現代の野球では打球角度や打球速度など新たな指標が注目されているが、アーロン・ジャッジは今も「打率」という古典的な数字に価値を見出している。
2022年、ロジャー・マリスの本塁打記録に迫った歴史的なシーズンで、ジャッジは一貫して「パワーと打率の両立」を意識し、そして今季もまたその信念を体現している。
レギュラーシーズン残り6試合の時点で、ジャッジは打率.326でア・リーグのトップに立っており、アスレチックスのジェイコブ・ウィルソンに11ポイント差をつけている。自身初の首位打者が目前に迫っている。
「アルベルト・プホルスやミゲル・カブレラといった偉大な打者は常に3割を打っていた。パワーはその延長線上にあった。自分も同じように、まずは3割を目指したい」とジャッジは語る。
ジャッジがこの目標を追うのは今回が初めてではない。2022年にはルイス・アラエスとの三冠王争いを演じた。もし首位打者を獲得すれば、MVP2度に加え、さらに歴史的な勲章が加わる。
特筆すべきはその体格だ。
身長201cmのジャッジが首位打者となれば、MLB史上最も背の高いタイトルホルダーとなる。これまでの最高は196cmで、殿堂入りのパーカー、トーマス、マウアーらが名を連ねている。
ヤンキースのブーン監督は「高身長の打者が成功するのは稀だが、ジャッジはその例外だ。彼はパワーと技術の両方を持ち、その強みを生かせてているという証拠だ」と称賛する。
ヤンキースでフルシーズンに渡り首位打者を獲得した最後の選手は、1998年に打率.339を記録したバーニー・ウィリアムス。2020年には、DJ・ラメイヒューがコロナ禍による短縮シーズンで打率.364を記録しタイトルを獲得した。
チームメイトのジャズ・チザムJr.は「今、打率.326で、ホームランがほぼ50本。正直、意味が分からないくらいすごい。今の時代、ピッチャーは毎日のように100マイル(161キロ)を投げてくるんだ。そんな中で、あれだけ打てるのは本当にすごいことだ」と驚きを隠せない。
「しかもジャッジの3割は『ソフトな3割』ではない。自分たちはよく『当たりは弱いけど3割』という言い方をするけど、ジャッジは完全無欠の3割打率だ」
ヤンキースの打撃コーチ、ジェームズ・ロウソンは、ジャッジの首位打者獲得が「驚異的なこと」だとしながらも、「タイトルを取っても驚かない。あの体格で、あれだけ打てる選手は極めて稀だ」と語る。
ジャッジの偉大さが当たり前のように感じられる瞬間もあるという。
ブーン監督は、「ヒット1本に2四球の日でも、まるで『きょうは普通だったね』という感じ」と笑いながら語った。ロウソン打撃コーチは、ファンにはもっとそのすごさを噛みしめてほしいと話す。
「自分は毎日、ジャッジのプレーを目の前で見られて、本当に幸運だ。まるで歴史を前列で見ているようなものだ。どれだけ丁寧に日々のルーティンをこなしているかを知っている。意味のないスイングなんて一度たりともしていない。あの体格で毎日プレーするために必要なことを、すべてやっている」
近年、打率という指標は軽視されがちだが、ジャッジが重要視する理由がある。
デビュー年の2016年、84打数15安打、打率.179に終わった。最もレベルの高い投手たちに打ちのめされ、ジャッジは、オフにスイングを徹底的に見直した。
その証として、当時のiPhoneのメモアプリにはこう記されていた。
「.179」――84打数15安打、打率.179。
出塁率や長打率は記されていなかった。その冬の取り組みが、翌2017年の新人王シーズンにつながった。52本塁打、打率.284という成績だった。
今季は過去4年で3度目の3割超え。2022年は.311、2023年はケガを乗り越えて.322、そして2025年は自己最高を狙えるペースにある。
もちろん、打率のタイトルそのものにも意味はあるが、ジャッジにとっては日々の積み重ね、日常の仕事の結果として自然についてくるものだと考えている。日々の努力、地道な準備、そして非凡な才能を普通のように発揮する力こそが、真価である。
「一人の野球ファンとして、リーグ最高の選手が毎日プレーする姿を見られるのは本当に幸せなことだ」とチザムは語った。「体調が万全じゃないときでも、114マイル(約183キロ)の打球を2本放ってヒットにしてしまう。あれは本物の特別な選手だ」
