ほぼフル出場のローリーはなぜ疲れない? 背景にあるトレンドとは

片膝をつく捕手の割合は95%に

October 15th, 2025

今季60本塁打を放ったカル・ローリーが成し遂げた数え切れないほどの功績の中には、平凡だが極めて重要なことがある。それは、ローリーがほぼ毎日出場したことだ。

レギュラーシーズンでローリーは159試合に出場し、705打席に立った。そしてポストシーズンでも、地区シリーズ第5戦で延長15回の死闘を演じ、209球すべてを捕球。そして48時間足らずでア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS=7回戦制)第1戦に出場し、またしても9イニング、そして翌日の第2戦でも9イニングを捕手としてプレーした。

1961年に試合スケジュールが現在の162試合に拡大したときまでさかのぼると、レギュラーシーズンでより多くの打席に立った捕手(少なくとも半分の出場機会を捕手として過ごした選手を捕手と定義)は1人だけだった。それは、殿堂入り選手であり、おそらく史上最高の捕手であるジョニー・ベンチで、1974年には708打席に立った。ワイルドカード導入前の当時、ベンチを擁したレッズは98勝64敗の成績にもかかわらず2位に終わり、敗退した。

今季のマリナーズのシーズンは、まだ終わっていない。15日(日本時間16日)にALCS第3戦を迎えるローリーは、既に今季通算739打席に到達。ポストシーズンが拡大されたことで、ローリーはこれまでの捕手と比べても最も多くの打席に立ったことになる。

しかも、その疲労が溜まっているようには見えない。ALCS第1戦では貴重な同点弾を放ち、ポストシーズンでのOPSは1.078をマークしている。

これは明らかにローリーの入念な準備、そして肉体のタフさの賜物だ。昨季は序盤に歯を折りながら試合に出場し、2022年のポストシーズンでは左手親指を骨折して靱帯を断裂しながらも延長18回を守り抜いた。もちろん、最高レベルの捕手であれば当然のことながら、様々な打撲や小さいケガにも対処してきた。

ただ、これはほとんどの捕手に当てはまることでもある。捕手の仕事は過酷だ。打者として投手のレベル向上(球速、変化量)に追いつかなければいけないのに加え、捕手はそれを受ける側としての仕事もある。

それにもかかわらず、今季のMLBの捕手たちは30球団制以降で最高のWAR(代替可能な選手に比べ、どれだけ勝利数を上積みできたかを示す総合指標)79.7をマークした。さらに打撃成績も歴代で2番目に優れたシーズンだった。

最も注目すべきは、トップクラスの捕手がより出場機会を増やすことができ、それが全体的なパフォーマンスの向上につながったことだ。ナ・リーグでDH制が導入され、捕手が休みやすくなったこととも関係があるかもしれない。しかし、ずっとDH制を導入してきたア・リーグでも、最高のWARと打撃成績が記録された。

正捕手を置くより、2人の捕手を併用する球団が増えていた数年間を経て、今のMLBでは1人の正捕手が多くの試合に出る時代に逆行している。

その原因は、今MLBの捕手で片膝を地面についた状態で捕球することが急速に広まっていることと関係しているかもしれない。

片膝を地面について捕球する捕手の割合は、2020年の24%と比較すると、2021年に50%に増え、その後も右肩上がりに上昇し、今季は95%にまで到達した。これはフレーミングの重要性が広く知られ、その技術が進化してきたことと関係している。

そして、片膝つき捕球は、捕手の健康維持にも好影響を与えているかもしれない。

2021年秋、メジャー10年目のベテラン捕手ライアン・ラバーンウェイは、自身のブログに初めてフルシーズンを通して片膝つき捕球を実施した体験について記した。当初の目的はフレーミングの向上だったが、実際にはブロッキングも向上。そして、ラバーンウェイは身体的な効果も実感した。

「もう一つ学んだことがある。健康維持に役立った。スクワット(両膝を浮かせて構えるしゃがんだ状態)で全体重を支えている時間を短くすることで、毎試合の最後の打席で脚がフレッシュな状態を保てた」

今季オールスターに初選出された若手捕手ハンター・グッドマン(ロッキーズ)も言う。

「昔、みんながスクワットをしていた頃を思い出してほしい…。あんなに長い時間スクワットをするのは脚に負担がかかる。膝をつくことで、脚が少し休まるのは確かだ」

「捕手が片膝をつく理由は、パフォーマンスが向上するからだ」と語るのは、カブスのジェリー・ワインスタイン・コーチ。

「身体への負担が少なく、柔軟性、バランス、筋力もそれほど必要ない。それでいて、パフォーマンスが向上する。実にシンプルだ。選手は試合に勝つことに役立たないことはしない。捕手がそれを採用した最大の理由の一つは…疲労が少なく、膝をついた状態から捕球するのにそれほど労力がかからないからだ」と付け加えた。

