「20年後、野球はどうなっていると思う? 考えたことがあるかい?」
スプリングトレーニングの囲み取材でブルワーズのパット・マーフィ監督は、報道陣にそう問いかけた。
通常、監督囲みは屋外で行われることが多い。しかし、マーフィ監督の取材は監督室で行われ、全員が椅子に座ったリラックスした雰囲気で進む。雑談のように脱線しながらも、会話は常に野球の本質へと向かっていく。
20年前にはピッチクロックもピッチコムもなかった。二刀流選手も存在せず、100マイルを超える速球を投げる投手も、ごく限られた存在だった。
野球はこの20年で大きく変わった。そして、20年後はどうなっているのか。
マーフィ監督は選手だけでなく、周囲の人間にも「考えること」を求める。
イチロー氏は昨年、殿堂入りの際に現在のメジャーリーグについて問われると、ブルワーズの野球を高く評価していた。「考える野球」を評価した言葉は、マーフィー監督の耳にも届いている。
「本当に特別なことだ。私の息子は現在パドレス傘下の2Aでプレーしているけれど、5歳の頃からイチローの真似をして、ずっと背番号51をつけていた。家族にとって大きな存在だったので、あの言葉は本当にうれしかった」とマーフィ監督は頬を緩める。
自身の野球観を、偉大な選手に理解してもらえた喜びがにじむ。
ブルワーズが掲げる“考える野球”。そのキーワードとして、指揮官が繰り返し口にする言葉が「気づき」だ。
「すべては『気づき』だ。自分がチームの中でどう機能し、どう試合に影響を与えられるかに気づけるかどうか。そこに気づいた選手は、『送りバントができる』『逆方向にゴロを打てる』『ボールとストライクを見極められる』『チームを助けられる』と理解するようになる。その積み重ねが自信につながり、プレーの幅も広がっていく」
マイナーでは長打力や派手な数字が評価につながりやすい。しかしメジャーでは、自分の役割を理解し、それを遂行できる選手が求められる。昇格直後の選手が結果を出そうと力みすぎたり、背伸びをしたプレーに走ったりする場面は少なくない。そんな時、監督やコーチ陣は繰り返し「自分の役割を理解しろ」と説く。
チームの精神的支柱でもあるクリスチャン・イエリッチは、マーリンズ時代にイチロー氏とともにプレーした経験を持つ。
「去年シアトルで(イチロー氏と)話した時も、うちのチームの戦い方を気に入ってくれていると感じた。バントや盗塁、守備など、彼が現役時代にやっていた野球に近い部分があると話していたんだ。そういう選手に評価されるのは光栄だと思う」
マーフィ監督は大学野球の指導経験も持つ。当時から“勝つ野球”を理解させることを重視してきた。
「大学ではもっと細かく教える必要がある。選手にとっての“いい野球”と、“勝つ野球”は違うことがある。ホームランを打ちたい、強い打球を打ちたい、速い球を投げたい。でも勝つためには、それ以上に必要なことがある」
理解が足りないと判断した選手には、あえて途中交代やスタメン落ちを命じ、ベンチから試合を見させることもある。
「ダービン、フレーリック、オルティスもスタメンから外したことがある。彼らは理解できる能力のある選手だからこそ、『勝つ野球』ができていない時は外し、『これがチームにどう影響するのかを理解しない限り出られない』と伝えた」
スタメンから外した際は、ベンチや試合後に直接対話を重ね、理解を促す。
ブルワーズが5球団目の所属となる今季好調のジェイク・バウアーズは、チームの特徴をこう語る。
「この組織にはプレーに関する一定の基準がある。その基準から外れたミスは見逃されない。何か起きたら全員で話し合い、みんなが耳を傾けて学ぼうとする。感情的になることはなく、建設的に進んでいく。それが正しいプレーにつながっていると思う」
ブルワーズの“考える野球”。
データと情報があふれる時代になっても、最後に勝負を決めるのは、選手自身が状況を考え、判断する力だと指揮官は信じている。