マリナーズのスイッチヒッター捕手、カル・ローリーが歴史的シーズンを送っている。6月半ばにすでにリーグ最多の26本塁打。今季63本塁打ペースはアーロン・ジャッジや大谷翔平を上回る。もちろんこのペースを維持するのは容易ではないが、それでも「夢の60本」を語る資格は十分だ。
ローリーは、メジャー4年間で通算93本塁打を記録し、これまでの捕手記録(マイク・ピアッツァの92本)を更新。
以前、チームメイトで現カブスのジャスティン・ターナーは「史上最高の捕手のスタートだ」と称賛するが、今季の好調さはここまで積み上げてきた実績に裏打ちされたものだ。
不利な本拠地を克服
マリナーズの本拠地「Tモバイルパーク」が打者に極端に不利な球場と言われ、昨年、ローリーはこの球場での打率.201、OPS.665に苦しんだが、今季はホームでもアウェイでも13本ずつの本塁打を放ち、OPSもホーム.980、アウェイ1.018と安定している。
プル&エアボールの極意
かのテッド・ウィリアムズが「最も価値のある打撃」と評した「引っ張って打球を空中に飛ばす」技術を、ローリーは現役トップレベルで体現している。『Pull Air%(引っ張り方向のフライ打球率)』はリーグ1位の39%で昨季の29%から大幅に上昇。強く引っ張った打球は打率.588、長打率1.528という破壊力だ。
「前で捉える」打撃哲学
さらに、Statcastの新指標「打球接触位置」でも、ローリーは右打席で体の前方40インチ地点でボールを捉えており、これは右打者の中で全体トップ。
これは近年広まった打撃理論で、ジャスティン・ターナーやJ.D.マルティネスらの影響もあり、現代の強打者たちの基本となりつつある。「前で捉える=最大限のパワーを引き出す」技術でローリーは現在メジャーでも最も優れた打者の一人で、球の飛距離・角度ともに理想的なコンタクトを実現している。
もちろん「前で捉える」打法が全員に当てはまるわけではない。ゴールドシュミットやソトのように深く引きつける打者も好成績を残している。ただし、ローリーは追いかける球を減らし、四球を増やしつつ、フルスイングで破壊的な打球を生み出している。三振はあるが、それはパワーヒッターには付き物で、ホームランが出ていれば大きな問題ではない。
守備でもローリーはプラチナグラブ級の捕球とリード力でチームを支え、まさに攻守両面での大黒柱。スイッチヒッターとしても、左右の打席でOPS.999という驚異的なバランスを保ち続けており、「片打席専念」という選択肢を取る強打者が多い中で、両打席で結果を出し続けているのは特筆に値する。
記録面でも、今季、マリナーズ球団記録(56本)、スイッチヒッター最多(54本)、捕手最多(48本)、スイッチヒッター捕手最多(41本)の更新を視野に入れる。今季63本に届かなかったとしても、いずれかの記録を塗り替える可能性は極めて高い。
今後、ホームランダービー出場やMVPレースも視野に入る中、彼のバットから目が離せない。
