【深掘り】誠也、PCA、タッカー。主軸打者の好調を支える秘訣とは?

百戦錬磨ターナーの影響力

July 25th, 2025

MLB屈指の打撃力を誇るカブスの秘訣とは何か?

長打を打つには打球を前方で捉え、引っ張って高く飛ばせば良い。今やそれを理解していないメジャーリーグのチームは存在しないが、『知っている』ことと『できる』ことは別物。それを可能にする打者と環境があって初めて現実になる。

「『引っ張って高い打球を』とチームとして明確に打ち出した訳じゃないし、春季キャンプでそうした指示を出したこともない。ただ、それを実践できる選手がそろっているんだ」とダスティン・ケリー打撃コーチは語る。

チームとしての明確な狙いがなかったとしても、変化は顕著だ。昨季は、引っ張ったライナーもしくはフライの割合がMLB全体で22位だったのに対して、今季は1位に浮上。16.8%から4.3ポイント増え、21.3%を記録している。

2025年 引っ張ったフライ/ライナーの割合(24日時点)

  1. カブス:21.3%
  2. ガーディアンズ:21.2%
  3. タイガース:20.1%
  4. ロイヤルズ:19.8%
  5. ドジャース:19.6%

この傾向を牽引するのが、カイル・タッカーピート・クロウ=アームストロング、そして鈴木誠也の3人だ。タッカーはキャリアを通じて空中への引っ張り打球を得意としてきたが、PCAと鈴木は今季の変化と成長が際立つ。

その変化の立役者が、タッカーと並んで豊富な打撃の知識と実績を持つジャスティン・ターナーだ。かつてのように、内角のボールを引っ張って本塁打にするシーンは減ったものの、打球を飛ばすことに関してはエキスパート。今季からカブスの一員となったベテランは、打撃を最適化しようとするチームの姿勢に感銘を受けたと話す。

「このチームには、打球を飛ばすという意識が根付いていると思う。俺が来て『お前らは間違ってる、こうしなきゃダメだ』と言ったわけじゃない。ただ、選手たち自身が成長し、長打を打つにはどうするかを理解し始めているんだ」

実際、今季のカブス打線はナ・リーグ最強と言っても過言ではない。チーム長打率.446でナ・リーグ首位タイで、本塁打152本はドジャースに次ぐ2位、長打345本もダイヤモンドバックスに次ぐ2位につけている。

「単純に、外野に飛ばした方がヒットになる確率が高いんだ。足が速いからって、ゴロを打てば安打が増える、なんて言っても、今の時代じゃ通用しない。強く、高い打球を打つのが最も結果につながるとみんなわかっているよ」とケリー打撃コーチは語った。

PCAと鈴木の変化とは

今季飛躍をとげているPCAと鈴木に注目してみよう。

スピードと守備に定評のあった、クロウ=アームストロングのブレイクの最大の要因は、パワーの向上。すでに27本塁打を記録しており、そしてその全てが引っ張った打球となっている。

「どこで打球を捉えるかが大事だと思う。より前で打つ意識で試合に臨んでいて、スイングを少し簡略化したんだ。それが一番の要因かな」とクロウ=アームストロングは語る。

PCAは、投球をより長く見極められるようバッターボックス後方に立ち、長めのバットに変えたことで、より強いスイングが可能になっている。そして、ケリー打撃コーチによれば、スイングが改善されたことで、結果的に引っ張り気味の強い打球が増えているという。

現に、全打球のうち28%が引っ張り方向へのフライまたはライナーで、これはMLB全体でもトップクラス。20%未満だった昨季から大きく変化した。

「毎年成長する中で、よりうまく体を使って打球を上げられるようになった。元々、アッパー気味のスイングで、今年からそれを最大限生かすことができるようになってきただけだよ」

そんなPCA以上に、引っ張り方向への打球が増えているのが鈴木だ。

PCAが+8.8ポイント(19.3% → 28.1%)だったのに対して、鈴木は、+11.0ポイント(15.2% → 26.2%)の大幅上昇。これは、今季のMLB全体で最大の変化量である。

2人に共通するのは、打球をより前で捉えるようになったこと。以前より、体の前でボールを捉えるようになったことで、バットスピードが上昇し、引っ張った打球が増えている。

鈴木とPCAのミートポイントの変化(体の中心からの距離)

