今季限りでの現役引退を表明している37歳のミゲル・ロハスにとって、この夏は特別な意味を持つ。
ベネズエラ出身のロハスは2014年にメジャーデビュー。マーリンズでキャリアを築き、2023年にドジャースへ加入した。
昨年のワールドシリーズ第7戦、1点を追いかける九回に起死回生の同点弾を放ったのは記憶に新しい。堅実な守備とリーダーシップで存在感を発揮し、チームの連覇にも貢献している。
そんなロハスが、まだプレーできる中でユニホームを脱ぐ決断を下した理由は、家族だ。
ロハスは「家族を支えることが父親として最も大切な役目の一つ」と前置きし、引退を決めた最大の理由を「子どもたちともっと時間を過ごしたい」と明かした。
特に10歳になる息子アーロン君の存在が大きい。
「一緒にいられる時間は本当に限られている。オフシーズンもトレーニングや準備で忙しい。気づけば息子は10歳になっていたけれど、その成長の多くを見逃してきた」
メジャーリーガーとして成功を収めるために費やした時間は、そのまま家族と過ごせなかった時間だ。あと数年もすれば、息子は趣味やスポーツに夢中になり、父親よりも友人と過ごす時間が増えていくだろう。いま自分を慕ってくれているこの時間を、逃したくない。引退後は息子の野球を見守り、時にはコーチとして、時には人生相談に乗る父親として寄り添いたい。
「彼が困った時に最初に相談する相手でありたい。もっとそばにいて成長を見守りたいんだ」
アーロンくんはクラブハウスのロッカーにちょこんと腰掛け、真剣に語る父の言葉に静かに耳を傾けていた。「72番」と入ったロハスのTシャツを身につけて。
この夏は、父と息子にとって特別な、そしてメジャーで過ごす最後の夏になる。
小学校が夏休みに入ったアーロンくんは、今季は本拠地だけでなく遠征にも帯同している。グラブを手に外野でボールを拾ったり、スタッフや選手の子どもたちとキャッチボールをしたり、追いかけっこをしたりと、メジャーリーグのクラブハウス生活を満喫している。
父が打撃練習を行う際には、アーロンくんが率先して外野へ向かう。外野でキャッチボールをしている投手の前に「僕が捕るから、安心して練習してね」と言わんばかりに立ちはだかり、仁王立ちで打球を待つ姿も、すっかりおなじみの光景だ。
試合前になると選手たちは集中力を高め、時にはピリピリした空気が流れる。慌ただしく準備を進める姿も日常の風景だ。だがアーロンくんにとっては、すでに見慣れた風景なのだろう。試合の準備で忙しくしている間は、ほかの子どもたちと人気のない部屋でゲームをしたり、ご飯やおやつを食べて過ごす。
ロハスは、そうしたありのままの姿を息子に見せたいと考えている。選手として残したいのは本塁打や安打の数ではなく、「成功したときにどう振る舞うか、失敗したときにどう立ち上がるか。そうした姿勢を見てほしい」と話す。
勝利の歓喜も、敗戦の悔しさも知るベテランらしい言葉だ。
ロハスは選手として悔いのないように、一日一日をかみしめるように過ごしている。そしてアーロン君もまた、父の背中を見ながら、二度と戻らない特別な夏を過ごしている。グラウンドやクラブハウスでの何気ない時間こそが、いつか最も大切な思い出になるのかもしれない。