ここ数カ月、カイル・シュワーバーはいろいろな関係者と話を重ねてきた。
その対話はフィラデルフィアから始まった。10月にドジャースタジアムでシーズンが失意のうちに終わった直後、フィリーズのデーブ・ドンブロウスキー編成本部長とじっくり話し合う時間を持った。
冬を前にシュワーバーの家族がオハイオに戻る直前、フィリーズのオーナー、ジョン・ミドルトン氏がニュージャージー州南部にあるシュワーバーの自宅を訪れた。2人はそこで互いの家族やフィリーズ、そして将来について長く話し合った。その時点でシュワーバーは正式にはフリーエージェントではなかったが、間もなくそうなる見込みだった。
ドンブロウスキー本部長とミドルトン球団オーナーは、自分たちがどれだけシュワーバーの残留を望んでいるかを伝えた。
「あのときの会話はずっと忘れずにいました」とシュワーバーは語った。
シュワーバーは8日の夜、フィリーズと5年総額1億5000万ドル(約233億5000万円)の契約に合意した。この契約は9日の夜に正式発表された。
「フィラデルフィアで過ごしたこれまでの4年間で心に残る出来事が本当にたくさんありましたし、これから先のフィラデルフィアでも素晴らしいことがたくさん待っていると分かっていました」とシュワーバーは語った。
シュワーバーはフィリーズのオファーを受け入れる前に、他球団とも話し合いの場を持っていた。『ジ・アスレチック』によるとオリオールズは5年総額1億5000万ドル(約233億円)を提示。レッズは5年総額1億2500万ドル(約194億円)規模のオファーを出し、パイレーツも4年総額1億2500万ドル(約194億円)を提示していた。
ほかにも複数の球団が、シュワーバー獲得に関心を示していた。
「オフに入ると、いろいろな球団といろいろな話をすることになる。でも、そういう会話の記憶が新しいからといって、(フィリーズとのやりとりを)何か忘れてしまったという意味ではない」とシュワーバーは話した。
「あのときデーブやミドルトンさんと話した時間や内容が、どれだけ大事だったかは分かっている。ちゃんと心に刻んでいたよ」
「オーナーは勝つことに本気で取り組んでいる。デーブ(ドンブロウスキー本部長)は、うちの球団がこれからもワールドシリーズ制覇を目指して前に進み続けることを望んでいる。ナ・リーグ東地区で勝ち続けたいという思いもある。選手として、これ以上何を望めるだろうか。素晴らしいファンもいる。水曜のデーゲームでも、4万人くらい入ることがある。そういうことを、自分は決して当たり前だとは思っていない。ほかの選手たちにも、あの雰囲気を経験してほしいと思うくらいだね」
シュワーバーは、フィリーズが勝利を目指し続ける姿勢に価値を感じている。また、クラブハウスで築いてきた人間関係、シーズン後に3年契約を結んだ打撃コーチのケビン・ロングとの特別な関係を大事にしている。ロングは、カブスから2020年シーズン終了後にノンテンダーとなったシュワーバーのキャリアを2021年にワシントンで立て直す手助けをした。
ロングが今後もフィリーズのコーチングスタッフにとどまることは、シュワーバーにとって重要だった。
「もちろん、しっかり考えないといけない要素だよね」とシュワーバーは話した。
このオフ、シュワーバーがフリーエージェントとしての去就をクリスマス以降まで長引かせることはなさそうだ、という見方もあった。
関心を示した球団と話し、状況に納得できた段階で決断したいと考えていた。オーランドでは7日の夜にドンブロウスキー編成本部長とシュワーバーの代理人ケイシー・クロース氏が会談。8日には、シュワーバー自身がドンブロウスキー本部長と話したいと申し出た。フィリーズはクロース氏と契約年数の短い案と6年契約案という2つのパターンについて話し合っていた。
8日の夜、クロース氏がドンブロウスキー本部長に電話を入れ、その晩にフィリーズが5年総額1億5000万ドル(約232億5000万円)を提示すれば、シュワーバーが受け入れると伝えた。球団はその条件を提示し、シュワーバーもそれに合意した。
シュワーバーは9日にチームメート何人かへメッセージを送り、そのなかにはJ.T.リアルミュートも含まれていた。
リアルミュートはフリーエージェントでフィリーズは残留を望み、すでにオファーも出している。
「なんとか(フィリーズと再契約するように)説得しようとしている」とシュワーバーはリアルミュートへのメッセージについて話した。
ここまでの道のりは、とても充実していた。
シュワーバーが2022年3月にフィリーズに加わった当時、球団は2011年以降ポストシーズンから遠ざかっていた。そして、シュワーバーがが在籍した4シーズンは、すべてポストシーズンに進んでいる。
フィリーズに入団した2022年当時、シュワーバーの通算本塁打は153本で、子どもは1人息子だけだった。今は通算本塁打が340本に達し、妻ペイジさんが数日以内に初めての娘を出産する予定で、まもなく3人の子どもの父親になる。
フィリーズのユニホームを着たまま通算500本塁打に到達する可能性もある。
その先には、クーパーズタウン入りが待っているかもしれない。どうなるかは分からない。
