ダルビッシュ有(39)は、右肘の手術を受けた。
だが、再びメジャーで投げるのか不明だ。
15日(日本時間16日)、パドレスのチャリティーイベントに参加して取材に応じた内容をMLB.comのパドレス担当、A.J.カッサベル記者が伝えている(ダルビッシュ有、今後のマウンド復帰は未定)。
「今はまた将来的に(メジャーで)投げることは、今のところ考えていない」
この言葉だけ抜き出せば、真意は分からない。どういう意味なのか。
コメントのニュアンス、トーン、声色を知るべくカッサベル記者に取材時の音声データの提供を依頼した。ダルビッシュは通常、米メディアの取材では英語での質問は通訳を介さずともほとんどを理解している。ただ、発言は日本語で話し、堀江慎吾通訳が英訳する。ダルビッシュが発した生のコメントから、真意を考察する。
まず、以下のようなやり取りがあった。
<質問>シカゴでのワイルドカードシリーズ敗退後は、今後についてはまだ話せない、と言っていた。右肘の状態が健康に戻ったら、また投げることに迷いはないか?
「今は将来的にまた(メジャーで)投げることは、今のところは考えていないので、すごく(周囲には)複雑に聞こえるかもしれないですけども、今はそういう(メジャー復帰を前提とした)考えでリハビリはしていません。また自分が投げたいと思ったりとか、そういうステージ(メジャーのマウンド)に立てると思えば、また帰ってこようとすると思いますし、そういう状況です」
<質問>確認だが、リハビリを終えた後にまた(メジャーで)投げるかどうか、まだ完全に決めているわけではない、ということか。
「Yes」(質問は和訳を受けず、そのまま英語でやり取り)
来季、40歳を迎えるシーズン。本格的な投球再開までは、リハビリに1 年以上を要する。つまり、メジャー復帰できるとしたら、41歳のシーズン中だ。
「今は将来的にまた(メジャーで)投げることは、今のところは考えていないので」とあるが、「考えていない」ではなく、まだ『考えられない』という意味合いが強いのではないだろうか。
おそらく、ダルビッシュの思いとしては先を考え過ぎても、リハビリの道のりが長く感じてしまい、精神的に苦しくなる、ということが言いたかったと推察する。メジャー復帰を前提にしたり、再び負傷前のパフォーマンス水準に戻す、という高いハードルを設定するのではなく、まず目の前のリハビリを着実にやる。その積み重ねの先に再び、メジャーのマウンドで勝負したいモチベーションがわき上がり、投手として成長したい意欲が満ちた時にメジャー復帰を現実的に目指すことができる、という趣旨の発言だと私は分析している。
今、思い切り投げることのできない右肘で1 年半ほどの未来にメジャーの第一線で投げる目標を定めるのは、メンタル的に自身を追い込んでしまう。1 度目の右肘手術を受けた28歳のときとは、“残された”時間が違う。だから、今はとにかく毎日のリハビリやトレーニングを自分の仕事として責任を持って取り組む。その継続の先に、いつかメジャーのマウンドで投げることが現実的にイメージできるときがくるかもしれない。だから、今の時点でメジャー復帰を前提にすることもできないし、メジャー復帰『しない』ことを前提にしているわけでもない。そんな意味を含むのでは、ないだろうか。
実は今季、投手生命の危機を感じていた。3月中旬に右肘の炎症を起こし、7月に復帰。15先発(72回)で5勝5敗、防御率5.38だった。チームの2年連続90勝とポストシーズン進出に貢献した。しかし…。
「貢献できた、とは思わないですね。そこに関しては、僕はうまく仕事ができなかったと思っています。ただ、やっぱり、それも自分の中で『もう最後になるかもしれない』というふうな思いがあったので、(痛みなどを)我慢して、といいますか、一生懸命チームのために、と思って投げていました」
リハビリが進み、自分の投球が「チームのため」になると思えたら、ダルビッシュは現役続行を決断できる。もともと投げること自体が好きだ。特に変化球について考えること、投げることが好きだ。その探究心があるからこそ、10球種以上とも言われる多くの変化球を高いレベルで操ることができる。
ダルビッシュは、再びメジャーのマウンドに帰ってくる。私はそう思う。いや、そう思いたい、と表現した方がいいのかもしれない。痛みを気にすることなく、自由な右肘を取り戻したとき『投げたい』という純粋な気持ちがよみがえるのではないだろうか。私は今、それを願っている。
