ABS(ハイテク機器でのストライク・ボール判定=ロボット審判)でのチャレンジ制度が2026年シーズンから導入されることが正式に決まった。
共同競技委員会は、数年間行われたマイナーリーグでの試験運用と今季のオープン戦、およびオールスターゲームでのテストを経て、T-モバイルの技術を基盤とする自動ボール・ストライク(ABS)チャレンジ制度をメジャーに導入することを採択した。
「ファンの声を聞くことから始め、マイナーで徹底的に検証し、あらゆる段階で競技の質を高めようとしてきた。こうした過程を通じて、選手が受け入れられる導入方法を模索してきた。すべての投球判定をテクノロジーに委ねる方式(=すべての投球が自動でストライク・ボールの判定がされ、球審はイヤホンから聞こえる判定をコールする方法)よりも、(まずは人間の審判員が判定してから)チャレンジ方式を望む、という選手の強い意向が、今回の決定の重要な要因になった」
MLB機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーは声明でそう述べた。
いわゆる「ロボット審判」がすべてのボール・ストライクを判定する方式と人間の審判に伴うヒューマンエラー(人間味のあるミス)も含めた長年の伝統との中間に位置づけられるABSチャレンジ制度は、試合で重要度の高いボール・ストライク判定について、チームが迅速なリプレー検証を求める機会を与えるものだ。
MLBは2008年以降、ビデオ判定(リプレー検証制度)を導入してきたが、レギュラーシーズンのメジャー最高峰の舞台で、球審のボール・ストライク判定が「絶対」ではなくなるのは今回が初だ。
Hawk-Eye(ホークアイ)技術(高性能カメラでの分析)が稼働し、各投球の位置を打者のストライクゾーンに対して正確にトラッキング(追跡)している。選手は、球審のボール・ストライク判定が間違っていると判断した場合、その判定に対してチャレンジを要求できる。
チャレンジが行われると場内ビジョンとテレビでの放送にすぐさま表示される。
その上で判定は「球審の判定通り」または「判定がくつがえる」とアナウンスされる。
導入されるABSチャレンジ・システムの仕組みと、その運用の詳細は以下。
・各チームはチャレンジを何度できる?
2度のチャレンジ権が与えられる。
・延長戦ではチャレンジが追加される?
延長に入った場合、チャレンジを使い切った状態で10回を迎えるチームには、そのイニングに1度のチャレンジが付与される。
そこで使い切れば11回に1度、以後も同様に各イニングの開始時点で手持ちがゼロならその回に1度追加される。
一方、10回開始時点でチャレンジが残っているチームには10回の追加付与はないが、その後の各回で開始時点の手持ちがゼロなら1度付与される。
・ABSチャレンジ制度は全球場の全試合で使われる?
全てのMLB球場で使われる。
・ポストシーズンでも?
ポストシーズンの試合でもレギュラーシーズンと同じルール。
・チャレンジを宣言できるのは誰?
打者、投手、捕手のみ。それ以外は監督でも不可。
チャレンジは判定直後に即時に行う必要があり、ベンチや他選手の助言は不可。
・チャレンジの合図は?
帽子(打者はヘルメット)に手を当てて審判に意思表示する。
・判定はどのように表示される?
投球結果のアニメーションが、球場のビジョンおよびテレビ中継でほぼ即時に表示される。
・どれくらい時間がかかる?
2025年のオープン戦で試験的にチャレンジを導入した288試合では、1試合平均4.1度のチャレンジがあり、平均13.8秒で処理された。
・成功したチャレンジは保持される?
チャレンジ権は保持される。球審の判定が「正しかった」ときのみ、チャレンジ失敗で権利を1つ失う。
チャレンジには失効リスクがあるため、低い重要度の場面で“浪費”せず、試合終盤や僅差の展開など高い重要度の場面に残すなど戦術性が生まれる。
・スプリングトレーニングでの受け止め方は?
MLBが調査した観客の72%が、チャレンジ制が観戦体験に良い影響を与えたと回答した。
今後については、69%がABS推進を支持し、31%が人間の球審の継続を支持した。
・マイナーではどれくらい検証した?
2019年に独立リーグのアトランティック・リーグでフルABS(全ての投球でストライク・ボールをテクノロジーが判定)を初導入。
2022年にフロリダ・ステート・リーグでチャレンジ制を導入。
2023~24年の3Aではチャレンジ制とフルABSの双方を検証。2024年末までにフルABSは退き、チャレンジ制が継続され、2025年も使用された。
・なぜ“フルABS”ではなくチャレンジ制なのか?
マイナーでの検証で、観客・選手・監督・関係者の多くがチャレンジ制を支持。
主な理由は、競技の“人間味のある要素”を残したいというニーズが根強いこと。
フルABSでは四球が増えて試合が間延びし、投球間隔短縮の効果を相殺する傾向も見られた。
また、捕手が鍛えてきたフレーミングの技術はフルABSでは発揮しにくく、選手の支持が低い。
チャレンジ制は、重要な判定の精度を高めつつ、これまでの野球を急激に変えない折衷的アプローチと位置づけられている。
・なぜ1チーム2度に落ち着いたのか?
2025年以前のマイナーでは、1チーム3度と1チーム2度の両案を試験。
3度案は1試合につき平均5.8度、2度案は同平均3.9度のチャレンジ数となった。
3Aの観客調査では、71%が1試合の総チャレンジ数は4度以下が最適と回答。
2度案は62%の試合でこの条件を満たしたが、3度案は30%にとどまった。
・成功率はどのくらい?
今季のオープン戦では、全コールの2.6%がチャレンジされ、**覆った率は52.2%**(同年の3Aは50%)。
守備側(投手・捕手)の成功率54.4%は、打者の50.0%を上回った。
また、回が進むにつれ、覆る率は低下する傾向(**1~3回:60%/4~6回:51%/7~8回:43%/9回:46%**)。
・ABSのストライクゾーンの定義は?
幅はホームベースと同じ17インチ(約43.2センチ)。
上端は選手の身長の53.5%**、下端は27%**。
奥行きはホームベース前の縁・後ろの縁からそれぞれ8.5インチ(約21.6センチ)。
・人間の球審のゾーンと違いは?
球審のゾーンは一般により丸みがあり投手有利。上端は55.6%**、下端は24.2%**。
影響例として、カウント2-2では球審ゾーンの面積が449平方インチ(約2,897平方センチ)、ABSゾーンは443平方インチ(約2,858平方センチ)だったというMLBの分析がある(球審のストライクゾーンの方がABSより広い)。
・選手の身長差はどう反映する?
春季キャンプに参加した全野手は測定員が手計測する。
その後、研究機関の担当者が精密に計測できる方法で確認して不正を防ぐ。測定はスパイクを履かず直立で行う。
