ジョー・カーターは、これまでに何百万回も同じ話をしてきた。
ブルージェイズのレジェンドは、1993年のワールドシリーズ制覇を決めたサヨナラホームランについて、今でも毎日のように尋ねられるという。「全部の塁を踏め、ジョー!(Touch ‘em all, Joe)」という名実況で知られるあの瞬間は、球団史上最高の輝きであり、カーターはいまもその象徴として語り継がれている。
カーターはあの本塁打が、どれほど多くのブルージェイズファンにとって特別なものかを深く理解している。チャリティーイベントでも、著名人ゴルフトーナメントでも、OBの集まりでも、決まって話題に上るのは「ブルージェイズが最後にワールドシリーズへ行った年」だ。
だが、それももう終わる。
ドジャースとの2025年ワールドシリーズで1勝0敗とリードして第2戦を迎えた。カーターは、こうした瞬間がブルージェイズの選手たちにとってどんな意味を持つのかを振り返った。
「全力でスイングして、ホームランを打てば、一生愛されるんだ」とカーターは笑いながら語った。
「それはトロントだけの話じゃない。カナダの東から西まで、どこへ行ってもブルージェイズの話題になる。つまり、カナダ全体のことなんだ。それが何よりも心を温かくしてくれる」
ジョージ・スプリンガーがア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS)第7戦で放った、ブルージェイズをワールドシリーズに導くホームランについて問われると、カーターの顔は一気に明るくなった。それはカーター自身の一打に次ぐ、球団史上2番目に大きな本塁打と言っていいだろう。その夜、カーターは自宅でひとり、他のファンと同じように観戦していた。
「もう飛び跳ねて、壁を叩いてたよ。まるであの瞬間をもう一度体験したようだった。なにしろ32年ぶりだからね。これでみんなが“92年と93年のブルージェイズ”の話をしなくても済む。今のチームが新たな時代を作っている」とカーターはうれしそうに語った。
ブルージェイズのジョン・シュナイダー監督は、球団在籍23年目。だからこそ、あの瞬間が持つ意味を誰よりも理解している。
「あのスイングと、“Touch ‘em all, Joe”という言葉が球団の象徴なんだ」とシュナイダー監督は語る。
「カーターは第1戦のあとに、クラブハウスで私たちと話していたけど、あまりにも自然で、誰と話しているのかを忘れるくらいだった。あれから30年以上経って、彼が再びこの場所でワールドシリーズの始球式を務めるなんて最高だ。あの時、ミッチ・ウィリアムズがマウンドで崩れ落ち、花火が上がった光景はいまでも昨日のことのように覚えているよ」
カーターは第2戦の始球式を務めた。第1戦の始球式を行ったのは、当時の指揮官シート・ガストンだった。
シュナイダー監督はガストンの投球を受ける役を務め、ブルージェイズをワールドシリーズに導いた2人の監督が同じグラウンドに立った。ガストンとシュナイダーは、ゴルフなどを通じて親交を築いてきたが、それでもこの場面は45歳の若き指揮官にとって特別な瞬間だった。
「彼は『素晴らしい仕事をしているし、このチームのスタイルも素晴らしい。本当に誇りに思うべきことだ』と言ってくれた」とシュナイダーは語った。
「それを彼の口から聞けたのは本当にうれしかった。捕球後、フィールド上で『この舞台であなたと、多くのレジェンドたちと一緒に立てて光栄です』と伝えた。彼が先に歩くように自分は一歩引いた。そうするのが当たり前だと思った」
ガストンはシュナイダーに「史上最短の始球式」になると伝え、実際にわずか3メートルの距離でストライクを投じた。その後ガストンがボールにサインを頼んだ時、シュナイダーは驚いたという。
「もちろんサインしたよ。そして次はサインをもらいますねって約束したんだ」とシュナイダー監督は笑った。
第2戦には、ブルージェイズのレジェンドたちが勢ぞろいした。1992年、球団史上初のワールドシリーズ制覇から33年。彼らは長い間、新たなチームが自分たちの仲間入りを果たす瞬間を待ち続けている。
