28歳。
一般的なメジャーリーガーは、すでに実績を重ねている年齢かもしれない。しかし、ジャスティン・ディーンにとっての28歳は、夢の入口だ。
今季、8月に念願のメジャー昇格を果たし、さらにポストシーズンのロースター(出場選手登録枠)にも名を連ねた。しかし、その歩みは決して順風満帆ではなかった。
大学卒業後の、2018年にドラフトでブレーブスに入団。翌年、シングルAで打率.284、9本塁打、47盗塁という数字を残したものの、2020年コロナ禍でマイナーリーグは公式戦が開催されず、中止になった。2023年にはメジャーの春季キャンプとオープン戦に招待されたが、打撃不振でマイナーでプレーした。昨年末にフリーエージェントを選択し、ドジャースに入団した。
マイナーリーガーの平均年齢は23~25歳という中、メジャー経験のないままマイナーでプレーする日々。だが、どれだけ年月が過ぎても、ディーンは夢を諦めなかった。
「野球は僕の『プランA』。ほかの道を考えたことはない」
そう言い切る。
米国南東部サウスカロライナ州の出身で野球を始めたのは5歳の時。中学まではバスケットやアメフトもプレーしたスポーツ少年だった。高校では野球一本に絞り、「お前のスピードは外野向きだ」というコーチのアドバイスで外野手に専念し、守備と走塁を磨いた。
「野球は本当に難しい。だからこそ、うまくいった時の達成感が大きい。特に打撃では、ずっと追い求めてきたスイングが結果につながった時の満足度がとても大きい」と野球の魅力を語る。
173センチ、84キロと小柄だが、大学、そしてマイナーでも全力で、必死に食らいついた。「プレーさせてもらえる限り、野球を続けたいと思っていた。幸運なことに、チャンスをくれるチームがあって、自分はそれを逃さなかった」と胸を張る。
今季はドジャースの3Aからスタートし、90試合で打率.289、OPS.809、27盗塁をマーク。守備と走力が評価され、8月8日にメジャー昇格を果たした。
デビューの日、駆けつけた両親の前でプレーした日のことは一生忘れない。「時間はかかったけれど、全部この日のためにあったと思った」と笑顔を見せる。
9月29日、ドジャース本拠地のクラブハウスに、ディーンの姿があった。
ポストシーズンでの自らのロスター入りは「いい意味でサプライズだったけれど」と笑顔を見せ、こう続けた。
「でも、サプライズじゃない部分もった。自分の技術がチームにフィットしていると信じていた。特に終盤の守備固めや代走など、必要とされる局面はあると分かっていたから」と冷静に自己分析する。その言葉通り、ディーンはチームにとって『スペシャリスト』とも言える存在だ。爆発的なスピードと守備力は、接戦の終盤にこそ価値を発揮する。スター選手とは異なる役割だが、それは代えのきかない重要なピースだ。
メジャー昇格後は、打撃でも成長を重ねた。メカニクスの微調整に加え、相手投手の傾向を把握したうえでのアプローチ、配球を分析し、自分の強みと結びつけて打席に立つようになった。
黒人の野球選手として、ディーンは同じ背景を持つ若い世代への道しるべになりたいという使命も持つ。黒人選手は年々、増加傾向にあるが、それでもまだ野球の世界ではマイノリティだ。
「子どもの頃、メジャーを見ていて、自分と似た見た目の選手を自然と探した。そういう選手がいるだけで、親近感が湧くし、自分もやれるかもしれないって思えるから」
メジャーリーガーになった今、改めて大舞台に立つ意味を感じている。
「僕のプレー、振る舞い、人間性を通じて、野球を目指す黒人の子どもたちのロールモデル(理想)になりたい。野球をやっていない子にも何か感じてもらえたらうれしいんだ」
28歳でメジャー昇格、ポストシーズンのロスター入りを果たしたが、「まだゴールじゃない。ようやくスタートラインに立ったという気持ち。これからもチャンスがある限り、自分の力を証明していきたい」ときっぱり。
「野球で生きる」と信じ続けたディーンの「プランA」は、まだ始まったばかりだ。