リグレーフィールドはすでに熱狂に包まれていたが、カイル・タッカーが外野スタンドのファンへ打球を運び、さらに熱気を何段階も引き上げた。地区シリーズ(NLDS=5回戦制)の七回での一発は場内の緊張を和らげると同時に、この戦いがまだ続くことを強く印象づけた。
タッカーのアーチは、このスターが見せた“らしさ”(2安打2四球)の一部。ブルワーズに6–0で快勝し、11日(日本時間12日)の第5戦に持ち込んだ。勝ったチームがドジャースとのリーグ優勝決定シリーズに進出する。それはまた、シカゴがタッカーをチームに迎え入れた理由を如実に示すものであり、今オフに控える彼のフリーエージェントが見出しを賑わすであろう理由でもあった。
タッカーが健康でリズムに乗っているとき、世界最高峰の打者の1人だ。
カブスのクレイグ・カウンセル監督は「大事な存在だ。打線がときに非常に強力でいられる理由の一つで、彼はその大きな部分を担っている」と評価している。
そしてタッカーは、カブスの今季、ひいては、このユニフォームを着る時間が10月の深いラウンドまで続くかどうかを大きく左右する。
後半戦は負傷が相次ぎ、9月には左ふくらはぎの張りで3週間超の離脱もあったが、最近は打席で本来の姿を取り戻しつつある。レギュラーシーズン最後の本拠地カードで復帰してからはDHで出場を続け、脚の感覚を取り戻しながら、再び自分のスイングをつかんでいる。
タッカーはレギュラーシーズン最終カードで11打数1安打、ワイルドカードシリーズ第1戦(パドレス戦)は3打数無安打だった。その後のポストシーズン6試合では打率.350(20打数7安打)、5四球に対して2三振と四球が上回り、打球速度も着実に上がっている。
カブスの二塁手ニコ・ホーナーは「(3週間)試合に出られない状況で難しい。僕も10日間の負傷者リスト(IL)から戻ったときはいつも準備万端だと感じるけれど、そんなに単純じゃない。戻るだけでなく、最高レベルの舞台で、最も優れた投手たちを相手にしなければいけないからね」とタッカーの活躍を語る。
ホーナーは、今ポストシーズンでカブス打線が対戦している平均球速はレギュラーシーズンよりもかなり高いと指摘した。実際、カブスの打者がこれまでに見た平均速球は96.1マイル(約154.7キロ)で、今ポストシーズン参加チームの中で最速。参考までに、レギュラーシーズン中の平均は93.8マイル(約150.9キロ)だった。タッカーが今ポストシーズンで対戦している速球の平均球速は96.3マイル(約155.0キロ)である。
地区シリーズ第4戦の七回、タッカーはブルワーズの救援投手、ロバート・ガッサーの93.1マイル(約149.8キロ)のフォーシームをストライクゾーン低めで捉え、打球初速107.5マイル(約173.0キロ)でセンター方向へ運んだ(スタットキャスト調べ)。タッカーの平均打球速度は、9月の月間最低値85.1マイル(約136.9キロ)からポストシーズンに入って上昇を続けており、ブルワーズとの第3、4戦では平均92マイル(約148.1キロ)を超えた。
「今はいい感覚です」
第4戦後、タッカーはそう話した。
「自分が振りたい球を振れているし、そうでない球を見送れている。いつも結果が出るわけじゃないけれど、打席でチャンスをつくり、いい状況に持っていければ、少なくとも自分に可能性を与えられると思う」
カブスが昨年12月にアストロズとの大型トレードに踏み切ったのは、タッカーの打撃力に加え、打線全体への波及効果によって攻撃力を一段階引き上げられると見込んだからだった。その狙いはシーズン序盤、まさに思惑どおりに実現した。
6月末まで、タッカーは打率.291、長打39本、OPS.931を記録し、ナ・リーグのオールスターに先発出場する資格を得た。その期間、カブスは1試合平均5.4得点、チームOPS.770と強力打線を維持していた。
しかし、7月以降は打率.225、長打12本、OPS.690と成績を落とし、離脱期間もあって、チーム打線も1試合平均4.4得点、OPS.729と勢いを失った。
8月には、タッカーが6月に右手に小さな骨折(ひび)を負っていたことが明らかになった。6月はOPS.982と絶好調だったが、7月はOPS.675に低下し、8月にはゴロ率が47.1%(前半戦は30.7%)と急上昇して、勢いを失っていた。
それでも9月に入ると復調の兆しを見せ、9月2日のブレーブス戦で途中離脱するまでの11試合で打率.400を記録した。その試合でも本塁打を放ったが、左ふくらはぎを痛めて退き、その後ほぼ1カ月間を欠場することになった。
ポストシーズン直前、タッカーは10月のカブスの戦いに間に合うよう、DHとして復帰できるように状態を上げた。
中堅手ピート・クロウ=アームストロングは「彼はプロだ。打席に立つたびに良い打席内容を期待できる。ラインアップにいるだけでチャンスを生み出す、その効果は大きい」と話した。
外野スタンドにいる観客の海へ打球を放り込んだのも、カブスにとっては好材料だ。
二塁手ニコ・ホーナーは「長打が出るのは大きい。本当に大きい」と語った。
