一次ラウンドでHRが急増した理由 HR増が示す今大会のレベルの高さ

March 12th, 2026

11日(日本時間12日)の3試合をもって、ワールドベースボールクラシックは一次ラウンドが終了した。各プールでは数多くの名勝負が生まれ、歴史的成功を収めた前回大会に引けを取らない、あるいは前回を上回る盛り上がりだったと言って良い。

この一次ラウンドの戦いを数字で振り返ると、そこには前回大会との大きな変化が見られる。

それは本塁打数の急増だ。

今大会の一次ラウンドで生まれた本塁打は92本。前回大会の一次ラウンドでは64本塁打だったことを踏まえれば、これは劇的な変化と言える。今回大会は合計2986打席で92本塁打が飛び出し、64本塁打が生まれるまでに3007打席を要した前回からは、1打席あたりの本塁打の割合も上がっている。

今回大会の本塁打増加の要因、そしてそれが示すものは何だろうか。

顔ぶれが変わったイタリアとドミニカ共和国が本塁打増を牽引

今回大会で本塁打が増えたのは、個別のチームの戦力アップに大きな要因がある。

本塁打の増加に最も貢献したチームが、プールBでメキシコとアメリカを差し置いて全勝で首位通過したイタリアだ。前回大会でも準々決勝に進出したイタリアだが、前回は一次ラウンドでは0本塁打、大会を通しても1本塁打に終わった。

しかし、今回は打って変わり、一次ラウンドの4試合で12本塁打を量産。主砲ビニー・パスカンティーノがメキシコ戦で3本塁打、ダンテ・ノリが2本塁打を放ったのを筆頭に、実に野手9人に本塁打が飛び出した。

イタリアのパワー覚醒は、顔ぶれが変わったことが大きい。前回大会では守備力に長けた小兵タイプが多くスタメンに名を連ねていたが、今大会では打力が評価される期待の若手がずらりと並ぶ。アメリカ戦で本塁打を放ったジャック・カグリオーンは、2024年ドラフト全体6位でプロ入りし、昨季デビューを飾った期待の大砲候補。カグリオーンを筆頭にノリ、アメリカ戦で先制弾のカイル・ティールなど、近年のドラフトで1巡目指名を受けた有望株が打線にはひしめいている。もちろん、前回大会では期待の若手という立ち位置だったパスカンティーノが成長を遂げ、MLB有数の長距離砲として打線を牽引しているのも見逃せない。

そして、イタリアと同じく本塁打数を伸ばしたのが、強豪ドミニカ共和国だ。前回大会ではベネズエラとプエルトリコの後塵を拝し、まさかの一次ラウンド敗退に終わったドミニカ共和国だが、今回は本領を発揮。イタリアを上回る13本塁打を放ち、一次ラウンド4試合はド派手な花火大会と化した。

ドミニカ共和国も、イタリアと同じく新顔の貢献が光る。前回大会は出場していなかったブラディミール・ゲレーロJr.、フェルナンド・タティスJr.、そして21歳のジュニオール・カミネロがそれぞれ2本塁打。前回大会ではメンバーの高齢化も目についたが、新星の台頭でその懸念は完全に拭い去られた。

本塁打数は増加も、打撃成績は低下。守備力アップが影響か?

しかし、本塁打数が急増した一方で、全体の打撃成績は低下した。

前回大会の一次ラウンドと比較すると、打率は.260から.225に低下。出塁率は.354から.331、本塁打が30本近く増えたにもかかわらず長打率は.400から.378へ下がった。

その結果、得点源は本塁打へ依存するようになった。本塁打によって生み出された得点の割合は、前回大会の一次ラウンドでは26.2%だったが、今大会では38.7%に上がった。

本塁打数の増加にもかかわらず、全体の打撃成績が低下したのはなぜだろうか?

その要因として考えられるのが、前回大会に比べ、今大会は守備力が高いということだ。今大会では守備の水準は確かに向上しており、それはデータにも現れている。

ここで用いるのはDERという「本塁打以外のフィールドに飛んだ打球がアウトになった確率」を示すデータだ(「本塁打以外のフィールドに飛んだ打球の打率」を示すBABIPを1から引いて求められるため、守備版のBABIPとも言える)。

今大会ここまでのDERは.735と、前回大会一次ラウンドの.675から60ポイント上がっていた。DERの平均値は.700前後と言われ、数値が高いほどより多くの打球をアウトにできたことを示す。つまり、DERの数値が上昇している今大会は、前回大会より守備力の水準が上がっていると言えるのだ。

今大会で本塁打が増えたのは、かつてより多くの打者が本塁打を狙って打席に立つようになっているという、現代野球のトレンドも一因だろう。そして、この本塁打狙いのトレンドが生まれたのは、ディフェンス(投手力+守備力)の向上も関係している。打者としては、対するディフェンスが良くなればなるほど、得点手段を本塁打に依存せざるを得ないためだ。7割前後の確率でアウトになるフィールドへのインプレー打球で単打、二塁打、三塁打を狙ったとしても、それらをつなげて得点するのは難易度が高い。一方で、本塁打はつなぐ必要がなく、得点に直結する。

そして、短期決戦では本塁打依存の傾向はさらに強まる。MLBのポストシーズンでは、投手の球速と奪三振力がレギュラーシーズンに比べて向上し、DERも上がる。そのため、安打をつなげて得点を目指すよりも、本塁打を狙う方が効率が良くなるのだ。多くの投手が調整段階の時期に行われるワールドベースボールクラシックとMLBのポストシーズンを短期決戦と一括りに扱うべきではないが、より優れた投手に起用が集中する決勝ラウンド以降では、本塁打依存の傾向は強まるかもしれない。

データが示した今大会のレベルの高さ

ここまでに示した本塁打の増加、そして守備力の向上といった要素から見えてくるのは、ワールドベースボールクラシックに出場する各国のレベルが上がっているということだ。前回王者・日本も、プールCではオーストラリアと韓国相手に接戦を強いられた。そして、前回準優勝のアメリカはイタリアに大量失点で敗れ、危うく一次ラウンド敗退もありえた。前回ベスト4のメキシコとキューバは一次ラウンドで敗れ、決勝ラウンドの顔ぶれには新顔のカナダ、そして17年ぶりに韓国が加わった。

これまでの大会を盛り上げてきた強豪国だけでなく、中堅国、そして予選を勝ち上がってきた国も、かつてないほどに戦力が整っている。一次ラウンドで2桁得点が入った試合は前回大会の14試合から今回大会では9試合に減り、コールドで決した試合も6試合から4試合に減った。強豪の代表が一次ラウンドで一方的な勝利を収める光景は、徐々にだが減りつつある。

各国のレベルが上がり、そして現代野球のトレンドをより反映するようになったことで、ワールドベースボールクラシックの野球は変容しつつある。2023年の前回大会は、球界にとって歴史的な成功だった。そして、一次ラウンドの激闘とその内容の変化は、今大会のみならず今後のワールドベースボールクラシックの成功を予期させる。