大谷翔平が今季、二刀流で躍動している。これまでケガやリハビリもあり、二刀流としてフル稼働が難しいシーズンもあったが、果たして、投打が完全にかみ合った「史上最高のシーズン」は実現するのか、検証していきたい。
大谷は2021〜23年にかけて、投手としてキャリアのピークを迎えた。
過去3年間でキャリア全体の約8割の投球回を消化し、防御率2.84を記録。この数字は先発投手の中でもトップクラスで、クレイトン・カーショウ、マックス・シャーザー、ジャスティン・バーランダーといった将来の殿堂入りが確実視される投手たちに匹敵する内容だった。
しかし2023年8月に右肘を負傷し、2024年は登板なしで、2025年も本格的な投球は限定的となった。一方で打者としてはさらに進化を遂げ、2024年には「50-50シーズン」を達成。2023〜25年の3年間では、打撃と走塁を合わせた総合的な貢献度でアーロン・ジャッジに次ぐ成績を残し、1.037のOPS、154本塁打、99盗塁を記録している。
これまでも大谷の活躍は「史上最高の1試合」や「史上最高の1カ月」といった形で語られ、ベーブ・ルースをはるかに超えた存在として扱われてきたが、まだ誰も見ていない領域が残っている。それが、「投打のピークを同時にシーズン通して成立させること」だ。
言い換えれば、投手としてのピークと打者としてのピークを同時に6カ月間維持し、「史上最高のシーズン」を完成させることになる。このテーマは2021年、2023年にも繰り返し議論されてきた。
2021年は終盤の失速、2023年は9月の負傷で実現せず。2022年は投手として圧倒的な内容を見せた一方で、打撃はまだ発展途上だった。2024〜25年は打撃が完全にピークに達したが、投球は制限されたままだった。
そして2026年シーズン序盤の今、その「究極の二刀流」の可能性が再び現実味を帯びている。投打ともに健康を取り戻し、防御率0.50で水曜日のジャイアンツ戦登板を迎える予定だ。
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投手も本格稼働へ
昨季は右肘の負傷からのリハビリ過程で、ローテーション復帰後も慎重な起用が続き、5イニングを投げ切るまでに11登板を要した。ポストシーズンでは球数やイニングも管理されながらの起用となった。
ワールドシリーズ第7戦まで進出したため、オフ自体は短くなったが、リハビリのないオフシーズンを過ごした。大谷自身も「以前のオフは毎日があっという間に過ぎていく感覚だったが、今回は精神的にかなり楽だった」と振り返る。
こうした背景もあり、今季の「投手・大谷」はこれまでで最も良い状態にある。22日(日本時間23日)のジャイアンツ戦を前に、ここまで3試合で18回を投げ、防御率0.50、許した自責点はわずか1。復帰後の先発投手の中でも、同程度の投球回数でこれを下回る防御率はごくわずかだ。
それでも本人は、個人タイトルよりチームの勝利を優先する姿勢を崩さず、「サイ・ヤング賞を狙ってイニングを増やすことが最優先ではない。目標はあくまで優勝だ」と語る。
個人としてはサイ・ヤング賞という大きな目標も残されているが、あくまで軸にあるのはチームの勝利。その中で、投打ともにピークを迎える「究極形」へ向けたシーズンが続く。
打者としてベーブ・ルース超えを更新中
ロッキーズとのシリーズ最終戦で連続試合出塁を52試合に伸ばした。これは1923年にルースが記録した自己最長の51試合を上回る。さらにジャイアンツとの初戦でも内野安打で出塁し、記録は53試合に到達。1900年以降のドジャース記録(デューク・スナイダーの58試合=1954年)も射程圏に入っている。(※メジャー歴代最長は1949年にテッド・ウィリアムズが記録した84試合)
今季のOPS+は159と、過去3年平均の185には届いていないが、シーズン序盤であることを考えれば、過度な懸念は不要。打球速度や打球角度といった主要指標は依然として高水準を維持している。特に「バレル率」(理想的な打球速度と角度が重なった割合)はリーグ上位5位以内をマーク。
直近5年間の大谷は、シーズン終盤にはおおむね8〜9WAR前後に収束する成績を残している。ただしその到達プロセスは年ごとに異なり、当初は投打の二刀流で総合力を発揮し、その後は打撃中心へ移行。昨季は復帰途上ながら投手としての貢献も再び加わった。今季はその両面が再びそろいつつあり、「究極形」に向けた再構築のシーズンとなっている。
