【解説】シースをサイ・ヤング賞候補に押し上げている新球種を深掘り

June 16th, 2026

ディラン・シースは今、チェンジアップを投げている。厳密に言えば、それ自体は新しいことではない。ブルージェイズの右腕は昨季、パドレスでチェンジアップを37球投じた。

だが、その球はどちらかと言えば「バッグス・バニー」ピッチだった。この言葉は、シースがホワイトソックス時代に師事した元投手コーチ、イーサン・カッツが最初に使ったものだ。昨季、シースのチェンジアップの平均球速はわずか78.3マイル(約126.0キロ)だった。

(※「バッグス・バニー・ピッチ」とは、アメリカの有名なアニメキャラクターに由来。バッグス・バニーが投げたボールが打者の手前の空中でピタリと止まったり、極端に遅いスピードで進んだりして打者を完全に翻弄する有名なシーンから転じた表現。打者のタイミングを大きく外すような「極端に遅く、まるで空中で止まったかのように錯覚させるチェンジアップなどの特殊球を表現する言葉)

イーサン・カッツは、平均78.3マイル(約126.0キロ)というシースのチェンジアップが、直球との球速差が大きく、打者からするとアニメのようにボールがなかなか手元にやってこない(空中で止まっているように見える)ほどの錯覚を起こさせる魔球であることを、この言葉で表現しています。

「本当に変な球だった」と、シースは先月、旧型のチェンジアップについて表現した。「奇をてらった球で、正直まったく使えない球だった。頼りにできるものではなかった」と話した。

しかし、新しいチェンジアップは違う。

16日(日本時間17日)のレッドソックス戦で先発予定のシースは、左打者に対して19%の割合でチェンジアップを投げている。右打者に対しては、この球をまだ4球しか使っていない。同球種で、46スイング中29度の空振りを奪っており、空振り率は63%に達する。これは、今季メジャーで投げられているチェンジアップ(25スイング以上)としては、2番目に高い水準となっている。

9日(同10日)に左太もも裏の負傷から復帰した最初の先発登板でそのチェンジアップは光った。同球種を今季2番目に多い15球投げ、9スイング中8度の空振りを奪った。

「まだ完全にものにしたわけではない。でも今回は、実戦的な球種として扱っている。以前は、ただふわっと投げ込んでいただけだった。でも今は、腕の振り、体の動き、すべてにおいて実戦的な球種として投げている」とシースは語った。

ブルージェイズは11月に7年2億1000万ドル(約327億6000万円)の契約をシースと結んだ。防御率4.55など、表面的な成績は決して特別ではなく、オールスターにも選ばれたことがない。しかし、この数カ月、シースはエースのような投球を見せている。

大きな違いの一つは、持ち球だ。

昨季はフォーシームとスライダーが投球の83%を占めており、「3つ目の球種」を見つけることができなかった。しかし、今季はその2球種の使用率は64%にとどまっている。チェンジアップに加えて、ツーシームにも磨きをかけている。

「より幅広い攻め方ができている。毎球、自分の最高の球を投げなくてもよくなるし、他の球もより生きる。(打者が)投球を予測しにくくしてくれる。球種のバリエーションや攻め方が多ければ多いほど、相手は自分に対する良いゲームプランを立てにくくなると、ずっと考えてきた」とシースは語った。

シースにとってはまだ発展途上だ。スプリングトレーニングでは体の使い方に集中し、いくつかのメカニクス調整を行った。その一つとして、ピッチングニンジャが指摘したように、投球動作中に捕手のミットを見つめ続けないよう、頭を回すことを覚えた。オープン戦でもチェンジアップを使ってはいたものの、頻度は多くなかった。キャンプ終盤には、メカニクスの感覚が良くなり、チェンジアップに関する取り組みの大半は、開幕後に行われてきたものだ。

「体を動かすことに慣れることが大事なんだ。本当に慣れるまでは、どうしても大事に扱うように投げたくなるものだ」とシースは語った。

まだその使い方を学んでいる段階だが、このチェンジアップは間違いなく頼れる球種になっている。球速は84.2マイル(約135.5キロ)で、「バッグス・バニー」版より6マイル(約9.7キロ)速い。

