今井達也はメジャーで通用するか?メジャー5選手と投球スタイルを徹底比較

December 1st, 2025

今井達也は”次の山本由伸”として期待と注目が集まっている。日本での支配的な投球をMLBでも再現できるかどうか。多くの選手が苦しんできた壁だ。

山本がワールドシリーズのMVPとなり、その直後に西武ライオンズが今井をポスティングしたため、こうした期待をされるのは自然なことだ。特に代理人スコット・ボラスが「彼はNPBで山本が成し遂げたすべてをやってきた」と語った後ではなおさらだ。

27歳の右腕と契約する球団は、今井に山本のようなキャリアを歩んでほしいと願うだろう。しかし、投球内容に関して言えば、今井は山本と同じタイプの投球をしているわけではない。そして、それでまったく問題ない。

2025年に防御率1.92、163回2/3で178三振を記録し、MLBでは「ドジャースを倒したい」と語る今井は、同じ日本出身でも山本とは異なる特徴を武器としている。では、今井は、実際にメジャーでどのような投球を見せてくれるのか。比較対象を探してみよう。

1. ルイス・カスティーヨのような球種プロファイル

以下は、今井が昨季NPBで投げていた球種構成だ(NPB投手データアプリより)。

今井の主要球種は、ストレート、スライダー、チェンジアップの3つだ。サイドスロー気味のフォームで投げるため、ストレートとチェンジアップには大きな横方向の変化(2025年は平均約38センチのアームサイドラン=捕手に向かって右側への変化)が生まれ、スライダーは縦方向に鋭く変化する。(投球分析家ランス・ブロズドウスキーによる詳しい球質解析はこちら

※アームサイドラン:投手の利き腕側(右投手なら一塁方向、左投手なら三塁方向)へボールが横滑りするように動く変化。フォーシームやシンカー、チェンジアップなどで見られ、腕の角度やリリース時の回転によって生まれる。

この特徴から、今井は3度のオールスター出場を果たしたマリナーズの右腕、ルイス・カスティーヨに例えられる。低い腕の位置から、150キロ台中盤〜後半の速球、沈みつつ外へ逃げる130キロ台中盤のチェンジアップ、同じく130キロ台中盤の鋭いスライダーが武器で今井と特徴が一致している。腕の角度、球速、変化量という観点で、今井は”現在のカスティーヨ”と多くの類似点がある。

NPB(日本プロ野球)に詳しいJapanBallのカラサワユウリ氏も動画解説の中で、今井とカスティーヨの球種プロファイル(特徴)が非常に似ていると述べている。そんなカスティーヨがマリナーズで成功していることは、今井にとって好材料だ。

MLBで総合力の高い比較対象を挙げるなら、カスティーヨは現時点で最も近いタイプの投手だと言える。

2. マックス・シャーザーのような投球スタイル

球質だけでなく「どのように球種を使い分けるか」という点で見ると、今井は別のMLB投手とも似ている。その一人がマックス・シャーザーだ。

今井はストレートとスライダーを中心としており、特に右打者に対しては顕著。昨季は右打者へ投げた球の90%以上がストレートかスライダーだった。一方、左打者にはチェンジアップを混ぜたストレート+スライダー+チェンジアップ(+時折スプリット)の組み合わせとなる。左打者への投球の90%以上がこの3種で、スプリットを含めれば、ほぼ全てがその構成だった。

この投球の組み立て方は、同様の球種構成と比較的低めの腕の位置から投げるシャーザー(※今井の方がさらに低い)によく似ている。

ここで言うのは“現在のシャーザー”だが、そのシャーザーですら2025年ポストシーズンで復活を示した。シャーザーは右打者にはフォーシーム+スライダー(2025年は70%以上)、左打者にはフォーシーム+スライダー+チェンジアップ(80%以上)を中心に投げている。

今井もシャーザー同様、これらの球種で同じゾーンを攻めたいと語る。特に「高めのストレート」はシャーザーの代名詞であり、今井も同種のボールを武器とするという。

カスティーヨやジェイコブ・デグロムも似たアプローチを取るが、カスティーヨはシンカーが多く、デグロムはよりパワー型。左右で球種配分を変えるタイプという点で今井はシャーザーに非常に近い。

