ロサンゼルス・ドジャースが4勝3敗でトロント・ブルージェイズを下し、21世紀初の連覇を達成して幕を閉じたワールドシリーズ。「史上最高」との呼び声も高かった全7試合の激闘を、現地で観戦もした杉谷拳士さんに振り返ってもらった。
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杉谷拳士さんプロフィール
2009年に入団テストを経て北海道日本ハムファイターズへ入団。現役時代、投手捕手以外の 7ポジションを守り、かつスイッチ ヒッターとしてマルチにチームに貢献。2019年5月23日には両打席本塁打を記録。在籍 14 年、2022年に引退。2023年4月3日に株式会社ZENSHIN CONNECTを設立。
魂と魂のぶつかり合い──これがワールドシリーズなんだ
――歴史に残る熱戦となった今年のワールドシリーズ。その中でも最も杉谷さんの印象に残った試合を教えてください。
3戦目の延長18回(ドジャースが6対5でサヨナラ勝ち)。これはもうどんなことがあっても、僕の野球人生の中でもベストゲームだと感じています。
――杉谷さんはこの試合を現地でご覧になっていたんですよね?
第3~5戦の3試合を観させていただいて、この試合が初めてのワールドシリーズというのもあってちょっと色眼鏡は入ってるかもしれませんけど、本当に素晴らしかった。まず、大谷翔平選手(31)が4長打(うち本塁打2本)、9打席連続出塁。そんな選手はいまだかつて見たことがなかったですし、ブルージェイズがそれに立ち向かっていく姿。あの魂と魂のぶつかり合い、これがワールドシリーズなんだと感じました。
――しかも延長18回という日本では考えられない試合でした。
そうですね。僕は時差ボケ対策のつもりで、飛行機でも一睡もしなかったんですよ。着いてすぐに球場に行って、夜11時ぐらいには(宿に)帰れるだろうからそこでキッチリ寝て、2戦目、3戦目は万全な状態でと思ってたんです。まさか39時間も起きてるとは思いませんでした(苦笑)。
――試合中に眠くなるようなことはなかったですか?
眠くなる暇もなかったですし、トイレに行こうと思っても展開が目まぐるしく変わっていたので、一つも見逃したくないって気持ちでいたらトイレにも全然行かなかったですね。もう一瞬でも目が離せなくて。最初、冗談半分で「15回ぐらいまで行くんじゃない?」って話をしてたんですけど、ここまで来たら延長20回まで見てみたかったですね。山本由伸投手(27)が(19回に備えて)ブルペンに行ったのも分かっていたので、この試合にかける両チームの思いを最後の最後まで見たかったです。
――この試合、最後はフレディ・フリーマン選手(36)のサヨナラホームランで決着がつきましたが「これはすごい」と思ったプレーなどはありますか?
トミー・エドマン選手(30)が(10回表2死一塁で)ライトからのカットプレーで本塁アウトにした場面ですね。(ライトの)テオスカー・ヘルナンデス選手(33)のクッションボール処理だったり、最後にランナーをホームでアウトしたり、そういったところに目が行きがちなんですけども(打球が)クッションになった時にセカンドのエドマンが「俺に投げろ! 俺に投げろ!」ってものすごいジェスチャーで呼んでいたんですよ。ちょうど僕のところから動きが全部見えていたんですけど、ああいう姿を見てエドマンってこういう目立たないところでも素晴らしいプレーをする選手なんだなと感動しました。
――球場の雰囲気などはどうでしたか?
僕はレギュラーシーズンでもドジャースタジアムには行ったんですけど、雰囲気が変わってました。レギュラーシーズンの雰囲気ではなかったです。空気が違うというか、球場に入った瞬間に世界最高峰のエンターテインメントが始まるんだっていう、みんなワクワクして胸躍るような気持ちで観に来てる姿が印象に残ってますね。1球1球に対する歓声もすごかったですし、何よりも熱気。ロサンゼルスって夜になるにつれて冷えていくんですけど、球場の中は熱気が渦巻いていて暑いんでみんな半袖なんですよ。試合が終わって球場を出たら「やっぱ寒いよね」ってなるんですけど。
――独特の緊張感みたいなものも?
