4カ国語が飛び交うオランダ王国代表 マウンド上の内緒話はオランダ語で

1:56 PM UTC

ハドウィック・トロンプが11歳で捕手としてプレーを始めた頃には、すでに彼は複数の言語を操っていた。

アルバ島で育ったトロンプは、家庭ではアフロ・ポルトガル系クレオール語であるパピアメント語を話していた。学校では英語とスペイン語を学び、その他の教科はすべてオランダ語で授業が行われていた。オランダ領アンティルの一部だった同島では、法律や公的な文書もオランダ語が用いられている。

アルバ、ボネール、キュラソーから成る“ABC諸島”では、4カ国語を話せることは決して珍しくない。だがトロンプ、そしてザンダー・ボガーツ、ケンリー・ジャンセン、ディディ・グレゴリアス、オジー・アルビーズ、ジュリクソン・プロファー、セダンネ・ラファエラなど、いずれもパピアメント語、英語、オランダ語、スペイン語を操る仲間たちが、今大会のワールドベースボールクラシック(WBC)で「オランダ王国」代表としてユニフォームに袖を通すことには、特別な意味がある。

「WBCでチームメートと母語で話せるのは、本当に特別なことなんだ」とトロンプは語る。「パピアメント語は、ほかの人にはほとんど通じない言葉だからね。それを話していると、まるで家にいるような気持ちになる。オランダ語もそこまで一般的ではないし。みんな複数言語を話せるから、お互いに通じ合えるという感覚になるんだ」

オランダ、アルバ、キュラソー、米国の選手が集まるオランダ王国代表チームは、WBCの精神を象徴する縮図のようなチームだ。WBCは20カ国以上、南極大陸を除くすべての大陸から才能を集め、野球という共通の情熱で結びつける国際大会だ。

多様なバックグラウンドを持つ選手同士が常に意思疎通を求められる野球というスポーツでは、多言語を使いこなせることが大きな強みになる。

「(言葉が話せると)できることが増えるよね。スコアボードを見たりするだけでも、全部の言語で理解できないといけない。でもそれが面白いんだよ。自分から話しかけることができるし、相手も自分に話しかけてくれる。通訳なしで話せることは強みだよ」とザンダー・ボガーツはMLB.comに語った。

異なる文化背景を持つ選手たちが一丸になって戦うWBCのような短期決戦では、多言語を操れる力は“スーパーパワー”にもなり得る。ベテランリーダーのボガーツ(2026年大会で4度目の出場)やグレゴリウス(3度目)は、その言語能力を生かしてチームの結束を築く重要な役割を果たしてきた。

「ディディ・グレゴリウスは、アメリカ人には英語で話し、キュラソー出身の選手たちとはパピアメント語に切り替え、スペイン語圏の選手とはスペイン語、コーチ陣とは英語で、オランダの選手たちとはオランダ語で話していました」と、オランダ・デフェンター出身で、元レッズの右腕プロスペクト、今年もWBCロースター入りしているアライ・フランセンは振り返る。

「彼は相手に合わせて自然に言語を切り替えるので、自分の母語で話してくれるので、チームに受け入れられた気持ちになったんだ。しかも彼は他の言語も全て話せるんだ」

試合中のコミュニケーションは、やや簡略化される。チーム内では基本的に英語が共通言語として使われ、全員が理解できるようにしているが、例外もある。

「投手にだけ伝えたいことがあって、しかも試合の熱い場面で相手チームに聞かれたくないときは、オランダ語で話すよ」とトロンプは語る。

多国籍メンバーで構成されるチームでは、準備も入念に行われる。特に投手と捕手のコミュニケーションは重要だ。オランダ代表の正捕手を務めるトロンプは、ロースターに名を連ねる4カ国出身の投手たちと息を合わせるため、各投手のスカウティング情報を入念に理解したうえで大会に臨む。

2006年にクラシック史上初のノーヒットノーランを達成したキュラソー出身右腕、シャイロン・マルティスは、捕手とのやりとりについて振り返る。

当時、初めてWBCに出場したマルティスは今ほどオランダ語が堪能ではなかったが、オランダ代表の捕手シドニー・デ・ヨングと問題なく意思疎通が図れたという。

「まだ若かったけれど、捕手としっかりコミュニケーションを取ることができた。彼はキュラソーでも自分を見ていたので、どんな球を投げるか、どの場面でオフスピードを使うかを分かってくれていたんだ。お互い信頼していたので、首を振ることもなく、同じ気持ちで戦えた」とマルティスは語る。

こうした関係は、グラウンドやクラブハウスだけで築かれるわけではない。オランダ代表チームは、大会中に選手たちが集まってPlayStationやFIFAを楽しめるゲームルームが用意し、忙しい大会期間の合間でもこうした時間がチームの結束を強める手助けをする。

また大会期間中、選手たちは仲間や家族と一緒に夕食に出かけることもある。ちなみに食事代は高年俸をもらっているメジャーリーガーが払うこともあれば、その日の安打や打点が最も多かった選手が支払うこともあるという。

「こうして交流することで、チームの一体感がさらに強まるんだ。みんながお互いに集中しているからこそ、チームが強くなるんだ」とトロンプは語る。

オランダ代表の多くの選手にとってWBCの舞台は、言語や国、ルーツを共有しながらも、普段は一緒にプレーする機会の少ない仲間とユニフォームを着て戦える特別な場でもある。

「自分の国や子ども時代の話も、自分の言語でできるのは本当に楽しい。僕やプロファー、ほかの選手たちは子どもの頃に対戦していたけれど、今はWBCが唯一、一緒にプレーできる場になっているんだ」とボガーツはMLB.comに語った。

同じ環境で育っていない選手にとっても、オランダ代表ならではのクラブハウス文化が、より深い友情とチームの結束を生み出している。

「複数言語で自分を表現できることは、相手の文化を理解する助けにもなる。異なるバックグラウンドを持っていても、お互いを理解し合えるので、チームでは皆が互いを受け入れやすくなる」とフランセンは語り、楽しそうにこう続ける。

「チーム内には少なくとも共通の言語が一つはあるんだ。だから誰とでも会話できて、特定のグループに偏ることもないんだ」

少なくとも4つの言語が飛び交うクラブハウスの中で、それらを超える一つの言語がある。

「言語が違っても、野球というゲーム自体が独自の言語を持っているんだ」