【記者の目】3年前、ダルビッシュが危惧したこと

March 23rd, 2026

およそ3年前。ワールドベースボールクラシック(WBC)、日本代表「侍ジャパン」が優勝し、迎えた2023年シーズンの途中だった。パドレスのダルビッシュ有(39)は、日本球界への熱い思いを明かした。

「日本の球界がアメリカの球界を超えてほしいんですよ。日本の球界が(世界の)中心になってほしい。アメリカの選手たちが日本の球界ってすごいね、日本でプレーしたい。(MLBでの)キャリアが終わってから1年行きたいとか、そういうのじゃなくて、レベルが日本の方がトップだから(行きたい)、っていう球界になってほしいんですよ」

はじめに断るが、この記事ではNPB(日本プロ野球機構)を批判したいわけでもなく、WBCで侍ジャパンの敗退を非難したいわけではない。私が過去に取材したダルビッシュの言葉から球界発展への“ヒント”があったのではないか、と考察する。

その上で前回優勝後、ダルビッシュが心配していたことがある。以下は、2023年8月に取材した当時のコメントだ。

「今回(2023年大会が)終わってから、僕にWBCのことで『どういう問題がありましたか?』とかメジャーリーグ(の選手たちを日本代表に)を呼ぶことによって、NPBとか侍ジャパン(の関係者)からは何一つ、聞かれていない。次のWBCでどうやったら今年(2023年)よりも良くなるか、という議論が一切ないじゃないですか。見えているゴールが違う、僕と向こう(NPB関係者)が」

祝福ムードで周囲が喜んでいる姿をみながら、すでにダルビッシュには危機感があった。

「確かに決勝でアメリカに勝ちましたけど、試合展開を見たら基本的には先発のトップレベル、日本のトップレベルの選手が短いイニングをつないで、自分の思いっきり120パーセントの力でいって、なんとか勝ったってことなんですよ。そうじゃなくて、先発だったら5、6イニングを普通に投げて中継ぎのベストが出てきてってとかだったら分かるんですけど、もう(全力を)振りしぼって勝っている」

いわゆる正攻法の戦術や継投でアメリカ代表やドミニカ代表、ベネズエラ代表に勝ちたい。そのために『優勝してよかった』で終わらせてはいけない。今後、日本野球が世界の中心になるべくNPBと選手らが「ゴール」を共有し、取り組まなければいけない。組織全体で同じ方向で強化しなければ、世界一は遠のく。3年前にダルビッシュは肌で感じていた。

ダルビッシュは、23年大会に参加した際にNPBの若い選手が自ら考え、学び、技術が上がっていることは理解できた。しかし、組織や日本球界の構造に物足りなさを感じた。いわゆる“上の人”や指導者が、もっと世界の野球を学んでほしい、WBCという一つの国際大会で優勝するだけではなく、日本球界が世界一の野球界になってほしい、という願いを強くした。WBC連覇を目指し、同時にその難しさを誰よりも早い時期に理解していた人物がダルビッシュだったのかもしれない。

「(2023年大会では米国代表と)10回やったら2回勝てるかな?(という実力の差)を1回目に(勝てる状況に)持ってきたっていう話じゃなくて、もっと(強国に)コンスタントに勝つために底力をバンと上げる必要は絶対ある」

日本がアメリカ、ドミニカ共和国、ベネズエラなどの野球大国に自力で勝つための強化が、根本的に必要だ。そのために日本全体で考えなければいけない。「底力をバンと上げる」取り組みをしなければ、世界基準から遅れるどころか、世界との差が広がってしまう。そんな危機感があったのかもしれない。フィジカルの強化、データへの理解と運用方法、MLB基準のルールへの対応…。WBCがMLB主導の大会である以上、そしてMLBが世界最高の野球リーグである以上、日本は常に挑戦する立場だ。

今大会、準々決勝で敗退直後、大谷翔平(ドジャース)が「力で最後は押し切られた印象」と振り返ったように力負けだった。パワーとスピードの真っ向勝負で敵わなかった、という現実がある。あるメジャーリーガーは今大会後、「采配や選手の調子とか関係なく、力の差があったと思いました」と振り返った。

3年前、優勝の喜びの一方で潜在的な“落とし穴”をダルビッシュは心配していた。日本に足りないこと。その一つがテクノロジーを使う理解だった。指導者の経験と感覚だけではなく、科学的な分析で上達や強化のため、あるいはケガの原因究明と治療に複数の選択肢を用意する。それらの不足を懸念していた。

「一つの結果に対して、勉強をして原因をなるべく多く出す」そして「すぐに結論を出さない」。

選手の上達が指導者の経験と知識に頼るだけではなく、テクノロジーを活用して選択肢を複数示す。正解へ最短でたどり着く確率を高めなければいけない。限られた現役生活の時間でなるべく遠回りせず、最適解を得る取り組みは、選手のみならず組織全体が考えるべきことだ。

日本球界は進歩している。選手の成長もめざましい。

しかし、世界の野球は日本より速いスピードで発達し、強くなっている。日本の外に目を向け、それに気づかなければいけない。3年前からダルビッシュは危惧していた。

当面、NPBの課題は『次の侍ジャパンの監督を誰にするか?』という人選。しかし、それと同時に世界レベルに取り残されないためにやるべきことを明確化することもまた重要ではないだろうか。

NPBにピッチクロックの導入や、ボールが飛ぶか、飛びにくいか、などの問題は一部に過ぎない。ダルビッシュの願う「日本の球界がアメリカの球界を超えてほしい」という未来に反対する野球人はいないだろう。そのために球界が一枚岩になってほしい。WBCベスト8敗退は、日本球界に潜在する問題の原点を見つめる絶好の機会にできるはずだ。