【前編・ブルージェイズ】MLB実況アナウンサーがみる、ワールドシリーズ

〜コミッショナーズ・トロフィーは、ナイアガラの滝を渡るのか〜

October 24th, 2025

澄み渡る秋空。キリッとした10月の風が、緊張感を運びます。162試合のレギュラーシーズンを勝ち抜いた、精鋭たちが集うポストシーズン。October Baseballとも称される世界最高峰の戦いは、ついにクライマックスへ!

大いなる球道を極め、晴れ舞台の頂きを手にするのは。21世紀初の連覇を目指す昨年の王者ロサンゼルス・ドジャースか。1992、93年の連覇以来、32年ぶりの出場トロント・ブルージェイズか。さあ!Fall Classicの熱気に、飛び込みましょう!Welcome to the World Series!

今年、MLB全30球団の試合を実況した、スポーツブロードキャスターの福田太郎が、「ワールドシリーズの観戦がより一層楽しくなるような小噺(こばなし)」をお届けします。

ーカナダが誇るMLB球団ー

トロント・ピアソン国際空港に到着すると、冬の足音を感じさせる、真っ白な吐息が…。11月には雪が降り始める北緯43°の北国で、2025年のワールドシリーズは幕を開けます。

トロント・ブルージェイズは、現在のMLBで唯一、アメリカ国外に本拠地を置く球団です。今から48年前の1977年、リーグ拡張(Expantion)で、シアトル・マリナーズとともに誕生。2005年にモントリオール・エクスポズ(現ナショナルズ)がワシントンD.C.に移ったことで、野球を愛するカナダの人々が、国全体で応援するチームになりました。

その名の由来は、オンタリオ州鳥「Blue Jay(アオカケス)」です。チームカラーでもある鮮やかな青い鳥は、球団ロゴにも採用されています。マスコットキャラクターの「エース」も、子どもたちの人気者です。

ブルージェイズが試合を行うときの見どころは、ナショナル・アンセム。「アメリカ国歌」に加えて「オー・カナダ」も演奏され、神聖な空気に包まれます。

ーカナダ野球のホーム球場『ロジャースセンター』ー

カナダ最大の都市トロント。球場までは、国際空港からは車で20〜30分。特急列車UPに乗れば、街の中心部までアクセスできます。牧歌的な景色から近代的なダウンタウンの街並みが見えてきたら、目的地はもうすぐそこです。現在は世界で3番目に高い553mの塔「CNタワー」(開業から2007年までの “32年間” は世界一高いタワーだったそう)を目印に。多文化が融合する国際都市の、ど真ん中で、Rogers Centre! Nice to meet you!!!

1989年の開業時は「スカイドーム」の愛称で親しまれていました。当時では最先端の「開閉式屋根」を備え、春先、秋口の寒さが厳しい雪国でも、天候に左右されることがなくなったのです。

ボールパークを中心に、街はみるみるうちに発展を遂げ、今では巨大なビル群が立ち並ぶように。外野後方に隣接する高層ホテルの客室からは、世界で最も高い位置?から、試合観戦ができます。

今回のワールドシリーズ記者会見でロバーツ監督に "カナダの思い出" を聞いてみると「ドジャースのメンバーとして、センターフィールドにあるホテルの部屋に泊まったことがあって、楽しかった!」と笑顔で話してくれました。

2022年〜24年のオフシーズンには、約4億ドル規模の大規模改修が行われ、インテリアが一変。“新時代の観客”に合わせてアップデートされ、「アウトフィールド・ディストリクト」には、季節ごとのシグネチャーフードや、ラインナップ豊富なカクテルを揃えたバーなどの飲食体験があります。さらには、バンドの生演奏や、楽しいゲームなど、老若男女が集える場所が新設されました。

「パーク・ファクター」と呼ばれる野球場としての特徴は、昨季2024年の最新データで「得点・本塁打・安打」のいずれも「100」。MLB30球団で最もニュートラルとのデータが出ています。

※パーク・ファクター:球場の特性が攻撃成績に与える影響を数値化した指標。平均を100とし、100以上なら打者有利、100未満なら投手有利とされる。

ー162試合の歩みー

今季のブルージェイズは、94勝68敗でニューヨーク・ヤンキースと同率で並んだものの、直接対決で8勝5敗と勝ち越したため、ア・リーグ東地区優勝を飾り、2015年以来となる地区制覇を達成しました。最後の1日まで、一瞬たりとも気が抜けないレギュラーシーズンでした。

ー2025年ポストシーズンー

ア・リーグ地区シリーズ(ALDS)では、ワイルドカードを勝ち上がったヤンキースと再戦。ポストシーズンでは初めてのマッチアップながら、シーズン中同様の相性の良さでア・リーグ優勝決定戦(ALCS)へ進みました。相手は、同じく1977年に誕生した新しい球団マリナーズ。初めてのワールドシリーズ進出とア・リーグ優勝を目指す、西地区優勝チームです。ブルージェイズは、本拠地開催の最初の2試合を落とすも、第3戦以降に打線が爆発。見事な巻き返しを果たし、最終第7戦で決着しました。ジョージ・スプリンガー(2017年WS MVP)の逆転3ランホームランで劇的勝利を挙げ、32年ぶり のリーグ制覇を成し遂げました。

