話題の「トルピード(魚雷)バット」の生みの親は?

開発者はMITで博士号取得の秀才

April 6th, 2025

ヤンキース打線の大活躍で大きな話題になっている「トルピード(魚雷)バット」。

このバットを生み出したのはマサチューセッツ工科大学で物理学の博士号を取得した秀才のアーロン・リーンハートだ。昨年までヤンキース、今季からはマーリンズのフィールド・コーディネーターを務めるリーンハートとは、そもそも何者なのだろうか。

米公式サイト「MLB.com」のクリスティーナ・デ・ニコラ記者によると、現在48歳のリーンハートはミシガン大学で電気工学の学士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)で物理学の博士号を取得。MIT在学中、同氏はNASAの資金援助を受けた研究に参加し、ナトリウムガスを史上最低温度まで冷却した経験もある。同氏はその後、ミシガン大学で物理学の教授を務めた (2007-14)。

一見、リーンハートの経歴は野球に関りがない物理学の秀才のそれだ。ミシガン大時代、同大の強豪野球部のセレクションを受けたが不合格になったが、「楽しかったから」と野球との繋がりを保ち続けた。2017年から大学、そして大学の野球リーグのチームのアシスタントコーチに就任すると、2018年にも大学のサマーリーグのボランティアアシスタントコーチを経験。そして、2018年の後半からヤンキースに雇われ、マイナーリーグの打撃コーチからメジャーリーグのアナリストまで幅広い役職を歴任した。

リーンハートはヤンキースで定量的なデータをフィールドでのパフォーマンスや練習と統合し、分析部門とコーチ陣のパイプ役を務めていた。そしてマイナーでアシスタント打撃コーディネーターを務めていた2022~23年に、リーンハートは「トルピード・バット」のコンセプトを思いつく。

「選手たちがボールを当てる場所がバットの一番太い部分ではないと気づいた時に、バットのコンセプトが閃いた」と、従来の野球バットは芯の部分が太くないことに気付かされた。

芯の部分が太く作られる「トルピードバット」を思いついてから成功への道のりは平坦ではなかった。選手たちはデザインについて意見を出し、リーンハートは設計図を作成し直し続けた。彼は、2023-24年に最初のバットのデモに協力してくれた「患者第一号」たちのおかげで、今日の画期的なモデルが生まれたと評価している。

芯の部分に当てようとバットを振るのではなく、そもそも芯の部分を太くしてしまえばいい。この逆転の発想に、球界は今日に至るまで辿り着かなかった。

「僕自身も含めて、おそらく誰もこのことについて真剣に考えたことはなかった。毎日試合に出て、与えられたグローブをはめ、与えられたバットを振り、与えられたスパイクをはめて、できる限りベストを尽くして一日を過ごす」

リーンハートはこう続ける。

「自分がやっていることに疑問を持つには時間がかかることもある。数年前、何人かの打者が自分たちのやっていることに疑問を持ち始めた。私はただ彼らの疑問に答えただけだ」。