【後編・ドジャース】MLB実況アナウンサーがみる、ワールドシリーズ

〜21世紀初の連覇へ、新たな王朝は築かれるのか〜

October 25th, 2025

澄み渡る秋空。キリッとした10月の風が、緊張感を運びます。162試合のレギュラーシーズンを勝ち抜いた、精鋭たちが集うポストシーズン。October Baseballとも称される世界最高峰の戦いは、ついにクライマックスへ!

大いなる球道を極め、晴れ舞台の頂きを手にするのは。21世紀初の連覇を目指す昨年の王者ロサンゼルス・ドジャースか。1992、93年の連覇以来、32年ぶりの出場トロント・ブルージェイズか。さあ!Fall Classicの熱気に、飛び込みましょう!Welcome to the World Series!

今年、MLB全30球団の試合を実況した、スポーツブロードキャスターの福田太郎が、「ワールドシリーズの観戦がより一層楽しくなるような小噺(こばなし)」をお届けします。

ー球団初の連覇に向けてー

さかのぼること、今から142年前。1883年に創設された伝統のある球団は、1911年から「Dodgers」と名乗り、8度の世界一に輝きました。長い球団史の中で、様々な記録を達成しながら、ワールドシリーズの連覇は未達です。メジャーリーグ全体においても、21世紀に入ってからはどのチームも成し遂げていません。前回は1998年〜2000年にニューヨーク・ヤンキースが3連覇を果たしたとき。当時のメンバーは、皆さんの記憶にも残っていることでしょう。“ザ・キャプテン” ことデレク・ジーターさん、イチローさんが固辞した背番号「51」を身につけていたバーニー・ウィリアムスさん(のちに永久欠番)、野球殿堂入りの守護神マリアノ・リベラさん、そしてアジア人初のワールドチャンピオン伊良部秀輝さんと、今日も語り継がれる名選手ばかりです。

今のドジャースにも、同じことが言えるかもしれません。クレイトン・カーショウ、フレディ・フリーマン、ムーキー・ベッツ、そして大谷翔平…。MVP獲得経験のあるスター選手たちが、名実ともに伝説のヒーローになる瞬間を見届けるあなたは、いわば歴史の証人なのです。

ードジャースタジアムー

1958年にチームがロサンゼルスへ移り、1962年にドジャースタジアムが生まれました。ボストン・レッドソックスのフェンウェイパーク(1912年開業)とシカゴ・カブスのリグレーフィールド(1914年)に次ぐ、今やメジャーリーグで3番目に古いボールパークです。それでも毎年のように改築(球団の言葉を借りるとUPGRADE)を重ね、その輝きは増すばかり。2021年には「センター・フィールド・プラザ」という新エリアが誕生しました。球場の顔となった新たな玄関口では、ブルックリン時代のレジェンド、ジャッキー・ロビンソンさんやサンディ・コーファックスさんの像と言葉がファンを出迎えます。美味しいグルメや楽しいイベント、キャラクターたちとのグリーティングなど、みんなで楽しめる場所になったのです。

「ボールパークといえばホットドッグ!」というカルチャーを作ったのも、ドジャースタジアムと言われています。伝統の「ドジャー・ドッグ」は、ジューシーなソーセージが、柔らかいパンに包まれているという至ってシンプルな逸品。ですが、世界で一番売れているホットドッグ「The World famous Dodger Dog」なだけあって、青空の下、ビールと一緒にいただくと相性抜群です。

球場を懐かしい雰囲気で包み込み、ときにドラマティックに盛り上げるオルガンの演奏も、大事な要素のひとつです。オルガニストは「夢の仕事」だと言うディーター・ルールさん。あらゆる曲を即興で演奏できる、腕利きの奏者です。ロサンゼルスで生まれ育った彼の幼い頃の思い出は、ドジャースタジアムで美しいオルガンの音色を聞いたこと。日本人選手や日本からのファンのために、自身も大好きな日本の音楽を取り入れるなど、聴く人へのリスペクトも大切にしています。試合展開に応じて音楽を流すDJの役割も担い、無数のボタンを駆使して、ミュージックやチャントでチームを鼓舞します。勝利が決まると『I Love L.A.』を流しているのも彼。ワールドチャンピオンの次の夢は、日本で演奏することだそうです。

ー162試合の歩みー

日本での開幕、さらには世界王者として、8連勝でスタートした2025年。夏には5人がオールスターに選出され、秋には球団史上初の年間来場者数400万人を突破し、13年連続のポストシーズン進出を決めました。フリーマンの通算350号や、大谷翔平の球団最多記録更新の55号ホームランなど、数多くのマイルストーンも達成されました。

