パドレスの守護神、メイソン・ミラーがマウンドに上がるたび、目を輝かせながら応援する子供たちがいる。
豪速球に相手打者のバットが空を切ると、子供たちは手を叩き、打ち取るとガッツポーズをする。試合をリアルタイムで追いかけられない子も、翌朝、右腕の好投をチェックし、にっこり笑って学校に行く。
子供たちがミラーを応援するのは理由がある。彼らは「1型糖尿病」と向き合っているのだ。
ミラーは25日(日本時間26日)、メキシコシティで行われたダイヤモンドバックス戦の九回に登板し、三者凡退に抑え、これで球団史上最長となる34回2/3連続無失点を記録した。
守護神としての役割は、所属球団のパドレスに留まらない。3月のワールドベースボールクラシック(WBC)でもカナダ戦(5-3で勝利)、準決勝のドミニカ共和国戦(3-2で勝利)でいずれも九回を三者凡退に封じている。
ミラーがブルペンから登場するだけで、相手チームに与えるプレッシャーは大きい。
「この回で点を取れなければミラーが出てくる」
「22番(ミラー)が出る前に得点しないといけない」
最終回、コーンの「ブラインド」というヘヴィメタルの曲を背に、右腕がマウンドに上がると、本拠地ペトコパークは勝利を確信したファンの大歓声に包まれる。
今季は13試合に登板し、13回1/3を投げて27三振、2四球、3安打。1イニングあたりの出塁率を示すWHIPは0.38で、防御率はもちろん0.00だ。
100マイルを超えるフォーシームに加え、最速87.7マイルのスライダーの2球種を軸に打者をねじ伏せている。特に今季はスライダーの精度が向上し、空振り率は昨季から20%以上上昇している。
さらに特筆すべきは、三振数を四球数で割った指標「K/BB」が13.50に達している点だ。これは三振を量産しながら四球をほとんど与えていないことを示し、制球力と支配力の両面で極めて高い水準にあることを意味する。エース級の投手でも5.0〜7.0が一つの目安とされる中で、13.50はまさに異次元の数字と言える。
ミラーがブルペンにいる。その存在自体がもたらす安心感と絶対的な信頼感がチームを押し上げている。チームは26日終了時点で、18勝9敗でナ・リーグ西地区首位のドジャースとわずか0.5ゲーム差の2位につける。
守護神としてマウンドに君臨するメイソン・ミラーが「1型糖尿病」と診断されたのは大学2年の時だった。突然の出来事に、その衝撃は大きかったはずだ。
ウェインズバーグ大学(NCAAディビジョンIII)でプレーしていた2018年シーズン、防御率は7.16に悪化した。身長196センチの恵まれた体格を持ちながら、診断後は体重が約150ポンド(約68キロ)まで落ち込んだ。
糖尿病というと生活習慣や食事が原因というイメージを持たれがちだが、1型糖尿病は遺伝的要因や自己免疫の影響で発症するもので、生活習慣とは直接関係がない。そして多くの場合、ある日突然発症するのが特徴だ。
症状も幅広く、強い喉の渇きや多尿、急激な体重減少、倦怠感、吐き気や嘔吐、視界のかすみなどが現れ、重症化すれば日常生活にも大きな影響を及ぼす。インスリン治療が不可欠で、薬だけではコントロールできない病気でもある。
そうした厳しい状況の中でも、ミラーは「野球選手として生きる」道を諦めなかった。食事管理とトレーニングに徹底して取り組み、体重は220ポンド(約100キロ)まで増加。体の変化とともに球速も大きく向上し、87〜88マイルだった速球は最速99マイルに到達した。その後、NCAAディビジョンIのガードナー・ウェッブ大学へ編入し、プロへの道を切り拓いた。
2021年にアスレチックスからドラフト3巡目で指名され、23歳でプロ入り。2023年4月のメジャー昇格後は、自身と同じ1型糖尿病と向き合う子供たちを球場に招待するなど、積極的な交流も続けている。病気を抱えながら競技を続ける難しさや不安、そして努力を積み重ねることで道が開けることを、実体験として伝えている。
同じ1型糖尿病と向き合う子供たちにとって、ミラーはまさに「ヒーロー」だ。
「自分は20歳を過ぎてからこの病気になったので、幼い頃から苦しんでいる子供たちとは少し状況が異なる。でも、頑張れば自分たちもできるかもしれない、と思ってもらえるように全力を尽くすのが自分の役目」
子供たちへの思いを胸に、ミラーはこれからも胸を張ってマウンドに立ち続ける。