次の焦点はJ.T.リアルミュートだ。
フィリーズはオフの最優先課題だった主砲カイル・シュワーバーとの再契約を済ませ、次はリアルミュートとの交渉に本格的に取り組める段階に入った。ベテラン捕手はフィリーズで7シーズンを過ごした後にフリーエージェント(FA)になり、引き留めを目指している。
MLB.comのトッド・ゾレキ記者によると、フィリーズはすでにリアルミュート側に契約オファーを提示しており、デーブ・ドンブロウスキー編成本部長も再契約の可能性について楽観的な見方を示している。リアルミュートは今オフのFA市場で捕手として最高評価であり、フィリーズ在籍期間も高いパフォーマンスを続けてきた。一方で、来季は35歳シーズンに入るため、将来を見据えると慎重な判断が求められる要素もある。
以下では、リアルミュートとフィリーズの再契約を巡る3つの重要なポイントを整理する。
リアルミュートと再契約するべき理由は何か
リアルミュートと再契約する根拠は、分かりやすい。FA市場に出ている捕手の中で群を抜く存在であり、このポジションではリーグ有数のタフさを誇る。2019年にマーリンズからトレードで加入して以来、フィリーズの中核を担ってきたからだ。
2025年に134試合に出場し、そのうち捕手としての出場はMLB最多の132試合だ。フィリーズの赤いピンストライプのユニホームに袖を通して以降、負傷者リスト入りは新型コロナ関連の措置を除けば2回だけで、2021年の左手の打撲と2024年の右膝の手術のとき。2022年以降はフィリーズが戦ったポストシーズン38試合すべてに出場し、ブレーブス相手の2022年ナ・リーグ地区シリーズでのランニング本塁打や、2022年ワールドシリーズ第1戦で延長10回に放った決勝本塁打を含めて7本塁打を記録している。
長年マスクをかぶり続けてきたことで膝に負担が蓄積しており年齢も重ねているが、それでもリアルミュートには今もいくつかの重要な長所がある。まず挙げられるのが送球の強さだ。2025年の二塁送球の平均ポップタイム(捕球から送球が二塁ベース上の野手まで到達するタイム)は1.86秒でメジャー全体のトップタイ。盗塁阻止の貢献度を示す指標「Caught Stealing Above Average」ではプラス6を記録し、規定に達した捕手の中で4位タイだった。
総合的な走力でも、特に捕手としては平均を上回っている。2025年のスプリントスピードは1秒あたり28.4フィート(約8.7メートル)で、メジャー全体の中でも上位24%に入る水準だった。8盗塁も正捕手クラスの中で3位タイだった。捕手としては珍しく、長打力と走力を兼ね備えており、2025年には12本塁打を放ち、11年連続で2ケタ本塁打に到達している。
代わりになる明確な選択肢が見当たらないことを踏まえると、毎年安定した成績を残してきたリアルミュートとの再契約は理にかなっている。すでにシュワーバーとの大型契約でチームの中核が残留したフィリーズにとっても、主力を維持する重要な一手になる。
リアルミュートの今後に関する懸念点は何か
リアルミュートは年齢による衰えをここまで見事に抑えてきたが、それでも人間であることは変わらない。2026年の開幕直前に35歳を迎えるこの一流捕手には、フィリーズが再契約(特に複数年)を選んだ場合に不安材料となり得る兆しも出てきている。スタットキャストが算出する打球の質の指標では2024年は全体的に優秀だったが、2025年はほぼすべての打撃項目で数値が悪化し、打撃成績としては過去10年で最も厳しいシーズンになった。
打率、出塁率、長打率が下がったのに加えて、予測打率、予測長打率、予測wOBA(得点に結びつく打撃の指標)、ハードヒット(打球初速95マイル=約153キロ)以上の割合、バレル率、ボール球へのスイング率、空振り率もすべて2024年から悪化した。大きな理由の一つは、年齢と結びついた可能性がバットスピードの低下だ。2025年の平均バットスピードは72.0マイル(約116キロ)でメジャー打者全体のちょうど真ん中あたりの水準にまで落ち込んだ。2024年は73.2マイル(約118キロ)で、全体の上位3割程度に入っていた。
守備面では、ストライク判定を引き出す「フレーミング」の指標で、再びリーグ下位の一人だった。フレーミング指標「catcher framing runs」はマイナス8で、規定に達した捕手57人中50位タイだった。今後導入される自動ボール・ストライク判定(ABS)のチャレンジ制度によってフレーミングの重要度はかなり下がる見込みだが、それでも依然として価値のある技術であり、リアルミュートは2022年にプラス15を記録して以降、そのレベルを安定して発揮できていない。また、送球面では今も優れた強肩だが、ワンバウンドの投球を止める能力を示すブロッキング指標では2024年がマイナス2、2025年がマイナス4と、わずかながらマイナス評価が続いている。
並外れたタフさを持つとはいえ、この年齢の捕手が長く持たないケースが一般的であることも事実だ。リアルミュートは2025年、34歳以上の捕手としては2017年のヤディアー・モリーナ以来初めて、125試合マスクをかぶった選手になった。35歳で同じ数字に到達した最新の例は2012年のA.J.ピアジンスキーまでさかのぼる。ここまでは捕手としては例外的にタフだったリアルミュートも、今後はこれまでと同じだけの出場数を守り続けるのは難しくなる可能性が高く、負傷者リスト入りを避けること自体も、年齢を重ねるほどハードルが上がっていくと考えられる。
リアルミュートが退団した場合、フィリーズに残された選択肢は何か
リアルミュートが他球団と契約した場合、フィリーズは内部だけではその穴を埋める手段がほとんどない。2025年は控え捕手ラファエル・マルチャンが打率.210、OPS.587どまりで、ベテランのギャレット・スタブスは捕手として2試合に出場しただけで、シーズンの大半を3Aリーハイバレーで過ごした。フィリーズの捕手有望株の筆頭であるケイレブ・リケッツ(MLBパイプラインによる球団プロスペクトランキング22位)が2025年を2Aで終えた現状を考えると、フィラデルフィアはリアルミュートの代役を探す場合、FA市場かトレード市場に頼らざるを得ないだろう。
リアルミュートは年齢を重ねているとはいえ、FA市場に出ている捕手の中では依然として頭一つ抜けた存在だ。第2候補と見られていたダニー・ジャンセンは、関係者によれば12日にレンジャーズと2年契約で合意している。スイッチヒッターのビクター・カラティーニも興味深いが、捕手としてシーズン最多でも87試合しか先発しておらず、リアルミュートに近いレベルの出場数を任せるのは難しそうだ。エリアス・ディアスとクリスチャン・バスケスら35歳のベテラン2人は、どちらかといえば控え捕手向きのタイプだ。
オリオールズの正捕手アドリー・ラッチマンは、トレードで獲得できる可能性がある捕手の中では群を抜いた存在だが、ボルチモアがこのオフにドラフト全体1位指名の捕手を放出する意欲は高くなさそうだ。MLB.comのマーク・フェインサンド記者がフィリーズの補強候補として挙げているのが、アストロズのヤイナー・ディアスだ。ディアスは2025年に20本塁打を放っており、守備面には課題があるものの、打撃面でのポテンシャルは非常に大きい。
要するに、リアルミュートがフィラデルフィアに戻らなかった場合に、フィリーズが「この捕手でいく」と最優先に指名できる明確な代替候補は存在しない。そのことが両者の今後の判断に大きく関わってくるはずだ。リアルミュートは、最終的にどの球団とどの規模の契約を結ぶか。
