右手に黒いサポーターギプスをつけた捕手ウィル・スミスが、ブルペンでマスクをつけると、マリナーズ戦で先発予定のタイラー・グラスナウはスミスが構えるミットを目掛けて力強くボールを投げた。スミスの横に控えるスタッフが、受けたボールをグラスナウに投げ返す。投手もそのわずかな時差にすっかり慣れたのか、気にする素振りも見せず投球を続ける。
9月3日のパイレーツ戦で右手にファールボールを受けて途中交代。当初は打撲と診断されたため、打撃練習を行っていた。しかし、その後、再び腫れが出たため、再度、検査を受けた結果、右手に小さなひび(亀裂骨折)が見つかり、レギュラーシーズンは絶望的になった。
最初の診断で亀裂骨折が見つからず、そのためスイングを開始したが、痛みがあったために再検査を受けた。
「親指の付け根あたりにヒビが見つかった。かなり紫色になっていた。MRI検査を何回も受けるのにはうんざりしたよ」
スミスの我慢強い性格も仇となった。
「打撲じゃない。そう直感したけれど、医者に『ただの打撲だ』と何度も言われたので、我慢するしかないんだなと受け入れてしまった。体の声をもっと信じるべきだったんだろうね。良い教訓になったよ」と後悔の念も口にする。
ワイルドカード第1戦の復帰を目指し、ランニングや筋トレ、肩周りのトレーニングを行いながら、ブルペンでボールを受けたり、バッターボックスに立って目慣らしするなど、実戦感覚を保つ努力を続けている。
昨年、プレーオフに入る前、チームの指揮を高めるために決起集会の発起人になったのがスミスだった。数少ない生え抜きで、チームへの思い、そして責任感は人一倍強い。
「自分の体を信じて、できることを全力でやる」
連覇に向けて、スミスの復帰が一つの鍵になりそうだ。