ファン・ソトがナショナルズに入団したのは2016年、17歳のときだ。
その年、チームは三振数がとても多く、マイナーリーグの打撃コーディネーター、トロイ・ギングリッチは、ツーストライクから新しいアプローチをとる案を導入した。
「ナショナルズの全選手にツーストライクからの作戦とアプローチを徹底した。17歳のときにバットを短く持ち構えを低くするように指導され、それが自分の型になっている」とソトは振り返る。
それから10年、球界を代表するスター選手になってもその型は変わらない。ソトと投手のツーストライクからの攻防はある意味「名物シーン」になりつつあり、追い込まれても相手投手から主導権を奪うことができる数少ない選手だ。
Statcastは現在、MLBの全打者のバッティングスタンスデータを提供しているが、ソトのツーストライク未満と以降の構えの違いが数値化されている。
ツーストライクまでは前足が内側を向き、通常のストライドをとっている。
「それまではどのカウントでも同じスタンスで打っていた」
ツーストライクからは投手に対して足を少し広げて真っ直ぐに地面につけ、体を低くしてステップを短くする。これはスイングをコンパクトに保ち、真っ直ぐにボールにコンタクトするためだ。
「動きを抑え、球を手元まで見るために構えを低くしている。もちろん足を上げれば勢いをつけられる。でも足をしっかりつければもっとシンプルに攻められる」
聡明なソトは、明確な意図をもって打席に入っている。
例えば、トレードマークである前足をやや内側に向ける置き方はコーリー・シーガーなど、ごく少数の打者しか採用していない。これはソトがまだ中学生だった頃に考え出した。
「思うように打てなかった頃、どうしたら投手に対して腰を真っ直ぐに保つことができるか考えた。回転が速すぎることに気づき、『足を少し内側に向けて上げれば腰がピッチャーの真横に来る』と思いついき、それを今でも続けている」
ソトは選球眼が良く、あらゆる方向に打球を打てることで知られる。安打の打球方向チャートを見ると、カウントに関わらずどの方向にも打てることが分かる。
メジャーで8シーズン、4チームでプレーしたが、中学生の時に身につけたスタンスとルーキー時に身につけた2つのスタンスで打席に立つ。
19歳、2018年にナショナルズでデビューし、2019年にワールドシリーズ進出。またヤンキース(2024年)、メッツ(2025年)時代を見てもほぼ同じだ。
速球投手に対応すべく、ソトは手の位置を下げて肩の後ろ側に近づけ、スイングの入りを早くした。ゲレロジュニアやデバースなども同様のアプローチに変えている。
「以前は、誰もが腕を高く上げて、そこから打ち出していたけれど、ゲレロやデバースは速球に対応するために手を上から下へとアプローチを変えた」
ソトはツーストライクからは上体を少し起こし、足がより深く沈み込むように微調整を加えた。そのためツーストライクから100マイル超の球を投げられてもより短いスイングで対応できるようになった。
現在の球界ではカウントに関わらず、同じ「Aスイング」をする選手が一般的で、ソトのように2つを使い分ける選手は稀だ。
だがソトは自分のスタンスが可視化されているだけで、偉大な打者は皆、ツーストライクへのアプローチを持っている、と考える。
ソトのスイングは「Aスイング」対「Bスイング」ではなく、パワー重視とコンタクト重視の2つの異なるAスイングだという。
「スタンスを変えなくても、皆、打席でのメンタリティは変えている。僕はツーストライクからバットを短く持ち、スタンスを変える方法を教わり、今でもそれを実践しているけれど、優秀な打者のほとんどはそれぞれのツーストライクのアプローチがあり、彼らは違う方法でそれを学び、違う方法で実践していると思う」
ソトは現在のメジャーの打者の中で、ツーストライクとツーストライク未満のスタンスの違いが最も大きい選手の一人だ。
ソトのバッティングスタンスは、ツーストライク未満の場合は足の間隔は40インチ(約102cm)幅。ツーストライクになると、彼はそれを45インチ(約113cm)まで広げる。
2024年シーズン開始以降ツーストライク未満と以降でスタンスが変わる選手は
- ローレンス・バトラー:11インチ(約2.5cm)幅広
- アレク・バーレソン:10インチ(約25cm)幅広
- ノーラン・シャヌエル:7インチ(約18cm)幅広
- ライアン・ジェファーズ:5インチ(約13cm)幅広
- ファン・ソト:5インチ(約13cm)幅広
ソトは打席に入る際、つま先を内側に向け、かかとを地面から浮かせると、スタンスが狭まり、パワーAスイングのストライドを確保できる。
ツーストライク以降は足を水平に戻し、地面に平らにつけることでしっかり踏み込むことがでる。
「ツーストライク前なら、もう少し逆方向により遠くへボールを飛ばせる気がする。ツーストライクからホームランを打ったこともあるけれど、遠くに飛ばすよりも安打にする意識で打席に入る」
セットアップの変更により、ソトは打席の位置も少し投手の近くに変えている。ツーストライク未満では、バッティングスタンスの角度は15度広がり(前足が後ろ足よりも打席の外側に近い)。ツーストライクのスタンスでは、この角度は9度に縮まる。肉眼では微妙な変化に見えるが、ソトはツーストライクの哲学を守り、センターや逆方向にライナーを打ったり、四球を狙う。
「常にアグレッシブなプレーを心がけている。でも何も考えずに強く叩きつけたり、振るのではなく、じっくり球を見ることを意識している」
ツーストライクへのアプローチをまだ模索していたメジャー1年目、17四球、29三振(打率.368)という成績だったが、このアプローチに慣れた2年目は三振よりも四球の数が多くなった。2017年はマイナーリーグ32試合で12四球、三振はわずか9、2018年は39試合で29四球、三振は28だった。
メジャー昇格後はさらに磨きがかかり、過去5シーズンでも四球数が三振数を上回る。
ツーストライクからの出塁率は、メジャー平均で打席の4分の1未満に対し、ソトは3分の1をマークし、これは2018年以降、どの打者よりも高い。
「ツーストライクのスタンスは四球増加に役に立った。ツーストライクから何も考えずに外野に打つのではなく、とにかく安打にする意識に変わった。それが今のストライクゾーンを確立するのに役立った」
ファン・ソトは世紀に一人の打者テッド・ウィリアムズの現代版だ。
「ツーストライクになったら、自動的にツーストライクのスタンスになるんだよ」
