ブルージェイズのベテラン選手たちがトレイ・イェサベージの名前を聞いたのは、2025シーズンもかなり進んだ頃だった。イェサベージのような立ち位置の選手は、通常は球団の将来を担う存在と考えられる。そして、目先の勝利を目指すMLBチームにとってそういった選手は、トレードデッドラインで重要な選手を獲得するための対価に過ぎない。
しかし、ワールドシリーズ制覇まであと一勝に迫ったア・リーグ王者は、今やトレイ・イェサベージの名を知らない者はいない。そして、球界で最も資金力のあるチームも、その他のチームも例外ではない。
ブルージェイズはワールドシリーズ第5戦に、イェサベージの快投で勝利。打線も先頭打者のデービス・シュナイダーとブラディミール・ゲレーロJr.の2者連続本塁打などもあり、ドジャースを6-1で破り、世界一に王手をかけた。
22歳のイェサベージは、1Aでシーズンをスタートし、9月15日に3Aバッファローからブルージェイズに昇格。今やチームを優勝の瀬戸際まで導いている。
そのシンデレラストーリーの最新にして最高の場面について、「ハリウッドでもこれほど素晴らしいものは作れなかっただろうね」と本人は笑ながら話す。
最大7戦のシリーズで2勝2敗のタイとなった場合、第5戦の勝者は68回中48回(67.6%)でシリーズを制している。現行のフォーマットでは、アウェイで第5戦に勝利して3勝2敗のリードを奪い、その後ホームに戻って第6戦以降に挑んだチームは、27回中20回(74.1%)シリーズを制している。
イェサベージは7イニングを投げ、わずか1失点、12三振(ワールドシリーズにおける新人記録)、無四球と好投。ワールドシリーズにおいて、これほど多くの三振を奪いながら無四球だったのはイェサベージが初めてであり、しかもMLB8戦目の先発、そしてポストシーズン初のアウェイでの先発で達成した。
「イェサベージは本当に落ち着いている。彼にとって、この瞬間は大したことではない。あの若さで信じられないくらいだ。彼を指導し、育ててくれた人に敬意を表するよ。プレッシャーの中でも本当に、本当に冷静なんだ。信じられないよ」と、ベテラン右腕のクリス・バシットは語った。
しかし、ブルージェイズが過去2日間でドジャースに対して成し遂げたことも信じられないことだ。
ブルージェイズは第3戦、延長18回の壮絶な死闘に破れ、疲弊した。それはチームを打ちのめすほどの敗北であり、誰もが力なく身を縮めたくなるような苦痛だった。
しかし、第4、5戦は見事に立ち直り、ドジャースを圧倒。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、「気分は良くない。ブルージェイズの選手たちがヒットを打ったり、球団を前進させたりする方法を模索しているのは明らかだ。だが、われわれはそれをうまくやっていない」と語る。
第4、5戦では、ブルージェイズの球団の顔であるゲレーロJr.が2本塁打を放ち、投手陣はドジャース打線を.161(62打数10安打)に抑え、観客を完全に沈黙させた。
特に第5戦では、あっという間に主導権を握った。多くのファンがロサンゼルスならではの渋滞に巻き込まれ、まだドジャースタジアムに入れてもいない時間帯に、2本の本塁打をドジャース先発のブレイク・スネルに浴びせた。
負傷したジョージ・スプリンガーに代わってリードオフを務めたシュナイダーとゲレーロJr.は、内角のフォーシームを同じようなスイングでとらえた。わずか3球で本塁打2本を放ち、ブルージェイズは一気に2-0とリードした。
「ブルージェイズ打線は僕を攻略できたわけではなかったと思う。試合の初球、内角高めの直球。98マイル(約157.7キロ)出ていた。不運だった。そしてそれからブラディ(ゲレーロJr.)。あれはただの悪いボールだった。それ以降は順調に投げられたと思う」と、スネルは振り返った。
しかし、本当にただの不運だったのか。シュナイダーはブルージェイズがスネルの直球を待っていたと言う。
「第1戦では直球がなかなか定まらなかったけど、それでもチェンジアップは効果的に投げていた。だから直球でストライクを狙ってから、そこから緩急をつけてくると予想した」
これは他に類を見ない奇襲だった。ワールドシリーズで試合開始直後に連続ホームランを打ったことはかつてなかったからだ(ポストシーズンの試合開始直後に連続ホームランを打ったのは、他に2002年のアスレチックスが地区シリーズで放ったものだけである)。ブルージェイズが試合開始直後に連続本塁打を打ったことも、あるいはドジャースが打たれたことも、そしてスネルが打たれたこともなかった。
援護をもらったイェサベージは好調だった。第1戦ではスプリットの感覚をつかむのに苦労したが、今回は問題なかった。三回にはポストシーズン男として知られるキケ・ヘルナンデスに本塁打を浴びたが、それ以外は試合を支配し続けた。ポストシーズンで新人が複数回の登板で2桁三振を記録したのは史上初、ワールドシリーズで5イニング目までに2桁三振を奪ったのはこの試合を観戦していたドジャースのレジェンド、サンディ・コーファックス以来2人目だった。
「早めにゾーンに投げて、自分のカウントにして、追い込んでから好きなように投げようと思った」と、イェサベージは語る。
イェサベージのチームメートの中には、殿堂入り間違いなしのキャリアを送る選手もいるが、このパフォーマンスに畏敬の念を抱いていた。
「メジャーリーグに来た時のことを思い出すよ。2008年のシーズンには、ワールドシリーズに投げるなんて想像もできなかった。本当にクレイジーな話だったよ…イェサベージは本物だ。今の彼は誰とでも戦える」と、マックス・シャーザーは語る。
そんなイェサベージにはある楽しみがある。メジャー昇格がシーズン終盤だったため、給料はこれまで多くはなかった。しかし、ポストシーズンに進出したことで、配当金をもらえることになった。
「プレーオフの配当金がいつ入ってきても、うれしいものだろうね」と22歳。
チャンピオンリングもきっと格別嬉しいものだろう。
