前回大会、メキシコが日本に逆転を許した準決勝を、アレハンドロ・カークは複雑な思いで画面越しに見つめていた。メキシコ1点リードで迎えた九回、村上宗隆にサヨナラ打を浴び、悲願の決勝進出は目前で消えた。
「あの試合を考えると今でも胸が痛む。でも本当に素晴らしい試合だった」
本来は代表入りしていたが、愛娘の誕生と時期が重なり、無念の辞退。それだけに、今回に懸ける思いはひときわ強い。
仲間たちがあと一歩で届かなかった決勝の舞台へ、今度は当事者として挑む。メキシコ代表の正捕手として初めてワールドベースボールクラシック(WBC)に出場するブルージェイズのカークは、「本当にワクワクしている。前回は出られなかったから」と目を輝かせる。
2026年ワールドベースボールクラシック
これまでは一人の選手、そして一人のファンとしてテレビ越しに大会を追い続けてきた。メキシコはもちろん、ベネズエラ、ドミニカ共和国、米国、プエルトリコの試合も「できる限りすべて見たよ」と振り返る。その言葉からも、今大会に懸ける強い思いがにじむ。
プールBのメキシコ代表は、米国、イギリス、ブラジル、イタリアと同組に入った。
今大会はオールスター右腕アンドレス・ムニョス(マリナーズ)、走攻守三拍子そろったジャレン・デュラン(レッドソックス)、そして“チームの顔”ランディ・アロザレーナ(マリナーズ)など、メジャー、マイナー合わせて21人の米球界所属選手を擁する陣容がそろった。
その精鋭集団を、捕手として束ねるのがカークだ。
「合流前に、全員をしっかり予習していく。映像を見てメモを取り、持ち球や配球の傾向を頭に入れている」
エンゼルス傘下でプレーするサミー・ナテラJr.は、初の代表入りに胸を躍らせ、少年のように目を輝かせ、「国を代表して、尊敬してきた選手たちと同じフィールドに立てる。本当に楽しみ。左打者での起用が多いと思うので、ブライス・ハーパーや大谷翔平選手とも対戦してみたい」と話す。
初対戦でも強気で投げられる投手もいれば、実際にメジャーの強打者を前にすると、気後れしたり、緊張する投手もいるかもしれないが、カークは「若い投手は思い切って打者に向かっていけばいい」と導く覚悟はできている。
一球が命取りになる短期決戦。球界を代表する打者との対峙は、大舞台の経験が少ない投手にとって大きな重圧にもなる。だからこそ、ワールドシリーズやオールスターを知る捕手カークの存在は心強い。
投球が乱れたら、すかさずタイムをとり、ニコニコと笑顔でゆっくりとマウンドに歩く姿が容易に想像できる。ゆるキャラのような佇まいのカークを見たら、若手投手は思わず笑顔になることは間違いない。
その裏で、準備は怠らない。カークはすでに対戦経験のある打者はもちろん、未知の強打者たちにも備え、映像を何度も見返している。
「相手の傾向をできる限り把握して、どの球で攻め、どう仕留めるのか。青写真を描いたうえでマスクをかぶる」と話し、「確かに他のポジションより、目を通すデータは多い。でも、それが捕手の人生だから」と笑う。
打撃でも主軸としての活躍が期待される。昨季はレギュラーシーズンで130試合に出場し、15本塁打、打率.282、OPS.769をマーク。ポストシーズンは18試合に出場し、5本塁打、打率.254、OPS.842と勝負強さを発揮し、チームのワールドシリーズ進出に貢献した。大舞台でも真価を示す打棒は、代表の戦いでも大きな武器となる。
カークはメキシコ代表を「才能にあふれ、結束が強く、情熱的なチーム」と表現する。
国旗を胸につけ戦うことに彼らは誇りと責任を感じている。
「全力でプレーしてベストを尽くしたい。それを見ている若い世代のためにもね。彼らにとってのロールモデルでありたいと思っているから」