「シーズン序盤は自分を見失っていた」
ドジャースのアンディ・パヘスはシーズン序盤の不振をそう振り返る。4月5日のフィリーズ戦後には打率が.100まで落ちたが、現在は.273と急上昇している。
不振の原因は気持ちの問題だった。
「大谷やベッツの前を打つのはプレッシャーだった。9番という打順はなじみがなく、後続打者のために球数を多く見ないといけないと思いすぎて消極的になりすぎた」
事実、初球ストライクの見逃し率が昨季よりも増え、追い込まれて三振したり、振らざるを得ない状況に追い込まれるという悪循環に見舞われた。
キューバ時代からスター選手で、マイナーリーグでも主軸で「打順はいつも1から5番だった」と話すように、上位打線に座ることが多かった。
しかしMVP級選手が揃うドジャースでは下位打線で、求められることが異なる。
加えて自分をよく見せたい、いいプレーをしてアピールしたいという気持ちから、空回りしたプレーをしたり、萎縮するのは若い選手やマイナーから昇格した選手によく起こる現象だ。
ロバーツ監督は「(不調は)メカニック的なものではなく、完全にメンタル」と話し、パヘスに休養日を与え、試合を俯瞰的に見るように諭したり、打順変更をして、復調をサポートした。
指揮官からもらった休養日、パヘスはほかの選手のプレーを見ながら『自分の長所』について熟考し続けた。
「自分の持ち味は積極性。いい球が来たら迷いなく振る。そう決めたんだ」
本拠地で行われた4月25日からのパイレーツ3連戦では12打数10安打と驚異的な数字をマークした。
打撃アプローチにも変化が見られる。昨年と比較するとわずかだが空振り率、三振率が下がり、四球率が上がっている。積極性を保ちつつ、しっかり球を見られている証拠だ。
またスライダーや直球への対応力も上がっている。
「長打や本塁打を打とう、と大振りしていたので、シンプルにしっかりコンタクトすることを心がけるようにした。いいスイングをして、しっかり当てれば結果的に長打が出ると分かったからね」
好調の攻撃が守備も引っ張る。
ホームラン性のあたりを壁際で捕球したり、好送球で走者を刺すなど、スーパープレーを連発し、投手陣を助ける。
5月6日のマーリンズ戦ではヒックスのホームラン性の当たりを壁際でジャンプしながら捕球すると、すぐに一塁に送球し、飛び出していた走者を刺してダブルプレーを奪った。
「自信を持ってプレーしようと心がけている」
運動神経の良さ、肩の強さにはマイナー時代から定評があった。しかし昨季までは打球への反応、また送球の際のわずかな遅れ、また他の野手との連係ミスによるエラーなども目立った。それも「失敗したくない」という自信の無さから来るものだった。
「不調の間、テオスカー(ヘルナンデス)や翔平、チームメイトたちが常に鼓舞してくれた。いい打席、いい守備をするたびに『その調子だ』と声をかけてもらい、それが力になったし、いいプレーをすると自分のことのように喜んでくれる。それがさらに力になっている」
ニコニコと笑顔で話すパヘスを見ながら、クラブハウスで横に座っていた大谷翔平が「ホームラン、たくさん打ってるよね」とツッコミを入れると、パヘスは照れくさそうに笑った。
チームはエドマン、テオスカー・ヘルナンデスがケガで故障者リスト入りし、守備も打順も流動的だが、不振から抜け出したパヘスも主力選手の一人として、さらに期待がかかる。