その輝かしい成功の裏には、地道な積み重ねもありました。個々の能力の高さや経験の豊富さはもちろんですが、私が強調したいのは、ベテラン勢の 「野球に取り組む意識の高さ」です。ドジャースタジアムへ取材に行くと、午後7時頃プレイボールのナイトゲームの場合、試合開始の5時間前の午後2時には、選手たちがグラウンドで練習を始めます。ミゲル・ロハス、フリーマン、ベッツなどのスター選手たちでも、「早出特守」と呼ばれる練習に参加。地面に膝を付いてのハンドリング、「パンケーキ」というあだ名がついた手のひらサイズのグラブを身につけての捕球確認、そして実践さながらの集中力でノック。大切にしているのが、基礎の繰り返しです。

大先輩もこんなに頑張っているのだからと、刺激を受けた若手も加わり、良い循環が生まれています。守備と走塁にスランプはないとは言いますが、常に向上心を持ち、不断の努力で技術を高めているからこそ、大舞台の緊迫感をも凌駕し、いつも通りのパフォーマンスができるのでしょう。特にミスが許されないワールドシリーズでも、真の強さを発揮するはずです。

ーITFDBー

私たちの心に残っているのは、選手だけではありません。「It’s time for Dodger Baseball!」試合の始まりを告げる名台詞。67年の長きにわたって「ドジャースの声」として愛されてきたビン・スカリーさんもまた、その一人です。知的な言葉を紡ぐ、エレガントな実況スタイルで「20世紀で最も偉大なスポーツ・アナウンサー」とも言われたスカリーさん。94歳で亡くなる6年前の2016年まで、ドジャースのために声を出し続けました。

野球を通して、人と人とを繋ぎ、歴史の架け橋であった彼の意志は、新時代のアナウンサーに引き継がれています。今年来場者プレゼントのボブルヘッドにもなったジョー・デービスさんや、日本にもルーツを持つスティーブン・ネルソンさんの声にも耳を傾けてみてください。

ー道を拓いた日本人ー

現在、3人の日本人選手が活躍するドジャースは、彼らを含めてこれまでに12人がプレーしてきました。これは、野茂英雄さんが、日本人として初めてドジャーブルーのユニフォームに袖を通す、はるか昔のお話です。1965年、単身アメリカへ渡り、ドジャースの球団職員になったアイク生原(生原昭宏)さんは「野球はプレーするだけじゃない」と、日本から海を渡った人たちのサポートを献身的に続けました。当時の会長、ピーター・オマリーさんの補佐として、日米野球の交流に尽力し、日本の野球殿堂にも入った、いわば日米野球の架け橋です。今、こうして日本人選手が世界最高峰の舞台に挑戦できて、私たちがメジャーリーグを身近に感じられるのは、アイクさんのおかげだと、ドジャースの歴史が教えてくれました。

ードジャースとワールドシリーズー

特別なシーズンのクライマックスには、負けられない理由があります。チームの功労者、殿堂入りも確実視されるベテラン、クレイトン・カーショウが、今季限りでユニフォームを脱ぎます。達成した偉業は数知れず、通算223勝、3052奪三振、3度のサイ・ヤング賞、11度のオールスター選出、MVP、ロベルト・クレメンテ賞(グラウンド内外で慈善活動に献身的な人格者に贈られる栄誉賞)、ゴールドグラブ賞、そして2度のワールドチャンピオン。誰よりもストイックに練習し、準備を怠らないその姿勢が、チーム文化の基礎を築き上げてきたのです。引退を発表する記者会見には、チームメイトが大集合。涙ぐみながら全ての人への感謝の気持ちを伝えると、仲間たちやファンからの惜別と称賛の声が共鳴しました。

2006年にドラフト1位で入団して以降、ドジャース一筋18年。37歳まで、その左腕を振り抜いてきたからこそ「頂点に立つという究極のゴールのため、最後の勝利を掴む」と語ったカーショウは、キャリアの集大成は「初めての連覇」で飾りたいと、強く願います。昨季、ドジャース移籍初年度でワールドチャンピオンに輝いた大谷翔平は「Alright. 9 more, 9 more!」と言いました。

カーショウの想いが次の世代に繋がり、10年続くような新王朝が爆誕するのか。Fall Classic・ワールドシリーズ、いよいよプレーボールです!

Profile/福田太郎(ふくだ・たろう)

1年間でMLB全30球場を制覇した、日本唯一のアナウンサー。今季メジャーリーグに専念し、全30チームの実況を担当した。2022年には休職し、アメリカで球団経営を学んだ。2016年ANNアナウンサー賞最優秀新人賞。2014年早稲田大学卒。アンダースロー投手。

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