証言はこれだけにとどまらない。

  • 「これでリアルミュートの肉体的な消耗はかなり軽減されると思う」(2021年、現役時代は15年間捕手を務めた当時のフィリーズ監督ジョー・ジラルディ。正捕手リアルミュートが片膝つき捕球に変えることについて)
  • 「負担を軽減する要素がいくつかある」(2021年、レッドソックスの元名捕手でコーチ、ジェイソン・バリテック)
  • 「捕手はもっとプレーできるようになる。もっと長くプレーできるようになる。多くの伝統的な捕手のように、膝や腰、背中に激しい衝撃や消耗に耐える必要がなくなる」(現役時代は捕手として2度オールスター選出、現ガーディアンズ監督スティーブン・ボート)
  • 「(フィリーズの捕手コーチ、クレイグ・)ドライバーは、低い姿勢で構えることで(ホルヘ・)アルファロにとって有利になると言っている。ボールの行方がより近くなり、低めの球をストライクゾーンに引き上げやすくなり、しゃがむよりも膝への負担も軽減されるからだ」(2018年、フィラデルフィア地元メディアに掲載)
  • 「片膝をつく方が実は楽だ。両膝が地面に着地するタイミングがずれると、体が硬直してしまう。考えてみてほしい。片足ずつジャンプして着地すると、体が震え、目も震えて、体が混乱する。片膝なら滑るようなものですから、落ち着くんだ」(11年間捕手としてプレー、現在コーチを務めるサル・ファサーノ)

もちろん「疲労」を直接示すデータはない。われわれが示せるのは、捕手がどれだけの頻度で重い負荷を担っているかだ。昨季、400打席以上に立った捕手は21人で、2014年以来で最多。30球団制以降の27シーズンでは史上5番目に多い数字だった。わずか3シーズン前には、400打席以上立った捕手はわずか14人で、1995年以来最少に落ち込んでいた。

もう一度言うが、これはナ・リーグのDH制導入だけの影響ではない。今季400打席以上立ったア・リーグの捕手は13人で、30球団制以降では2005年と並んで最多だった。500打席以上立った捕手は5人もおり、これは2017年から2021年までに同じ程の打席数をこなした捕手と同じ数だ。

2005年をピークとして、2016-17年に400打席以上立った捕手の数が最低水準に落ち込むまで、正捕手の概念は絶滅危惧種のようにも映った。MLBの捕手の負担は減り続け、2015年、2016年、2018年、2019年にはア・リーグの捕手の打撃パフォーマンスは史上最も低い水準にあった。

13 American League catchers took at least 400 plate appearances. In 2016 and '17, it was just five.

もちろん、この打席数には捕手以外で出場したときの打席数も含まれる。たとえば、今季ローリーは総打席数の4分の1をDHとしてこなした(ただ捕手として出場したときの方が打撃成績は優秀)。強打で鳴らしたサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)も一塁手として出場することが多い。とはいえ、これは珍しいことではなく、1974年のベンチも20%の打席を三塁手としてこなした。

打席数だけではなく、捕手としての出場時間が増えていることにも注目すべきだ。34歳で衰えの兆しも見えてきたリアルミュートは、今季MLBトップの1151回1/3で捕手を守った。これは自己最多であるのみならず、フィリーズの捕手としては1999年以来の最多記録、そして2016年のヤディアー・モリーナ以降で最も多い出場イニング数だった。

そしてリアルミュートのみならず、他にも5人の捕手が2016年以降の捕手としての球団最多イニング数を更新した。ローリーは2006年の城島健司以来、最多のイニング数を守り、レッズのタイラー・スティーブンソンも1993年以来の記録を更新した。

ここに登場した全員が片膝をついていることは言うまでもない。

そして多くの捕手がより多くの試合に出る中、ローリーは飛び抜けた成績を残した。ファングラフスが算出するWARによれば、今季のローリーは歴史上2番目に優れた捕手としてのシーズンを送った。

ローリーは過去2シーズン、投球の98%を片膝をついた状態で捕球している。これが球界のビッグスターたちの活躍に貢献しているのであれば、なおさら良いことだ。こういった風潮がなく、より多くの打席数に立てていなければ、ローリーは60本塁打を打てなかったかもしれない。

現役時代は9年間捕手として活躍し、のちにワールドシリーズ優勝監督となるボブ・ブレンリーは、捕手の過酷さについてこう言った。

「シーズンが終わる頃にはまるで中古車のような気分だ」

しかし、ローリーや他の多くの現代の捕手は、まだまだ10月を健康に走り続けている。