ただ、それでもまだ少し”変わった”球ではある。

チェンジアップは通常、打者から逃げていくか、バットの下へ沈むか、そのどちらかを目的とするが、シースの場合は、そのどちらでもない。球速とリリースポイントを基準にした類似のチェンジアップと比べると、落差は9.6インチ(約24センチ)少なく、規定条件を満たす全チェンジアップの中で最も小さい。実質的には「ホップする」チェンジアップなのだ。実際、シースのチェンジアップは誘導垂直変化量(IVB)、いわゆるホップ成分が平均15.7インチ(約39.9センチ)ある。右投手の平均的なフォーシームのIVBは16.0インチ(約40.6センチ)だ。

シースのチェンジアップは独特の変化特性を持つ

  • シース:84.3マイル(約135.7キロ)/投球腕側への変化9.3インチ(約23.6センチ)/落差22.3インチ(約56.6センチ)
  • 右投手平均:86.9マイル(約139.9キロ)/投球腕側への変化14.7インチ(約37.3センチ)/落差32.5インチ(約82.6センチ)

「変化の仕方がきれいではないことは分かっている。良くはない。指標上、間違いなく良い球ではない」とシースは新球の特徴を表現した。

打者がシースのようなチェンジアップを見る機会は多くない。最も近い比較対象はドジャースの左腕アレックス・ベシア。ベシアのチェンジアップも類似の球と比べて落差が9.2インチ少ない。その一因は、極端なオーバースローの腕の角度にある。興味深いことに、ベシアもここに至るまで似た道をたどっている。何年も試行錯誤を重ねた末、コーチ陣の助けを得て、ようやく機能するものを見つけた。チェンジアップの空振り率でシースを上回っている投手は、ベシアだけだ。

球の変化そのものより重要なのは、シースのチェンジアップが持ち球全体の中でどう機能しているかだ。速球を補完するための球種だからこそ、チェンジアップが単独で評価されることはほとんどない。だからこそ、落差や腕側への変化が少なくても、シースのチェンジアップは機能している。

「単純に緩急だ。自分が80マイル台半ば(約137キロ前後)でそれ(チェンジアップ)を投げて、打者は97マイル(約156.1キロ)、98マイル(約157.7キロ)に備えなければならない。それだけで打者を上回れる」とシースは優位性を語る。

打者はここまでシースのチェンジアップにまったく合わせることができていない。それを裏打ちしているのが、スタットキャストの新しい指標であるスイング誤差(miss distance metrics)だ。これは、打者の空振りがボールからどれほど離れていたのかを測る指標で、”空振りの質”を測ることができる。

シースのチェンジアップは、スイングの79%で打者にフレイル、つまりバットの芯よりもさらに外側のボールに対する空振りとなっている。これは、今季の全球種の中で、3番目に高いフレイル率(25スイング以上)となっており、打者のタイミングが全く合っていないことが分かる。

この新球種の習得のプロセスは、現代の投手育成が反映された好例でもある。シースが最後に80マイル台(約129キロ台から145キロ台)のチェンジアップを投げていた時期は2020年。「バッグス・バニー」チェンジアップは、スプリットの握りだったが、現在のはツーシームの握り方を採用している。過去には、投手間で情報を共有し、様々な握り方を試す必要があったが、現在はより早く、自分に合った方法を見つけることが可能になっているという。

「まったく違う。はるかに進歩している。たいていの場合、コーチたちは分かっている。シームシフト系の投手(スライダーなど曲がる変化球を得意とする投手)なら指はここに置く、腕の角度はこうだ、だから予想される変化特性はこうなる、という具合だ」とシースは説明した。

(※シームシフト:握り(縫い目の向き)による空気抵抗だけで手元で急に落とす最新の科学的アプローチのこと。従来は回転の向きとスピードによりボールの変化が決まるとされていた。握り方を変えることで、変化を起こせるようにアプローチしているため、打者としては予想外の変化が起きやすい。)

シースは投球時の手首の回転の仕方が、チェンジアップや腕側に変化する球と相性が良くない。だからこそ、他の投手に合うものが、必ずしも合うわけではない。シースは、ブルージェイズのコーチ陣と育成スタッフを頼りに、自分に合った握り方を探した。まだ完成したわけではないため、何が最善かを見極めるためにチームで継続的に話し合っている。

「まだかなり初期段階だ。理想を言えば、もっと感覚をつかんで、ゾーン内に投げ続け、それでストライクをもっと取れるようになりたい。この球を完全習得する方法を見つけなければならない」とシースは語った。

物事は確かに、その方向へ進んでいる。