【ブルージェイズ1-3マリナーズ】トロント/ロジャースセンター、10月12日(日本時間13日)
この夜の大半、ケビン・ゴーズマン(34)はロジャースセンターを完全に支配していた。だが、ひと振りでその魔法が解けた。
5回2/3を無失点に抑える圧巻の投球を続けていたゴーズマンの快投は、マリナーズ打線の中軸、カル・ローリー(28)の本塁打で破られた。ブルージェイズは今週、この強打者をどう封じるかを中心に戦略を立てることになるだろう。ヤンキースとの地区シリーズでのアーロン・ジャッジのように、ローリーの一撃は避けがたい破壊力を持つ。だが、このあと続く2人の打者によって試合の趨勢(すうせい)は決した。ブルージェイズは敗れ、ア・リーグ優勝決定シリーズ(ALCS=7回戦制)の初戦は重い黒星で幕を開けた。
フリオ・ロドリゲスに四球を与え、ゴーズマンは六回途中、わずか76球で降板した。
これは地区シリーズ第1戦でも同様。75球、同じく5回2/3で交代していた。今回もあらかじめ決められていたような投手交代に見えたが、今回はその策が裏目に出た。
ブルージェイズの2番手ブレンドン・リトルは、ワンバウンドしたカーブでロドリゲスを二塁へ進めてしまうと、続くホルヘ・ポランコに内角高めのストレートを打たれ、痛烈なライナーが左前へ抜けてマリナーズに勝ち越し点を許した。
「状況を読み取るのは難しいし、試合ごとに流れは違う」とジョン・シュナイダー監督は語った。
数日前のニューヨークで、シュナイダー監督はヤンキースを相手に“ブルペンデー”で挑んだ。
そして、監督として最高の采配の一つと言える勝利を解説していた。厳しい敗戦のあとでは、投げかけられる問いの響きは少し変わる。それでもシュナイダーは自分の思考過程を率直に明かした。
「ケビン(ゴーズマン)が彼(ポランコ)を2度打ち取っていたのは分かっている。理解しているよ」とシュナイダーは言った。
「スイッチヒッターを(投手交代により)打席で逆側に回すのは有効なときがあるし、誰をマウンドに送るか、その投手がどんな球種を武器にするかにも左右される。あの瞬間は、それが最善だと判断した」
1−0の僅差でも、ブルージェイズが試合を完全に掌握しているように見えたのは、ゴーズマンの存在ゆえだった。速球をきっちりとコースに投げ分け、驚異的なスプリットでマリナーズに手を出させ、勝負どころではマウンド上で気迫を出した。
「もっと空振りを奪いたかった。ブルペンは全員休養十分だったからね」とシュナイダー監督は語った。
「最後の打者フリオ(ロドリゲス)を打ち取らせたかったが、あそこは(ロドリゲスがポランコの)どちらと勝負するかの判断だ。四球のあとは流れを止めたかった。ワイルドピッチのような展開は想定していなかったしね。ケビンは本当に素晴らしい投球をした。期待どおりの内容だったよ」と先発右腕をたたえた。
スタミナ切れでもなかった。ロドリゲスに投じた最後の球はこの日、4番目に速い96.4マイル(約155キロ)の速球だった。
「プレーオフでは、先発がそこまで長いイニングを投げることはあまりない」とゴーズマンは語り、早すぎた降板という見方を否定した。
「自分の仕事をできる限り果たそうとした。ホームランと四球は与えたけれど、それまではすごく良い感覚で投げていたし、試合もつかめていた。責任は自分にある」
ゴーズマンの悔しさは理解できるが、自己批判はやや厳しすぎる。これがキャリアで最も重要な登板になることを示していた。だが現実には、第1戦は“ポストシーズンの脆(もろ)さ”を突きつける教材になってしまった。試合は拮抗し、残るのは強い者だけという舞台だ。
それでも受け入れ難いのは、ローリーの本塁打と早めの降板を差し引いても、ゴーズマンはブルージェイズが勝つために十分な投球内容だったからだ。中3日のブライス・ミラー相手に、ゴーズマンが5回2/3を2失点でまとめる、そんな提案を受けていたなら、シュナイダー監督はうなずいて「もちろんだ」と応じていたはずだ。
ローリーの本塁打までは、ゴーズマンはマリナーズ打者を15者連続で打ち取っていた。責任の先はいくつもある。とりわけ、先頭のジョージ・スプリンガーが本塁打を放って以降、わずか1安打に終わった打線に責任の矛先は向けられるべきで、ゴーズマンではない。ときには、60本塁打を放ち、ジャッジとア・リーグMVPを争ったような打者にやられることもある。
「それより直後にフリオを歩かせたことのほうが悔しい。明らかに、あれが勝敗を分けた」
ゴーズマンは痛恨の四球を最後まで悔やんだ。
これでブルージェイズは、今ポストシーズンで初めてビハインドを背負った。地区シリーズは打って勝ち抜いたが、その火力をほんの少しでも第1戦に持ち込めていれば、今ごろ語られているのは、ゴーズマンの盤石の投球内容だったはずだ。
