レイズを支える「体のプロ」日本人スタッフ

July 5th, 2025

7月に入り、シーズンは折り返し地点を通過した。大混戦のア・リーグ東地区のレイズで、チームを支える日本人スタッフがいる。

先発投手担当の福田さん

「体の声をよく聞けるようになってきたと思います」

そう話すのは、レイズ7年目になる福田紳一郎さん(写真右)だ。

アスレティックトレーナー兼鍼灸師として働く福田さんは先発投手をメインにケアを行う。登板日はもちろん、登板後のリカバリー、そして次の登板に備えて、さまざまなアプローチで選手をサポートする。

選手が訴える痛みや違和感をそのまま受け取るのでなく、実際に体が抱えるストレスと重ね合わせて、原因をより深く探りながら治療を行う。「例えば股関節が硬いと言われても、実はお腹が硬いからそうなっていることもある。そこを緩めると股関節も楽になる。そういうことが効率的に見られるようになってきました」と福田さん。

先発投手を担当することが多いが、投げた翌日と登板日のストレッチの状態を比較することで、投球の調子を見極めている。

「投げる直前のストレッチで『今日は調子が良さそうだな』と分かるようになったのはここ1、2年ですね」

「最初の頃はチームに残るためにガムシャラでした。でも今はチームから信頼を得て、好きなことをやらせてもらっています」と話す。「自分をアピールしようと『針どう?』と選手に声をかけることもありましたが、ヘッド(トレーナー)に『いいと分かったら、選手は自分たちから頼んでくるから、その時まで待て』とたしなめられたこともありました」

しかし福田さんの熱心さ、そして技術に興味を持った選手たちが徐々に針治療を試すようになり、登板後に「ぐっすり眠るため」に針を希望する選手も増えている。

現在レイズにいる選手はもちろん、他チームに移籍した選手も福田さんのファンは多い。ドジャース先発のタイラー・グラスノーやブレイク・スネルもその一人で「俺のシンの治療は最高だった」と話す。

オリオールズに移籍したザック・エフリンも「シンは痛みのある箇所だけではなく、その原因を突き止めて全身を効果的に治療するのが上手い。西洋医学では痛みのある場所だけを治療するけれど、東洋医学はその原因も探る。シンに助けてもらった投手は本当に多いんじゃないかな」と最大の賛辞を送る。

しかし、エフリンや何人かの選手からは小さな苦情(?)も届いている。

「全身治療なので治療時間がちょっと長いんだ。もう終わりかなと思っても終わらない。『もうベッドから下ろして』『シン、もう離して(笑)』って思った選手は多いと思うよ。でも、その治療がパフォーマンスを支えてくれるんだよね」

日米で経験豊富な渡辺さん

今年レイズ5年目を迎えた渡辺誉さん(写真左)は、マッサージセラピスト兼モビリティスペシャリストとして、日々、選手のケアやコンディション維持を行う。

渡辺さんは横浜ベイスターズを経て、山口俊、前田健太、筒香嘉智などのトレーナーを務め、2020年からレイズで働いている。

「選手の動きを見て、ここを改善した方がいい、この筋肉を調整した方がいいと考えるのが仕事です」

試合前に練習をする選手たちの様子を渡辺さんは鋭い視線で見つめる。

ドリル、ストレッチ、打撃、守備など様々な動きから、選手の体の声に耳を澄ます。どこかに痛みや違和感を感じている選手は普通の動きの中でもぎこちなさがでたり、練習中に無意識に触ったり、叩いたりするが、渡辺さんはそういった些細なサインも見逃さない。

「ケガにならないように、動きや体を触ったり練習を見て、『探す』という言葉は語弊があるかもしれませんが、常に『そのサイン』を探しています。もちろん自分が気にしすぎの場合もありますし、選手のそのサインが合っている場合もあるので、日々の選手の動き確認は欠かせないですね」

 練習終了後、ダグアウトに戻ってきた選手に渡辺さんが「どうだった?」と言うように視線を送ると、「(この後、ケアをしてもらって)いい?」というようにうなづき、一緒にクラブハウスに入っていった。

長いシーズンでは少しの張りや違和感がケガにつながることも多い。いかにケガを未然に予防するかも渡辺さんの仕事だ。ロースター26人全員の一人一人の体の特徴が頭の中にあり、「この選手はここが疲れてくるとここが張る、というパターンがあります。コンディショニングを維持することで怪我の予防につながるので、動きや筋肉の硬さ、関節の硬さを常に見ながら『これ以上いくと危ない』と判断します」と話す。

メジャーでは体が硬かったり、うまく体を使えない選手も多く、そういった選手をケアと共に動きの提案もする。ケガの予防はもちろんだが、モビリティ(可動域)を広げることでプレーの幅も広がる。「どうやって改善していくか、アプローチを考えるのは勉強になります。うまくいくこともあればいかないこともあるけど、それも含めて改善の余地がある。この仕事の面白さですね」と笑顔で話す。

春季キャンプから9月、10月まで二人は休みなしで働く。

過酷な仕事だが、「先発投手が1年間ローテを守り怪我なく投げ切れたら、今年1年いい仕事ができたと思える。その試合でも無失点で投げ切れば、選手もいい仕事をしたけれど、自分も勝利に貢献できたと感じられる。それがやりがいです」と福田さんが話すと、「選手が怪我したら悔しいし、活躍したら嬉しい。それは日本でもアメリカでも変わらない。でもやっぱり、世界最高峰と言われるメジャーリーグで選手を支えられるのは誇らしいです」と渡辺さんが続ける。

シーズン後半も常に笑顔で、しかし力強く選手たちを支えていく。