3. ジョー・ライアンのような速球

次は、今井の個々の球種に着目していこう。まずはストレートからだ。

『The Athletic』のエノ・サリス氏はすでに今井の球速や変化量のデータを用い、腕の角度が約20度(MLB右腕としては最もサイドアームに近い部類)だと仮定して分析を行っている。

カスティーヨの名前も挙がるが、最も似た比較対象はツインズの右腕ジョー・ライアンだ。フォーシームで空振りを奪うことに長けており、2025年にはフォーシームだけで109三振を記録。100三振以上をフォーシームだけで稼いだMLB投手は4人しかいない。

ライアンは今井と同様、腕の位置が低め(2025年は角度26度)で、ストレートの“浮き上がり量”は35センチと今井と同等、アームサイドランは33センチで今井の38センチに近い。今井のストレートはライアンに匹敵するポテンシャルを持っており、MLBでも十分通用する強力な球になる可能性がある。

しかも今井にはMLBでさらなる伸び代がある。それが球速だ。2025年NPBでは平均95マイル(約153キロ)だったが、必要な場面ではさらに球速を上げることができる。MLBでは最大の球速で投げる傾向が強いため、今井もMLBでは球速がもう一段階上がる可能性がある。そうなれば、ストレートはさらに空振りを奪う武器になるだろう。

4. ポール・スキーンズのように多彩な変化球

今井の変化球で最も良い球はスライダーで、2025年には46%の空振り率を記録した。しかし、注目すべきは変化球の種類の多さで、今井が投手として進化してきた過程が表れている。

特筆すべきは、多くの日本人エース(山本由伸ら)がメインに据えるスプリットではなく、チェンジアップをより多く使う点だ。

ちろんスプリットも投げており、近年は使用率が上昇して奪三振増にもつながっている。さらに、2025年シーズン途中からチームメートに教わった「バルカンチェンジ(指を大きく広げて握るチェンジアップ)」も習得し、実戦で使用している。バルカンチェンジは球質からシンカーとして分類されることもある。

以下の画像はJapanBallのカラサワ氏が、動画解析で映し出した、今井の3種類の変化球の握り方だ。(画像左からチェンジアップ、スプリット、バルカンチェンジ)

現在のMLBは様々な球種を投げ分ける”ピッチミックス”の時代と言われている。空振り率40%超の変化球を3種類も投げ分けられる今井はまさに時代にあった選手と言えるだろう。

チェンジアップとスプリットをどちらも本格的に使うMLB先発投手は多くない。まして3種類の緩い変化球を使い分ける投手となると極めて珍しい。その代表例がポール・スキーンズで、「スプリンカー(スプリット+シンカー)」とチェンジアップを投げ分ける投手だ。

他にもセス・ルーゴやダルビッシュ有ら、複数の緩い変化球を持つ投手はいるが、球種全体のバリエーションが多すぎて、特定の球種の使用比率は低くなる傾向がある。今永昇太も2024年のMLB1年目にはスプリットとチェンジアップを使い分けたが、2025年にはチェンジアップをほぼ封印した。

2025年、今井は左打者に対しチェンジアップ16%、スプリット7%、バルカンチェンジ4%を投げている。これらの球をMLBの左打者相手にどう組み合わせるかは大きな注目ポイントとなる。

5. トレイ・イェサべージのような「逆方向スライダー」

今井にはもう一つ異質な特徴がある。それが逆方向へ曲がるスライダーだ。

通常、スライダーは投手のグラブ側(右投手なら捕手に向かって右→左)に曲がる。しかし今井の場合、スライダーが腕側(右投手なら左→右)に動くことが多い。そして、そのスライダーはキレッキレだ。

MLBで唯一似た球質を持っているのが、ブルージェイズのトレイ・イェサベージだ。実際、その逆方向へのスライダーを武器に、2025年のポストシーズンで大活躍した。

ただしイェサべージと今井は投球フォームが真逆だ。イェサベージはMLBで最も高い腕の位置から投げるのに対し、今井は低めの角度から投げる。それでも両者のスライダーには、「逆方向に変化する」という珍しい共通点がある。

今井がMLBでもこの独特の変化を維持できれば、大きな武器になるだろう。ただし、コントロールが難しくリスクの高い球種になる可能性もある。こればかりは実際にMLBのマウンドに立つまで分からない。