厳しいポストシーズンの戦いと、メジャーリーグの舞台で戦うのは、選手だけではない。多くの人が、選手が全力でプレーするために支えている。フィリーズでセラピストとして働く玉那覇凌(たまなは・りょう)さんもその一人だ。
一日の開始は早い。試合開始の6~7時間前に球場に入り、メディカルスタッフやコーチ陣と打ち合わせし、その日出場する選手の状態や、コンディショニングの方針、一日の流れを共有し、作成されたマッサージ・施術のスケジュール表に従って、選手一人ひとりと向き合う時間がスタートする。限られた時間の中でベストなケアをするためには、日々の観察と信頼関係がものを言う。
「何より大事なのは、自分自身がいい状態で選手を迎えること。セラピスト自身の心と身体が整っていなければ、相手の不調にも気づけませんから」
大学まで投手としてプレーをした玉那覇さんは、肘のケガでトミージョン手術を経験。必死のリハビリの結果、投手復帰を果たしたが、大学で野球をやめ、アスリートをサポートする道を選んだ。
「自分と同じような経験をする選手を減らしたい。また、ケガした選手をサポートしたいという気持ちが強くなりました」
玉那覇さんの施術は、ソフトティシュとディープティシュの手技療法、さらに可動域バランスに特化した優しい整体を組み合わせたオリジナルスタイルだ。「整体はごく弱い刺激でありながら、深く効きます。身体の状態は一人ひとり異なるので、施術前に動きや表情など、練習中の様子も含めて丁寧に観察します」と玉那覇さんは語る。
施術前後の変化を確認し、次回に向けた計画を立てることも重要な仕事だ。日々の会話から選手の本音を引き出し、身体に触れる前の「非言語情報」もコンディションを見極める手がかりとなるため、時間が許す限りグラウンドに足を運び、選手の練習にも目を配っている。
「僕の仕事は『治す』ことではなく、選手と一緒に、日々の身体の状態を『つくっていく』感じです」
長いシーズンを、異なる天候、条件下、そして長時間の移動が伴うメジャーリーグでは、完璧な状態の選手の方が少ない。特に「一戦必勝」のポストシーズンでは、不調を抱えたまま試合に臨む選手もいる。重要なのは『わずかな変化に気づけるか否か』だ。
「可動域の変化は、身体のバランスを見抜く重要な手がかりになるので、毎日のケアの積み重ねが、シーズンを通して大きな差を生むと思っています」
その日のコンディションを見極めながら、アスレチックトレーナーやフィジカルセラピストと連携し、選手を最高の状態で試合に送り出す。選手の状態が徐々に回復し、パフォーマンスにその成果が現れる過程には苦労も伴うが、それ以上に大きなやりがいがある。
フィリーズは地区シリーズ(NLDS)でドジャースに連敗し、あとがない状況だ。それでも選手たちを支え、1勝をもぎ取るために、最後まで全力を尽くす。
写真: Miles Kennedy