レッドソックスと熱狂的なファンは、ピート・アロンソが今後5シーズン、もはやレッドソックスが手の届かない存在になったことを突然思い知らされた。
しかし、ボストンにとって今オフは、「ポーラー・ベア(白熊)」ことアロンソの獲得だけを目指していたオフではない。
レッドソックスのクレイグ・ブレスロー編成本部長には、4番として担うはずだった打撃面の穴を埋める別の手段がいくつも残されている。
その中でも最も有力なのが、本塁打を量産するだけでなく多方面でチームに貢献できる選手だ。
名前が挙がるのが、ダイヤモンドバックスがトレード要員として市場に出しているケテル・マルテだ。
マルテは、実績に見合った現実的な契約条件で獲得できるだけでなく、レッドソックスが長く安定して任せられる選手を欠いてきたポジションを守ることができる。きっかけは、2017年にボルチモアで行われたあの試合の夜だ。マニー・マチャドが手術で修復したダスティン・ペドロイアの左ひざにスパイクを突き立てた一件以来、ボストンの二塁は落ち着かないままだった。ペドロイアが正式に引退を表明したのは21年シーズン前だったが、実質的にはあの夜に現役生活を終わらせたと言っていい。
その日から、ボストンの二塁には次々と別の選手が入る時代が始まった。イアン・キンズラー、エドゥアルド・ヌニェスら多くの選手が入れ替わり、立ち替わり、そのポジションを埋めてきた。
二塁はまさに“回転ドア”状態だ、と言っても大げさではない。ただ、その状況も、レッドソックスがマルテとのトレードでダイヤモンドバックスの求める対価を満たすことができれば、一気に変わるかもしれない。
ボストンがマルテを獲得すれば、どんな選手を手に入れることになるのか。昨季は左ハムストリング(太もも裏)の負傷を抱えながらも、bWAR4.4(勝利貢献の総合指標、ベースボール・リファレンス版)、打率.283、出塁率.376、長打率.517、28二塁打、28本塁打、72打点を記録した32歳のスイッチヒッターだ。
わずか2シーズン前には36本塁打を放ち、bWAR6.8をマークしている。2024年には、二塁手としてOAA(平均的な野手と比べてどれだけアウトを取ったか)プラス8を記録し、メジャー全体の二塁手の中で6位に入った。昨季はこの数字がプラス1まで落ちたが、その多くは下半身の状態が万全でなかったことが要因だと見ていい。
アロンソを獲得するには、オリオールズと結んだ5年総額1億5500万ドル(約240億円)に少なくとも匹敵する条件を提示する必要があったはずだ。報道によると、ボストン側が本気で検討していたのは3年プラス球団の契約延長権利付という案にとどまっていた。
マルテはオールスター3回選出、2023年ナ・リーグ優勝決定シリーズのMVPにも輝いている。2030年までの基本年俸は、2026年が1500万ドル(約23億円)、2027年が2000万ドル(約31億円)、2028〜2030年がそれぞれ2200万ドル(約34億円)と設定されている。
最近の報道では、マルテの契約には5球団を対象にした限定的なトレード拒否条項があり、その中にヤンキースが含まれているとされるが、レッドソックスはそのリストには入っていない。
マルテは2026年シーズンの早い段階でいわゆる「10&5権(※)」を取得する。これは、本人が望まないトレードをどの球団に対しても拒否できる権利を得るという意味だ。
※10&5権=メジャー通算10年以上の実働があり、そのうち直近連続5年以上を同じ球団でプレーしている選手が得られる権利
ダイヤモンドバックスのマイク・ヘイゼンGMは、マルテを必ずしもトレードしなければならないとは考えていない。ただ、球団全体の戦力構成を見極めながら動くうえで、今オフはトレードにかかる制約が最も少ない時期でもある。
レッドソックスは、投手陣と野手陣の両方でトレードに出せるだけの層の厚さを持つ数少ない球団の一つだ。
今オフにソニー・グレイとヨハン・オビエドを獲得したことで、ボストンはすでにギャレット・クローシェ、ブライアン・ベイヨ、カッター・クロフォード、パトリック・サンドバル、カイル・ハリソンがそろう先発ローテーションをさらに厚くしている。
9月と10月に昇格してすぐ結果を残した左腕のペイトン・トール(MLBパイプラインによる球団有望株ランキング2位)とコネリー・アーリー(同4位)という2人の有望株もいる。
将来的な先発候補をトレードに出すことは、特にブレスロー本部長のような考え方をする幹部にとって歓迎しづらい決断だ。それでもボストンは、ここ2回のMLBドラフトで投手を大量に指名して投手陣の土台を固めてきた。
次の段階を担う有望株としては、トミー・ジョン手術から1年以上が経過したルイス・ペラレスを筆頭に、カイル・ウィザースプーン、マーカス・フィリップス、アンソニー・エイアンソンらが控えており、遠くない将来に台頭してきてもおかしくない。
さらに外野には、特有の事情がある。レッドソックスは、将来のスーパースター候補ロマン・アンソニーを筆頭に、オールスターMVP経験のあるジャレン・デュラン、昨季ア・リーグのゴールドグラブ賞を受賞したセダン・ラファエラとウィルヤー・アブレイユら、先発レベルの外野手を4人抱えている。
アンソニーを動かす考えはない。ただし、見返りのパッケージ次第では、ブレスロー本部長が他の外野手の1人を放出する判断を迫られる可能性がある。
ブレスロー本部長は、規模の大きいトレードをまとめるには、自分が居心地の悪さを覚えるような決断が必要になる場面もあると話してきた。どこまで踏み込む覚悟があるのかを分かっているのは、本人だけだ。
1年前の今ごろには、球団自慢の「ビッグ3」有望株の一員とみなされていたクリスチャン・キャンベルとマルセロ・メイヤーのどちらかを手放すことができるのか。キャンベルは新人シーズンに多くを課され、6月にマイナーへ戻る前に急激に失速した。メイヤーは、とくに守備面で才能を示した一方で、今季もシーズンを通して健康を維持することができなかった。
ただ一つ確かなのは、マルテがレッドソックスの打順の中軸にすんなりと収まり、長年の課題だった二塁に待望の安定感をもたらす姿が、はっきりとイメージできるということだ。
