レギュラーシーズンでは、打者の三振率が最も低かったのはブルージェイズで、投手が最も多く三振を奪ったのがドジャースだった。ワールドシリーズの物語は自然とこうなる。コンタクト回避を前提に組まれた投手陣に対し、ブルージェイズは十分にバットをボールに当てられるのか。
ただ、それがすべてではない。ブルージェイズは10月に入ってから「当てる」だけでなく強く打っている。長打率でドジャースを上回り、他球団との差はさらに大きい。むしろその表現では控えめ過ぎるほどで、今季のブルージェイズ打線はポストシーズン屈指の長打力がある。
1969年、ワールドシリーズ前にプレーオフが導入された初年度以降、ポストシーズンで少なくとも7試合を戦ったチームは約200。今季ブルージェイズの打者がその中でどの位置にいるかを見ると、その突出ぶりが分かる。
- 2025年のブルージェイズ打線は、1969年以降にポストシーズンで7試合以上を戦ったチームの中でOPS(出塁率+長打率).878は歴代6位、長打率.523は歴代4位だ。
もちろん主な理由はブラディミール・ゲレーロJr.の史上屈指の打撃爆発だが、それだけではない。ジョージ・スプリンガーが4本塁打、アレハンドロ・カークが3本塁打、そしてアーニー・クレメントも長打率.619を記録(しかも三振はわずか2度!)、レギュラー野手8人全員が平均以上の打撃成績を残している。
コンタクトなくして長打は生まれないが、これは二塁への弱いゴロではなく、確実に強烈な打球を放っている証拠で、見事な打線と言えるだろう。
一方で、ドジャース投手陣がナ・リーグのポストシーズンをどう戦い抜いたのかを、同じ期間のデータで見てみよう。
- 2025年のドジャース投手陣は、1969年以降にポストシーズンで7試合以上を戦ったチームの中で、被OPS.531は歴代3位の低さ、被長打率.269は歴代2位の低さを記録している。
こちらも十分に驚異的だ。つまり、このシリーズの焦点は「当てさせる/当てさせない」だけではなく、「良いコンタクトを許すか、防ぐか」にある。
ドジャースは、ここ数週間で兆しがはっきりした。シーズン終盤に先発陣がそろって健康を取り戻し、同時に結果も伴った。9月のドジャースは月間の三振率が史上2位、被長打率は地区制以降で4位タイの低さ。さらに、佐々木朗希(23)の衝撃的な復調が、疲弊していたブルペンの負担を少なからず軽減した。
これは、「強み対強み」の最高級の対決と言っていい。一方で、別の要素も重要なのは確かだ。
例えば、ブルージェイズに大谷翔平(31)、フレディ・フリーマン、マックス・マンシーを抑えられるだけの左の救援陣がいるのか。あるいは、新人トレイ・イェサベージがマイナーから駆け上がった勢いを、ワールドシリーズでも発揮できるのか。だが、やはり最も魅力的なのは前者だ。
言い換えると、こういう構図になる。
見づらくて騒がしく、雑然としている。その通りだし、それが狙いでもある。何十年もの間、無数のプレーオフチームがいて、しかも今はこの2球団が同時に、ある特定の分野で他の誰にも劣らないレベルでそれをやってのけているからだ。
ブルージェイズとブルワーズとの最大の違いは、コンタクトできるだけでなく「ダメージを与えられる」ことだ。ドジャースに一方的にねじ伏せられたブルワーズは、4試合スイープで打率.118、出塁率.191、長打率.193という、ポストシーズン史上でも屈指の低水準の成績に終わった。両軍を「コンタクトと守備」という軸で並べて語るのは簡単だが、正確ではない。というのも、後半戦のブルージェイズはメジャー2位の三振率だったし、10月の初めに掘り下げた通り、今年最大の成果は、コンタクトを犠牲にせずにバットスピードを上げたことにある。その傾向は、ポストシーズンでさらに強まっている。
これこそ、ブルワーズができなかったことであり、ブルージェイズがより実現できる可能性のある部分だ。
では、勝負の分かれ目はどこにあるのだろうか。
コンタクト力と長打力を兼ね備えてはいるものの、ブルージェイズは決して我慢強いチームではない。今季後半はメジャーで3番目にスイング率が高く、今ポストシーズンでもどのチームよりも積極的にバットを振っている。これは、レギュラーシーズンで最もスイング率が低かったブルワーズとは対照的だ。つまり、ブルージェイズは振りにいき、振ればしっかりコンタクトする。
とはいえ、ボール球に手を出す率(チェイス率)が極端に高いわけでもない。今ポストシーズンでは、ドジャース投手陣とブルージェイズ打線の双方がゾーン外の球を約32%の割合で振っており、平均(31%)よりやや多い程度だ。そのため四球の数も少なく、これは今季コントロールに苦しんだドジャース投手陣にとっては有利に働く可能性がある。
まず最初のポイントはそこだ。ドジャースはこの傾向を踏まえ、ゾーン外への誘い球で弱いコンタクトを誘う戦略を取るだろう。だが、一方でブルージェイズは「悪球打ち」ができるチームでもある。ブルージェイズは今ポストシーズン、ストライクゾーン外の球に対して打率.293を記録している。これは2025年のポストシーズン全体(ブルージェイズを除く)の平均.136を大きく上回り、2008年にデータ記録が始まって以来、歴代最高の数字だ。しかも圧倒的な差で。
とはいえ、ダルトン・バーショウがこんな球をスタンドまで運んでしまうのなら、どうしようもない。
ドジャースにも明確な対策がある。その戦略とは、できる限り多くの鋭い変化球と緩急を駆使してブルージェイズ打線を封じることだ。
今月ここまでのポストシーズンで、「速球を投げる割合」がどうなっているかを見てみよう。
- 今ポストシーズンで最も多く速球を見ている打線はブルージェイズで、その割合は65%。
- 一方、今ポストシーズンで最も速球の割合が少ない投手陣の一つがドジャースでわずか48%にとどまっている。
ブルージェイズの三振が少ない一因は、速球を多く見ていることにある。しかも速球への対応が抜群で、今月は打率.297、出塁率.360、長打率.500と“速球打ち”では全チーム中トップだ。ドジャースが三振を多く奪ってきた一因は、変化球を駆使し緩急を頻繁に使う配球にある。相手打線の速球以外に対する成績は、打率.154、出塁率.211、長打率.217で、10月のベストと言える水準だ。
鍵は球速そのものではない。レギュラーシーズンで95マイル(約153キロ)以上へのコンタクト率が、平均的だったブルージェイズは、ポストシーズンではさらに優秀で同区分の空振り率は17.5%と今季ポストシーズン最少。回転数(スピン)に寄り過ぎた話でもなく、変化球へのコンタクトも良好だ。
もちろん、速球以外を打てないわけではない。だからこそブルージェイズはここにいる。ただし、ヤンキースの変化球は打ち込んだ一方で、マリナーズ相手の変化球には打率.190、出塁率.190、長打率.238と苦戦した。対するドジャースはナ・リーグ優勝決定シリーズ(NLCS)で変化球の使用率をレギュラーシーズンのほぼ倍に引き上げた。
コンタクトを多く生むこと自体は価値があるが、それだけでは足りない。実際、2024年のブルージェイズもコンタクトは多かったが、最下位に終わった。だが今回は事情が違う。ドジャース先発陣は、まさにブルージェイズ打線の得意分野を止めるために組まれている。どちらの強みが上回るか。それがワールドシリーズ全体の行方を左右しかねない。
