ダルビッシュ、苦難乗り越えつかんだ1勝

メッツ戦で今季初勝利&日米通算204勝

July 31st, 2025

パドレス5−0メッツ】サンディエゴ/ぺトコパーク、7月30日(日本時間31日)

パドレスのダルビッシュ有(38)が5度目の先発に臨み、7回で76球を投げ、2安打無失点の好投で今季初勝利(3敗)を挙げた。日米通算204勝(MLB111勝、日本ハム93勝)で黒田博樹(広島、ドジャース、ヤンキース)を抜き、日米通算の勝利数で歴代1位に立った。右肘の負傷で投手生命の危機に直面しながら、“5度目の正直”で記念の白星をつかんだ。

新しいダルビッシュで挑んだ。

右肘を下げ、サイドスロー気味に“変身”した。スライダー、スプリットは両サイドの低めに決まる。カーブの緩急で打者は、面食らったように空振りした。左足を挙げるタイミング、タメをつくる時間にバリエーションをつける工夫。チームの勝利に貢献するため、今あるすべての技を駆使して、メッツ打線を封じた。最速は95.0マイル(153キロ)。パワーピッチで圧倒したわけではない。それでも、2安打はシングルヒットのみ。二塁を踏ませなかった。六回2死でビエントスを空振り三振。マウンドを降りながら、雄たけびをあげた。

「フォーム全体的のタイミング、自分の位置をみたときに(今までは)ちゃんとしていなかった。肘を下げることで割とコンパクトになったというか、自分の中で納得できるフォームになった感じがした」

5点リード。八回にアダム、九回にクローザーのスアレスを注ぎ込む必勝リレーで5連勝。ゲームセットで勝利のハイタッチが終わると球場ビジョンには日米通算204勝を祝福するメッセージが表示された。

「選手はみんな誰も(記録を)知らなかった。でも休みの前にデーゲームで勝てたことはすごくよかった」

試合後は苦笑いしたが、バックの好守備、主砲マチャドの先制&決勝2点タイムリーなど攻守がかみ合った。

柔軟に、そして思い切った決断だった。“サイドスロー”にモデルチェンジした。米データサイトなどによると、この日の腕の角度は球種によって従来の平均より約6〜10度、リリースポイントを下げていた。左足を挙げ、上体をやや三塁側に傾けながら並進運動に入る。2日前のブルペン投球時に試していた。さらに前日29日、球団アドバイザーを務める野茂氏がクラブハウスを訪問。サイドスローで投げたビデオをチェックしてもらうと「ええやん」と背中を押してもらった。

「野茂さんが言ってくれるなら、いける。正直にいつもいってくださるので。悪いときは、悪いといってくださる」

お墨付きを得て、公式戦で投げることを決めた。2安打無失点で七回を投げ終わると平日のデーゲームにも関わらず満員となった4万2627人の大観衆から「Yuuuuuuuu!!!!!!!」の歓声が響いた。

メジャー14年目のキャンプは順調に過ごしていたはずだった。しかし、右肘に炎症が起きたのは3月中旬で、開幕は負傷者リスト(IL)に入って迎えた。順調にリハビリが進み、迎えた5月14日のマイナー戦。51球を投げた登板後に再発した。医師らの診断を受け、右肘への負担から「スライダーを諦めなきゃいけない」かもしれない事実に直面。投手生命の危機だったが、心を乱すことは一切なかった。

「よくも悪くも最近は感情でバーっと(精神が)揺れない。別にああ、そうなんだ、と。そこから何ができるか、ということだけ考えていました」

登板間の調整、回復方法、再発防止策。21年の現役生活で培った経験で対処した。

「もちろん、うれしいですけれども、まだ黒田さんや野茂(英雄=日米通算201勝)さんのようなピッチャーではないと思う。数字ではなくて、本質的に近づけるようにこれからもしっかりやっていきたい。ここまで何もしていないのでうれしくない気持ちもあったりして、複雑です」

エースとして期待されながら、復帰が遅れた責任を感じている。1勝目を挙げたこの日、チームは109試合目。だからこそ、プレーオフを含めた残りのシーズンでは離脱することなく投げ続けたい。

「やっぱり帰ってきてから全然、貢献どころか逆効果ぐらいのピッチングをしていたんで、それが1試合だけですけど、いいピッチングができてそこはホッとしてますね」

先発して、チームの勝利に貢献する。唯一最大のモチベーションを抱え、ダルビッシュは次回先発で2勝目を目指す。