昨年のワールドシリーズで、ドジャース打者のブルージェイズ投手へのアプローチが気になった。ストライクかボールに関係なく、とにかく積極的に振っているように見えた。
ただ、それはあくまで「なんとなくそう見える」という記者の印象で、明確なデータは手元にない。それでも、その“違和感”が残った。
「初球狙いなのか、それとも偶然なのか」
そう考えながらワールドシリーズ第5戦の打撃練習を見ていた時、MLB.comのリサーチ&コンテンツのシニアマネジャー、サラ・ラングス氏に質問したが、球場の音響が大きく、また、うまく説明できない。そこでスマートフォンに質問を打ち込み、画面を見せたところ、彼女は頷いて、「分かった。記者席に戻ったらすぐ調べて送るね」と応じてくれた。
その言葉どおり、席に戻るか戻らないかのうちに、すでに返信が届いていた。
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「ドジャースの打者はこのシリーズで初球をスイングしたのは147回。そのうち65球がストライクでした」
つまり、初球からストライクでもボールでも積極的に振っており、結果として82球はボール球にもスイングしていたことになる。
そこには明確に“積極性”が見て取れた。
こうした一瞬の違和感や疑問に対して、記者がすぐにデータを引き出せない場面は多い。そんな時、サラさんは豊富な知識と経験をもとに、まさに“サラ・マジック”のように即座に答えを返してくれる。
最近では、エンゼルス戦で大谷翔平がリトルリーグ(ランニング)ホームランを記録した際、そのタイムをめぐってやり取りをした。
「MLB史上最速は14.08秒で、2024年にカブスのピート・クロウ=アームストロング(PCA)が記録しています。トップ20のリストはありますか? 大谷は約16.17秒でした」
すると返信は、まず事実の整理だった。
「残念ながら大谷はランキングには入らないですね。それと最速はPCAではなく、バクストン(ツインズ)で13秒85です」
トップと2秒以上差があるのか、上には上がいると思わされる一方で、こうした即時に返答をしてくれることが彼女の強さだ。
MLBの記者は通常、リサーチ・チームにデータを依頼できる。しかし、サラさんに直接DMで聞くことも多い。西海岸の試合の時には、ニューヨークにいるサラさんに「起きてますか?」と確認することもある。
そんなサラさんから質問を受けた時は、頼られたようで誇らしい気分になる。
村上宗隆、岡本和真、今井達也がMLB移籍した際には、NPBデータの調べ方について尋ねられ、Xのフォロワーの力も借りながら情報を共有したこともあった。
サラさんとのやりとりはユーモアもあって、とても楽しい。
先日、ブルワーズのジェイコブ・ミジオロウスキーについてリサーチした際、出た数字に現実味が感じられず、調べたデータに自信がなかったので、サラさんに質問した。
「今季998球のうち311球が100マイル以上というのは本当ですか? あまりにすごすぎて頭がフリーズしました」
すると彼女はすぐにこう返してきた。
「確認するね。数字を確認できました!!合っていますよ。頭、フリーズ解除して!!」
その一言に、思わず笑ってしまった。
サラさんは2021年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)、いわゆるルー・ゲーリッグ病と診断され、闘病中だ。この神経変性疾患は、筋肉の制御や運動、呼吸を担う脳や脊髄の運動ニューロン(神経細胞)に影響を及ぼす。ALSは進行性の病気であり、時間の経過とともに症状は悪化していく。現在、確立された治療法はない。
この数年で、彼女はさまざまな身体機能が徐々に弱くなっている。現在は車椅子を使用し、発話や食事も以前より困難になっている。かつては対面での取材も可能だったが、今は直接の会話は難しい。
それでも、サラさんは機会があれば、ヤンキースやメッツの球場に足を運び、PCやタブレット、スマートフォンを使いながら複数の試合を同時にチェックし、われわれにデータや分析を提供してくれる。
球場でケージ裏で一緒に打撃練習を見ていると、サラさんに気づいて駆け寄る選手の姿を目にすることがある。一歩下がってその瞬間を写真に収めることが、こちらの小さな楽しみでもある。
そういう時は後から彼女からメッセージが届く。
「さっき撮ってた写真、送ってもらえる?」
データやリサーチでいつも助けられている分、その“お返し”として写真を送る。そんなやり取りが、気づけばひとつの習慣になっている。
