー戦で投げた初球は外角低めのストライクだった。