うっすらと涙を浮かべながらコーチ陣と話す選手。ビールやウイスキーのグラスを傾けながら、隣の選手と静かに言葉を交わす選手たち。ポストシーズン敗退が決まったその夜、ブルワーズのクラブハウスには静かな、そして寂しい空気が流れていた。
捕手のダニー・ジャンセンが、胸の内を語ってくれた。
ジャンセンは7月末のトレードデッドラインにレイズから移籍し、控え捕手として投手たちを支えた。
「加入してすぐに、特別なチームだと感じた。若手が多いけれど、ベテランもいて、リーダーシップもしっかりある。監督のマーフィーやスタッフ陣含めて、上から下まで、すごく組織としてうまく機能している。得点の取り方も一つじゃなくて、いろんなやり方で勝負してくるんだ。投手陣も素晴らしいし、本当に楽しいチームだった」
ブルワーズは開幕4連敗と厳しいスタートを切ったが、8月に球団新記録の14連勝を挙げたほか、両リーグ最多の97勝をマークするなど、大きな足跡を残した。しかしワールドシリーズまであと少し、という場面で白星を挙げることはできなかった。
勝負を分けたのは何だったのだろうか。
「相手チームは本当にいいプレーをしていたし、投手陣も見事だった。でも、うちも負けてなかった。みんなが『次は俺が打つ』という気持ちでつなぐ打線で、全員が全力を出し切ったと思う」
淡々と話していたジャンセンがうっすらと涙を浮かべたのは、シーズンの「終わり」について話し始めたときだ。
「あっという間のシーズンだった。すべてがバタバタと進んで、気づいたら終わってしまった。できれば、みんなともう少し長く一緒にプレーしたかった。来年、もしこのチームにいても、同じメンバーということは絶対にないからね」
敗戦は、次のラウンドに進む権利を失うだけではない。同じメンバーで戦う瞬間も失う。
そう話す捕手の元に21歳チューリオが歩み寄り、ハグをした。
「君はとてもいい選手だ。自信を持ってこれからもプレーするんだ。一緒にプレーができてとても光栄だよ」とジャンセンがそう言うと、チューリオは顔をゆがめて泣き出しそうになった。
30歳のジャンセンにとって、ブルワーズはキャリア4チーム目だ。2018年にブルージェイズでメジャー昇格を果たし、昨年7月にレッドソックスへ。今季はレイズで開幕を迎え、7月にブルワーズに移籍し、控えとして21試合でマスクを被った。
シーズン途中の移籍は、どの選手にとっても新しいチームに馴染むのが難しい。とくに捕手は、投手陣の球種や配球の傾向を把握し、積極的にコミュニケーションを取らなければならず、その負担は大きい。
移籍した翌日には「覚えることがいっぱいあるけれど、それが捕手の役割だからね。チームに貢献できるように頑張るよ」と話していた。
「チームにすぐに溶けこめたのは、みんながすぐに仲間として迎え入れてくれたからだ。移籍してすぐに『ここで戦う』という気持ちになれた」と振り返る。
それもきょうで終わり、選手たちはそれぞれの場所に戻っていく。
名残惜しそうな選手やスタッフたちは、互いのロッカーを訪れ、握手やハグをする。彼らの間には多くの言葉はない。
「毎日みんなで一緒にプレーして、全力で戦ってきた。突然負けて、あすにはもう家に帰るっていう現実が急にくるんだ。本当に一瞬で終わってしまう。みんな全力を出し切ってるからこそ、別れはきつい。どんなにキャリアを積んでも最終日はいつも特別なんだ。でも、このチームは本当に素晴らしいグループだったよ。ここでプレーできてよかった」
プレーの結果だけでは語れないものが、野球にはある。ジャンセンが絞り出した一つひとつの言葉が、今季のブルワーズの強い絆を何よりも雄弁に物語っていた。