レギュラーシーズンMLBトップのチーム打率をポストシーズンでも遺憾なく発揮。主砲ブラディミール・ゲレーロJr.は、ALCSのMVPに選ばれ、全試合を通じて打率.442、6本塁打という驚異的な成績を残しました。不振と言われた過去のプレーオフから一転、自身初のワールドシリーズ進出に貢献し、男泣きを見せたのです。それはカナダへの愛が溢れた瞬間でもありました。

投手陣も魅力たっぷり。強力な先発陣は、エースのケビン・ゴーズマンを中心に、鬼気迫る投球を見せるマックス・シャーザー、夏のトレードでガーディアンズから加入したシェーン・ビーバー(2020年サイ・ヤング賞)に加え、9月にMLBデビューした22歳のルーキー、トレイ・イェサベージなど、新戦力も躍動しています。ベテランのクリス・バシットが先発から中継ぎに回り、ブルペンには、元中日ドラゴンズのジャリエル・ロドリゲスや、守護神のジェフ・ホフマンも控えています。

ーブルージェイズ、縁の下の力持ちー

快挙の立役者をご紹介しましょう。ベースボールオペレーション部門のアシスタントに今季就任した、加藤豪将(ごうすけ)さんです。2013年にヤンキースからドラフト2位指名を受け、マイナーリーグで鍛錬の日々を過ごし、2022年にブルージェイズでメジャーデビューすると、その翌年、アメリカ生まれの逆輸入選手として、北海道日本ハムファイターズに入団。昨季限りでユニフォームを脱ぎ、古巣の球団職員に転身しました。選手時代の経験と、高いコミュニケーション能力を武器に、現在は「フロントとアナリスト、コーチと選手の“橋渡し役”」として、円滑なチーム運営に貢献しています。この夏にお話を聞くと「コンタクト率・守備・走塁で勝つという “日本式” とも言えるコンセプトが見どころです!」と教えてくれました。

そんな豪将さんは、とても素敵な人柄の持ち主。ALCSを制覇した感謝のインスタグラム投稿では「選手として14年、監督として12年、そしてコーチとして17年。Don Mattinglyさん、43年目で初のワールドシリーズ一緒に世界一をつかみにいきましょう🔥」と、64歳の大先輩への敬意を忘れませんでした。どこまでもナイスガイな、豪将さんの活躍にも注目です。

ーブルージェイズと日本人選手の思い出ー

豪将さん以外にも、大家友和さん、青木宣親さん、五十嵐亮太さん、山口俊さんと、日本人選手もこれまで数多く在籍してきた縁深い球団です。特に2013~15年に所属した川﨑宗則さんのインパクトは、今でもファンの記憶に刻まれています。「My name is Munenori Kawasaki. I am from Japan. I am Japanese!」内野手としての活躍はもちろん、持ち前の明るいキャラクターで、ムードメーカーとしても愛されました。

体が攣(つ)った試合からどう復活したか問われたインタビューでは「Monkeys never cramp.(猿は痙攣(けいれん)しない)ムネもバナナを食べたから大丈夫!」とジョークをかましてみせました。

「I love baseball!」「I love Canada!」

川崎さんが繰り返したこの言葉を、カナダ中の野球ファンは、心から叫べる日を、待ち望んでいます。

ーブルージェイズとワールドシリーズー

今回が3度目のワールドシリーズ出場。過去2回はいずれも優勝(1992年、1993年)です。1992年、球団創設16年目で初めてつかんだ栄冠は、カナダのみならず世界中の野球ファンに鮮烈な印象を与えました。当時、トロント市内では100万人規模(当時のトロント人口の1/4)が集まった優勝パレードで、国民的な祝賀ムードとなったそうです。

翌1993年はジョー・カーターが第6戦、1点ビハインドの九回裏に逆転サヨナラホームランを放ち、2年連続の世界一に輝きました。「Touch 'em all, Joe!(全ての塁を踏みしめろ、ジョー!)これ以上の本塁打は一生ないだろう!」という当時の実況の名フレーズも、MLB史に残る快挙だったことを物語っています。

その後は、長らくワールドシリーズから遠ざかっていました。しかしながら、ポジティブに捉えると「出場すれば、必ず優勝する」という、ある種の “不敗神話” は、今もなお、続いているのです。コミッショナーズ・トロフィーは、32年ぶりにナイアガラの滝を渡るのか。Fall Classic・ワールドシリーズ、いよいよプレイボールです!

Profile/福田太郎(ふくだ・たろう)

1年間でMLB全30球場を制覇した、日本唯一のアナウンサー。今季メジャーリーグに専念し、全30チームの実況を担当した。2022年には休職し、アメリカで球団経営を学んだ。2016年ANNアナウンサー賞最優秀新人賞。2014年早稲田大学卒。アンダースロー投手。

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