  • 鈴木:+2.5インチ(32.3インチ → 34.8インチ、約6.4センチの変化))
  • PCA:+2.8インチ(32.8インチ → 35.6インチ、約7.1センチの変化)

同様の変化を遂げた2人だが、PCAがスイングに手を加えたのに対して、鈴木の変化はより精神的なものだったという。

「彼にはここ数年ずっと、打球を空中に飛ばすと成績が良くなると伝えてきた。鈴木の場合は、スイングを早めに始動する、ストライクゾーン内でより積極的になる、引っ張って長打を狙う、そういった意識が根付いてきて、それが実践できるようになっている」とケリー打撃コーチは語る。

タッカーとターナーの影響力

成長を遂げた鈴木に好影響を与えるのが、今季アストロズから加入したタッカーだ。「タッカー? タッカーはタッカーだよ。彼のアプローチには何も言っていないよ」とケリー打撃コーチが語るように、メジャー屈指のプルヒッターは、まさに最高のお手本だ。

2022年から今年まで、4年連続でオールスターに選出され、引っ張った空中への打球は常に20%超え。今季は25.6%を記録しており、長打力を存分に発揮している。

「自然にそういう打ち方になる選手もいると思うよ。自分はただ、いい打球が飛ぶように良いポイントで捉えるように意識しているだけ。良いスイングの軌道と、打席でどうしたいかの明確なイメージがあれば、自然とそういう結果になる。無理やり狙ったりはしない。ただ、ちょっと前でボールを捉えて、強く空中に打ち、フォロースルーまでしっかり振り抜くだけさ」とタッカーは語る。

タッカーのような打者を加えることは、打点や安打といった貢献にとどまらない。チームの打撃方針と一致している選手が加入することは、打線全体の変化へとつながる。そして、この意味で忘れてはならないのが、ターナーの存在だ。

「J.T.(ターナー)がもたらしてくれたのは、打席での考え方、賢さ、そして専門性だ。彼は選手たちにスイングを変えろとは言わないし、フライを打てとも勧めない。でも例えば相手投手に対するアプローチを話していると、『少し近めで、やや高めの球を狙おう』とか、『この投手は低めに来るけど、ボールの下を意識して打とう』という会話が生まれるんだ」とケリー打撃コーチは語る。

ターナーは、2014年にドジャースと契約した際により高い打球を打つためにスイングを再構築し、一躍スター打者へと成長したことで知られている。17年のメジャーキャリアを持つ大ベテランの経験は次世代へと受け継がれている。

「打撃については、どちらかというとカイルよりJ.T.と話すことのほうが多いと思う。カイルはとにかく特別で、めちゃくちゃ良いバッターだからね。でもJ.T.とは、自分のスイング動作とか、あらゆることを話してるよ」とPCAは語る。

ターナーによれば、「PCAはもともとスイングがボールを上げるような軌道になっているから、無理に持ち上げようとするのは逆効果だと思っている。だから、話すのは、タイミングを合わせること、自分のコンタクトポイントをつかむこと、そしてスイングの方向を前方に維持することだけだ」

タッカーもアストロズ時代にホセ・アルトゥーベやアレックス・ブレグマンといったスター打者たちとプレーしてきた。しかし、リーグでも屈指のプルヒッターである2人から学んだのは、『引っ張り方』ではなく、打席での意識だったという。

「彼らから学んだのは、マインドセット(意識の持ち方)やアプローチの部分であって、別に『クロフォードボックス(ダイキン・パークのレフトスタンド)に引っ張ってホームランを打て』みたいなことじゃない。ボールの下を打って(打球を)持ち上げようとするんじゃなくて、ただ打球を強く打とうと意識すれば、自然と前でボールをとらえるようになってきて、空中に飛んで、強い打球になるんだよ」とタッカーは語る。

この4シーズン、オールスターに選ばれ続けているタッカーは、打球の3分の2がフライまたはライナーになっており、極端にゴロが少ない。空中に打球を飛ばし続ける彼のバッティングが、ターナーと共にカブス打線を成長させている。

「とにかくゴロを打たないようにしている。内野手の守備が上手すぎて、ほとんどの打球は抜けないんだよ。でも、強いライナーを打てば、そのうちのいくつかはボールの下を叩いて、自然とスタンドまで運ばれていくんだ」とタッカーは語る。