「傷痕、意外と大きいでしょう。結構、縫ったんだ」
ドジャースの25歳右腕、エメット・シーハンは右肘を少し捻って、トミー・ジョン手術の手術痕を見せてくれた。
20センチ以上ある縫い目が痛々しい。
メジャー2年目の2024年春季キャンプで右肩と肘の痛みを感じた。検査を繰り返し、5月にトミー・ジョン手術を受けた。
「手術を受けるべきかどうか。決断までの3カ月間がとてもつらかった」と振り返る。
手術後も厳しい時間は続いた。
「メンタル面がきつかった。フィジカル面は指導スタッフが最高の環境を整えてくれる。でも毎日同じことの繰り返しで、進歩していないように感じた。それでも前進し続けないといけない。メンタルがやられたよ」
気持ちを奮い立たせ、リハビリに取り組み、投球フォームの改良や配球の見直しなどに前向きに取り組んだ。
「肩や肘まわりの筋力を鍛え直し、どう動かせばいいかを学び直した。結果として、自分の体をより深く理解できたと思う」と振り返り、「肘に負担の少ないフォームで投げること。良いとき悪いときの違いを把握して、できるだけ安定して『正しい投げ方』をすることを学んだ」と説明する。
アリゾナで投手コーディネーターとのミーティングを重ね、配球の見直しも行った。
「チェンジアップの握りを変えて、スライダーの割合を増やした。スイーパーをやめて、代わりにカーブを増やした。肘の角度が高くなって、カーブの方がしっくりくるようになった。腕の角度を変えたらコントロールしやすくなった」
2023年のフォーシーム(60%)、スライダー(19%)、チェンジアップ(17%)、スイーパー(4%)から、今季はフォーシーム(46%)、スライダー(30%)、チェンジアップ(17%)、そしてカーブ(7%)に変更。さらに腕の角度も5度上がり、これまでよりも高い位置からボールをリリースすることで、チェイス率(ボールゾーンをスイングさせる率)、ストライク率、空振り率で高い数値をマークしている。
今季は5月末にルーキーリーグで登板後、6月に3Aに上がり、3試合に登板。6月18日にメジャーで1試合投げ、7月6日以降再昇格。7月には短いイニングを投げる大谷のリハビリ登板後、2番手として“第2先発”を任された。そこでの内容を評価され、8月からは先発ローテーション入りし、9試合に登板。14試合で6勝3敗、防御率2.86をマークした。先発、また2番手として、大事な場面を任せられる投手の一人に成長した。
ポストシーズンは、山本由伸、ブレイク・スネル、大谷翔平らが先発投手の柱となるため、シーハンはブルペンに入る。
「チームのためになるなら、役割はどこでもいい。だって、ここで投げられること自体が、夢を実現しているからね」
苦難を乗り越え、メジャーに復帰した右腕は再び輝きを放つべく腕を振り続けている。