「敷居をまたげば七人の敵あり」
そんなことわざがあるが、メジャーリーグの各チームには相手チームだけではなく、移動、天候、時差などの敵が大きく立ちはだかる。
春季キャンプ中、各チームはアリゾナ、フロリダのキャンプ地で1カ月半ほど過ごす。その際、オープン戦のためにバスで移動をすることはあるけれど、本拠地の試合のみに出場する主軸選手たちの移動は滞在先から球場までの最小限の移動に留まる。
ところが開幕と同時に、ニューヨークからカリフォルニア、カナダのトロントからテキサスなど、アメリカ大陸横断&縦断の旅が始まる。
もちろんチームはチャーター機で移動するものの、試合後に5、6時間のフライトを経て、深夜2、3時頃に目的地に到着したら、選手はもちろんスタッフも疲労困憊だ。
以前、マリナーズの選手が「われわれのチームはリーグで一番移動距離が長い」と話していたが、2022年は4万6,386マイル(7万4,651キロ)でリーグ首位の移動距離だった。
今季の予定移動距離を見ると、移動距離リーグ1位は西海岸のドジャースで4万8,649マイル(7万8,292キロ)で地球をほぼ2周することになる(※米国ー東京往復を含む)。2位のアスレチックスが僅差の4万8,310マイル、パドレスが4万5,436マイルで3位、マリナーズ、ジャイアンツ、エンゼルスが続き、西海岸のチームが上位を占める。ちなみに昨季、韓国で開幕戦を迎えたパドレスが5万1,690マイルで1位、同遠征を経験したドジャースが2位だった。
一方で移動が最も少ないのが中地区で、中西部クリーブランド本拠地のガーディアンズが2万5,453マイル、シカゴホワイトソックスが2万6,129マイルになっている。
東京シリーズを戦ったドジャースから、キャンプ地アリゾナー東京ーロサンゼルスの約1万1,200マイルを引くと3万7,449マイルで8位になるが、それでも中西部のチームとは大きな差がある。
ちなみに2023年からインターリーグで「各チームが他の29球団すべてと対戦する」システムになったが、移動距離はそれ以前とあまり変わりがない。過去に5万5,000マイルを越えたマリナーズは、総当たりシステムで西海岸のチームとの試合が増えたことで、逆に移動距離が少し減った感もある。
時差調整も難しい。
米国には4つのタイムゾーン(東部、中部、山岳部、太平洋)があるが、一般的に西から東の移動は体内時計が追いつかないため、国内でも時差ぼけを感じることがある。例えばドジャースがナイトゲーム後の深夜にニューヨークに向かった場合、到着は早くても午前9時頃になる。到着日が1日オフの場合、うっかりずっと寝てしまうと時差調整が難しくなる。
移動距離が長かった翌日の試合で打率や得点率が下がったり、逆に移動が少ない近隣チームとの対戦では好成績を出しているチームもあるなど、移動や時差がダイレクトに成績に影響することも多い。
昨年8月にメジャー昇格し、今季2年目のドジャースのベン・カスパリウス投手は「ダブルヘッダーの後に移動みたいな日はやっぱりきつい」と話す。ロードの試合では食事、ウェイトルームなどで本拠地と仕様や内容が異なることも多く、「どれだけ早く適応して、自分のルーティンを崩さないかが鍵」と言う。
2年目に入り、「自分の体の声に耳を傾けることが大事だと気づいた。球数が多かったり、移動などで疲れが溜まっている時は、予定していたトレーニングを変更するようにしている。1日トレーニングしなくても、前の1週間がダメになるわけじゃないからね。若手は『絶対に今日これをやらなきゃ』『ちゃんと練習しているところをアピールしなきゃ』と頑張りすぎる傾向があるけれど、メジャーでは割り切って自分を貫くことが必要なんだ」とも。
残り100試合以上、各チーム、選手たちの「見えざる敵対策」にも注目したい。