野球では、一人の選手で優勝が決まることはない。これはNBAではないのだ。出場登録メンバーの全員が1つの歯車であり、すべての対戦は一対一の勝負。かのテッド・ウィリアムズやバリー・ボンズでさえ、ワールドシリーズ(WS)優勝には手が届かなかった。
それでも、たった一人の選手がシリーズに大きな影響を与えることはある。今ポストシーズンを通して、その現実を何度も見てきた。トロントで開幕するワールドシリーズでも、それは変わらない。
ここでは、ドジャースとブルージェイズからそれぞれ4人ずつ、「シリーズのカギを握る可能性がある選手たち」を4つのカテゴリに分けて紹介する。
カテゴリ①:スター選手
ドジャース:DH/先発投手・大谷翔平
大谷について、まだ語られていないことはあるだろうか。
これからの2週間、世界中の野球記者や解説者たちが“まだ語られていない何か”を必死に探し始めるのは間違いない。
ナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)第4戦で見せた圧巻のパフォーマンスを見れば信じがたいかもしれないが、今オフにドジャースを巡って語られていた主な話題の一つは、「大谷が打撃でスランプに陥っている」というものだった。実際、それまでの大谷は今季、最も調子を落としているように見えた。
だが、主砲はそのスランプを抜け出した。
このセクションでは通常、「シリーズでどれだけ大きなインパクトを与えられるか」に焦点を当てる。たとえば、勝負どころでのホームラン、ここぞという場面での盗塁、あるいは決定的な5回の好投──いずれも、一人の選手がもたらす価値としては十分に大きい。
大谷はそれを「全部」やってのける。
公平を期すために他の選手と同じく1枠しか与えていないが、二刀流は実質「2人分以上」のスターだ。それがロサンゼルスの他球団に対する最大のアドバンテージだ。
ブルージェイズ: 一塁手・ブラディミール・ゲレーロJr.
ナ・リーグは大谷、ア・リーグはゲレーロJr.と、LCS MVPがそれぞれのチームのスーパースターに贈られたのは、何とも粋な演出だった。将来、殿堂入りする2人にまた勲章を書く一行が加わった。
4月に契約延長を結んだとき、ゲレーロJr.はこのチームの未来を決定づけた。そしてア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)第7戦での勝利直後、インタビューしたトム・ヴァードゥッチ記者が「この瞬間を想像していたか?」と尋ねると、ただ一言「Yes」と頷いた。
ゲレーロJr.は今、ポストシーズンで打率.442、6本塁打という歴史的な爆発中。昨年までは3シリーズで22打数3安打(.136)と苦しんでいたが、今や完全に「顔」になった。カナダ野球の象徴でもあるゲレーロJr.がブルージェイズを頂点に導いたら、その功績を称える銅像がいくつ建てられても不思議ではない。
カテゴリ②:先発投手
ドジャース:左腕・ブレイク・スネル
サイ・ヤング賞を2度受賞した選手は、並の存在ではない。健康なスネルは、とても優れた投手だ。そして今、スネルの投球はキャリア最高とも言える。
四球が多い投手として知られていたが、今ポストシーズンではそれも克服している。NLCS第1戦では8回を無四球、ほぼ完璧な内容で勝利。ポストシーズン通算21回を投げ、6安打、2失点、28三振と「リリーバーのレジェンド」マリアノ・リベラ並の支配力がある。
スネルはWS第1戦と、おそらく第5戦に先発予定。第7戦までもつれた場合、再登板の可能性も高い。スネルを崩せなければ、ブルージェイズは左腕が登板しない4試合のうち4勝するしかない。かなり厳しい戦いだ。
ブルージェイズ:右腕・トレイ・イェサベージ
メジャーでの登板はわずか6試合。そのうち3試合はここ2週間半以内という信じがたい急成長。今ポストシーズンでは「経験の浅い速球派投手を大舞台で起用する」という静かなトレンドがあるが、イェサベージはその象徴だ。
今季、マイナー1Aのフロリダから、バンクーバー、ニューハンプシャー、バッファロー、そしてついにトロントと5チームを渡り歩いた。当初はブルペン要員かと思われたが、先発に抜擢されてからは好投を続けている。
だが、ここはワールドシリーズ。相手はドジャース。まだ22歳。さすがにそろそろ現実が押し寄せてくる頃かもしれない。
カテゴリ③:リリーフ投手
ドジャース:右腕・佐々木朗希
ポストシーズンで6試合に登板、計7回1/3を投げて2安打、無四球、6三振とほぼ完璧な投球だ。スプリッターは魔法のようで、打者はバットに当てることさえ困難だ。
だが一度だけ、崩れている。
NLCS第1戦、スネルの好投の直後に登板した佐々木は、突如乱調。2四球、痛烈な二塁打、1失点で途中降板した。
その後は復調し、2試合で再び無失点。
ブルージェイズとしては、このわずかな「ほころび」を見逃さず突くしかない。ドジャースのリリーフ陣は佐々木を除くと不安が残る。朗希を崩せば、勝機は見える。
ブルージェイズ:右腕・ルイス・バーランド
左打者(大谷、フリーマン、マンシー)対策を考えれば、左腕のフルハーティ、ラウアー、リトルの名も挙がるが、今ポストシーズンで最も信頼されているのは間違いなくバーランド。
ツインズからのトレードで加入後、23試合に登板。ポストシーズンでも11試合中10試合に登板し、休養は1試合のみでかなり酷使されている。
ALCS第7戦でカル・ローリーに一発を浴びたものの、全体としては抜群の安定感。このポストシーズン、ブルージェイズがここまで来られたのはバーランドのおかげと言っても過言ではない。WS制覇まで、この右腕にかかっている。
カテゴリ④:ワイルドカード
ドジャース:左翼・キケ・ヘルナンデス
どんな状況でも、どんなロスターでも、なぜかキケには居場所があり、頼りにされる。
2025年は打率.203とキャリアワーストだったが、10月に入ると打って変わって頼れる存在。特にNLCSでのクラッチヒットの連発で、ファンの信頼を完全に取り戻した。
今のドジャースは、数年前と比べてベンチの層がやや薄く、ヘルナンデスが終盤に守備固めで交代する可能性はあるが、それまでの重要な打席では確実にバットを握っているはずだ。
鍵となるのは、「大谷が打席に立つとき、キケがどれだけ塁上にいるか」。
それが得点機会を大きく左右するだろう。
ブルージェイズ:遊撃・ボー・ビシェット
そう、ビシェットが戻ってきた。まだ正式発表はないが、復帰は間違いない。この舞台をビシェットが逃すなんて、誰も思っていないだろう。左膝のケガで6週間離脱していたが、ALCS第7戦の勝利後に本人は「準備はできている」と明言。
今季は2024年の不振と負傷を乗り越え、見事な復活シーズンを送っていただけに、そのバットが戻ってくるのは大きな戦力となる。
問題はショートを守れるかどうか。離脱中に好守を見せていたアンドレス・ヒメネスがいるだけに、DH起用となればジョージ・スプリンガーを外野で使わざるを得ない。これはベテランにはやや酷な起用法だ。
それでも、「ビシェットのバットが使えるなら、使わない理由はない」。
この瞬間を待ち続けた若き主砲が、ブルージェイズの頂点へのラストピースとなるかもしれない。
