今永昇太(32)は、東京シリーズ(相手はドジャース)で迎えたカブスの「開幕投手」を任される栄誉を与えられた。母国での特別なイベントという意味合いに加え、昨季の見事な投球が評価された結果でもあった。
シーズン終盤、今永は被本塁打率の上昇という課題に直面し、クレイグ・カウンセル監督はポストシーズンで左腕を起用するタイミングに慎重だった。厳しいシーズンの締めくくりとなり、カブスは現在、今永の契約に含まれる複雑な契約延長の条項について判断を迫られている。
「今永と契約した時点で、この2年の成績を示されていたなら、われわれは迷わず受け入れていただろう」
プレーオフ後にジェド・ホイヤー編成本部長はそう語った。
「彼は成績を残しただけでなく、素晴らしいチームメートであり、球団にとって大きな戦力だ。もちろん、これから決断し、話し合うべきことがある」
<今永の契約内容の分析>
1. 今永の契約の内訳
今永の当初契約は保証総額5300万ドル(約80億5600万円)の4年契約だったが、今オフから複数の選択肢が用意されている。現時点でカブスは、2026年から2028年を対象とした3年の球団オプション(カブスが契約延長を選択)を行使するか、それを見送りつつ少なくとももう1年は左腕をチームにとどめる方向を模索できる。
契約締結当時の報道および複数メディアで報じられた契約内容によると、選択肢は次の3通り。
- カブスが3年の球団オプションを行使する場合:
この期間の保証総額は5775万ドル(約87億7800万円)。2024年のナ・リーグ、サイ・ヤング賞で5位に入ったことにより、契約残年の各年に25万ドル(約3800万円)の昇給が加わる。
年俸は2026年と2027年がそれぞれ2025万ドル(約30億7800万円)、2028年が1725万ドル(約26億2200万円)。今永は2028年オフにフリーエージェント(FA)となる。 - カブスが3年の球団オプションを見送る場合:
今永には2026年の1525万ドル(約23億1800万円)の選手オプション(今永が持つ契約延長)を行使する権利が発生する。今永がこれを選択した場合、2026年オフも同じ手続きを繰り返すことになる。
この場合、カブスには2年総額4250万ドル(約64億6000万円)の球団オプション(2027年2425万ドル=約36億8600万円、2028年1825万ドル=約27億7400万円)が与えられ、今永側にも再び1年1525万ドル(約23億1800万円)の選手オプションが発生する。 - カブスと今永の双方がオプション(契約延長)を行使しない場合:
今永は2026年向けの1年契約であるクオリファイング・オファー(QO)の対象となる。金額はまだ発表されていないが、2200万ドル(約33億4400万円)を超える見込み。
カブスがQOを提示せず、今永が他球団と契約した場合は、新天地にドラフト指名権の補償が発生する。
2. カブスが考慮すべき点
カブスと契約してメジャーに挑戦した今永は、ルーキーとして大きなインパクトを残した。オールスターでナ・リーグ先発の有力候補に挙がり、パイレーツ戦では継投ノーヒッターの先発を務め、新人王投票で4位となり、さらにサイ・ヤング賞の下位票も得た。
メジャー最初の42登板(新人シーズンの先発29試合と今季序盤の先発13試合)では、防御率2.75、投球回は248回2/3。被本塁打は9イニング当たり1.4本、被安打と与四球を抑えることで失点を最小限にとどめた。
問題が表面化したのは2025年シーズン終盤の12先発だ。この間の防御率は5.17、9イニングあたりの被本塁打は2.6本(69回2/3で被本塁打20本)。約2カ月の離脱要因となった左ハムストリング(太もも)の張りが投球動作に悪影響を及ぼしたという見方もあったが、復帰後最初の5試合では防御率1.78と好投している。
それでも、2年間の通算はERA+120(平均比20%上)を記録。2024〜25年に先発50試合以上の65投手の中で、防御率3.28は12位で、フランバー・バルデス、ローガン・ウェブ、ニック・ピベッタらを上回る。K/BB(1三振を奪うまでに四球をいくつ与えたか。数字が高いほど優秀)5.39は同サンプルで7位で、上にいるのはタリック・スクーバル、ブライアン・ウー、ジョージ・カービー、ギャレット・クローシェ、ローガン・ギルバート、ジョー・ライアンのみだ。
ホイヤー編成本部長は、今オフの最優先事項が先発ローテーションの強化であることをすでに明言している。これは今永がチームにいる前提でも変わらない。したがって、左腕のイニングや総合的な貢献を差し引くのは最善策とは言いがたい。いずれにせよ、今永は少なくとも2026年にはチームに戻る公算が大きい。
先発投手の相場を考えれば、今永の3年の球団オプションは“簡単な決断”に思える。今永は32歳でシーズンに入るが、費用対効果の比較はカブスの先発陣を見れば十分だ。昨オフ、マシュー・ボイドは33歳でシーズンを終え、トミー・ジョン手術からの復帰後に24年は(レギュラーシーズンとポストシーズン合わせて)わずか11先発だったにもかかわらず、カブスと2年2900万ドル(約44億円)で契約している。先発投手市場が過熱した昨オフには、同様の事例が他にも多数あった。
最も起こりにくいシナリオは、今永が26年の1525万ドル(約23億1800万円)の選手オプションを行使するケースだ。カブスが3年案を見送った場合、現実的なのは今永がクオリファイング・オファーを選ぶことだろう。そうすれば、26年はカブスでより高い年俸を得られるか、あるいはFAで当初契約の残り保証額(3050万ドル=46億3600万円)を上回る条件を引き出す機会を得られる。