そうですね。「ここだ!」っていう場面でシーンと静かになる瞬間は、何か世界陸上の100メートル走のスタート前みたいな感じで「うわっ、ファンの方々の目が肥えてるな」と思いました。あの時のことを思い出しただけで、手汗が出てきます(笑)。
――やはりワールドシリーズは特別な舞台ですか?
そう感じました。あの盛り上がりは現地でしか感じることができないなと思いましたし、選手たちがチャンピオンリングをつかむために、長いシーズンでボロボロになった身体を酷使しながら戦っている姿は本当にかっこよかったですね。僕もワールドシリーズを観たことによって、日本でもクライマックスシリーズ、日本シリーズとあれぐらいの熱気を生んでもらいたいなと思ったので、生きているうちにそういった貢献を野球界のためにしたいなという思いが強くなりました。
ドジャースを奮い立たせた山本由伸の立ち振る舞い
――ワールドシリーズでの7試合を通して、特に印象的だったシーンや選手は?
やっぱり山本投手に尽きるんじゃないですかね。山本投手のマウンド以外での立ち振る舞いが選手を奮い立たせたと思いますし、目に見えない闘志が選手にひしひし伝わってくるような、そんなシリーズだったのかなと感じました。自ら志願してブルペンに入ったり、先発した次の日も投げたりと、これだけチームの心を動かせるのはすごいなと思いました。ワールドシリーズMVPに選ばれましたけど、これはもう他に選べないですよね。こんな選手はなかなか出てこないし、歴史に名を刻んだシリーズになったと思います。
――では野手の中から1人選ぶとしたら?
負けはしましたけど、ブルージェイズはブラディミール・ゲレーロJr.選手(26)の存在感が大きかったですね。チームの勢いを加速させるような打撃はすごいと感じましたし、彼が打つことによってブルージェイズ打線が「よし行くぞ!」って勢いづいてました。3戦目にあれだけのサヨナラ負けをしたら4戦目、5戦目と崩れていくんですけど、そこから立て直せるだけの存在感がゲレーロJr.にはあったと思います。
――そのゲレーロJr.選手も含め、ブルージェイズについては?
粘り強いなと思いました。もっと淡白な攻撃なのかなと思いましたけど「組織」でドジャースに挑んでるなという感じがしましたね。右打ちをしたり、ここで1点欲しい場面でしっかりと点を取りに行く打撃をしたりとか、状況に応じたバッティングをしている姿を見て「なるほど、こういう繊細なプレーもできるチームなんだな」と感じました。コンタクトに長けたヒッターが多いイメージもあって、ドジャースに山本投手がいなかったらブルージェイズが勝ってたかなと思うぐらいなので、相当強かったなと思いました。
――第7戦までもつれ込んだ接戦。最後に明暗を分けたのは山本投手の存在ですか?
あとはドジャースのチーム力ですね。そこにはデーブ・ロバーツ監督のマネジメント能力も含まれてくるのかなと感じました。先発4枚をリリーフで投入する執念の采配、野手でも調子が悪いと思ったらスパッと代えるあたりも、そういった要所要所での起用は短期決戦慣れしている監督だなという印象を受けました。
――来年は1998~2000年のヤンキース以来となるワールドシリーズ3連覇がかかります。
そうですね。ただ、何を隠そう僕はパドレスファンなんで。ダルビッシュ有さん(39)がいる間にパドレスがドジャースを倒す姿を僕は見たい。もちろんドジャースも応援しているんですけども、ダルビッシュさんがまだ手にしてないチャンピオンリングを獲るところが見たいんですよ。(右肘手術で)来年は投げられないかもしれないですけど、必ず復活してくると思いますので、その日を夢見てパドレスを応援し続けます。
――今回のワールドシリーズを通じてMLBに興味を持ったという日本のファンも少なくないと思います。改めてその魅力、見どころを伝えていただけますか?
日本の選手ももちろん能力は高いんですけど、MLBの選手たちの球の速さ、足の速さ、守備範囲の広さ、パワーといったところはもう超人級です。世界にはまだまだ知られていない超人がたくさんいることを、僕はMLBを見て感じました。スーパープレーヤーがたくさんいて、野球の常識を覆すような超人だらけなので、そのあたりをぜひ見てもらいたいなと思います。できたら現地に行って感じてほしいです!
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