総合WARを示す青いラインが、打撃(赤)と投手(グレー)のそれぞれ最高値に到達した場合、どこまで伸びるのかという点も興味深い。
言い換えれば、これまでのキャリアでの最高成績を組み合わせた場合どうなるか、という試算になる。例えば、投手としてのキャリアハイは2022年の5.6WAR(FanGraphs算出)、打者としてのキャリアハイは2024年の9.0WAR。単純に足し合わせれば14.6WARとなる計算だ。
もちろん、これを同じシーズンで同時に達成するのは現実的には極めて難しい。ただ、ここでの議論はあくまで、すでに別々のシーズンで到達している“ピーク”を同時に発揮できた場合にどうなるか、という仮定に過ぎない。
14.6WARという数字がどのレベルかと言えば、歴史的にも極めて高い水準に位置することになるのは間違いない。
1901年以降の単一シーズンWAR上位は以下の通り
- 14.7 // ベーブ・ルース(1923)
- 13.7 // ベーブ・ルース(1921)
- 13.1 // ベーブ・ルース(1920)
- 12.9 // ベーブ・ルース(1927)
- 12.7 // バリー・ボンズ(2002)
- 12.5 // バリー・ボンズ(2001)
ベーブ・ルースは偉大な存在だ。ルースの全盛期は打撃にほぼ特化したもので、1919年以降は事実上投手としての役割を終えている。また当時は統合前であり、ナイトゲームもなく、移動や投手起用の運用も現在とは大きく異なる時代だった。
特筆したいのは、ルースの「打撃ピーク」が投手をやめてから本格化している点だ。とはいえ、1920年のライブボール時代の到来とも重なり、単純に「投手をやめたから打てるようになった」とは言い切れない複雑さがある。
この構図は大谷翔平にも通じる。打者としてのキャリアハイとなった2024年・2025年は、投手としての負担が限定されていた時期でもあり、「投球を気にしないことで打撃が最大化されたのか」、それとも「もともとの打撃ピークが重なっただけなのか」は明確ではない。
さらに、投打を日ごとに分ける運用がパフォーマンス全体にどう影響しているのかも単純ではなく、その評価自体がこのテーマの難しさでもある。
大谷翔平 2021年以降打者成績
- DH時:.286/.386/.607(OPS .993)
- 投手登板時:.274/.385/.518(OPS .904)
DH専任の方が打撃成績はわずかに上だが、リアル二刀流でもOPS .904という高水準を維持しており、打撃面では大きな問題は見当たらない。
実際、2023年には投打同時出場でも結果を残し、特に6月は「最高の月」とも言われた期間だった。5試合で防御率3.26を記録しながら、打撃では打率.394/出塁率.492/長打率.592、15本塁打という圧倒的な成績を残している。
一方で、もう一つの変化として挙げられるのが走塁面だ。ロッキーズ戦で二盗を決めたのは今季初盗塁であり、同時に初盗塁試みでもあった。かつて92パーセンタイルを誇ったスプリントスピードは、近年は70パーセンタイル前後で推移していたが、現在は32パーセンタイルまで低下している。
ただしこれは能力低下というよりも、役割の変化によるものとみられている。実際、2024年の「50-50シーズン」は投手としての負担がない年に達成されたもので、今季は走塁の優先順位が下がっている可能性もある。
2024年の「50-50シーズン」では、走塁による貢献がWARベースで約11%を占めていたため、走塁が減ると投打いずれか、あるいは両方でその分を補う必要が出てくる。
とはいえ、投打に加えて走塁まで含めたフル稼働を求めるのは、現実的にはあまりにも過酷な要求であることも確かだ。
大谷翔平はすでに4度のMVPに輝き、今季も5度目の最有力候補と目されている。もはや「さらに上を求める」こと自体が現実離れした議論と言ってもいい水準に達している。
それでも注目すべきなのは、ここ3年間で初めて「投手・大谷」と「打者・大谷」が同時に本格稼働しているシーズンを迎えている点だ。前回この状態に近かった時期は、打者としてまだ発展途上であり、可能性の入口に立っていた段階だった。
これだけの実績を積み上げた今、その先に新たな到達点は残されているのか。そう考えると、少なくとも現時点では「これ以上はない」と断言できる材料もまた見当たらない。
今季は「究極の二刀流」を目撃できるかもしれない。
