今季、パイレーツは開幕12勝26敗と低迷し、デレク・シェルトン監督が解任されるなど、チーム状況は芳しくない。得点、本塁打、OPSなどで打撃はナ・リーグ最下位クラスで、多くの選手がOPS .500~.600台と打撃不振だ。マイナーリーグの選手たちもMLB Pipelineで14位と、即戦力打者の台頭は期待薄の状況だ。
チーム唯一の明るい材料がポール・スキーンズで、今季、先発で10試合に登板し、62イニング2/3を投げて防御率2.44と好成績だが、3勝5敗と勝ち星に恵まれていない。スキーンズの先発した試合、チームは3勝7敗、7敗のうち14得点に留まっている。また先日フィリーズ戦で9回1失点で完投をしたが、チームは1-0の完封負けを喫した。
スキーンズは年俸調停前期間で、球界でも最も価値の高い契約状況にある。本来ならこの数年が「勝負をかけるタイミング」だ。
パイレーツは2018年以来、勝ち越しがないが、球団は補強に消極的でオフシーズンに小規模な1年契約の選手を複数獲得し、中長期的な補強はなかった。
「本当に戦いたいなら、もっと資金を投入すべき」とナ・リーグ球団幹部は指摘する。
そこで浮上するのはこの問いだ。
「スキーンズのトレードを検討すべきか?」
チームが本気で再建を進めるなら「スキーンズ放出」も視野に入れるべきかもしれない。
「4年以上の球団支配権付きのスキーンズは、近年でも類を見ないトレード価値」とア・リーグ幹部は評価する。
2022年のファン・ソトのトレードと似たような状況だが、当時、ソトはFAまで2年以上あり、ナショナルズはパドレスからマッケンジー・ゴア、CJエイブラムスら有望株5人を獲得した。スキーンズの場合、ソトの1.5倍以上を要求可能と複数の関係者が予想する。
「現実的に、トレードできるほど優秀な選手を多く抱えているチームは少ない。レッドソックスは、契約延長中の選手をトレードしないと仮定した場合、一塁のカサス、外野手で若手有望株のアンソニー、全体TOP10の有望株メイヤー、二塁手のキャンベル、ハウクあたりだろうか。このメンバーを見ると、『ピッツバーグは決断すべきかもしれない』と思う」とあるナ・リーグ幹部は話す。
エースのトレードには大きなリスクも伴う。特に数十年に一人レベルのスキーンズのような「本物のエース」の放出はファンの心理的ダメージが大きく、また「将来の主力」が「今の勝てる駒」になる保証もない。
とはいえ、スキーンズのような選手がトレード可能になることはほとんどなく、またフリーエージェントになる4年以上前にスター選手を獲得できるのは魅力的だ。
「スキーンズはチームの中心選手で、真のエースを見つけるのはとても難しい。もし(チームが)トレードを選んだ場合、金額に関わらず要求通りに成立するはずだ。彼がロスターに名を連ねれば、ワールドシリーズの行方を左右する可能性があるからね。残りの契約期間を考えると、若手放出も受け入れるだろう。フランチャイズを根底から覆すようなトレードになることはまちがいない」
「トレードが100%合理的だとしても、実行したらパイレーツは2030年まで優勝争いを諦めることを認めることになるのではないか。確かに大金は手に入るかもしれないが、それが大きな助けになるだろうか」あるア・リーグ幹部は指摘する。
ロイヤルズは2011年シーズン前に26歳のサイ・ヤング賞受賞者ザック・グレインキーをトレードし、ブルワーズから若手を含む4選手を受け取った。しかしロイヤルズはグレインキーが在籍した7年間を含め、2003年以降、勝利したシーズンはなく、ワールドシリーズ進出は2014年、その翌シーズンには優勝を果たしている。ブルワーズはグレインキーを獲得したにも関わらず、2011年はナ・リーグ中地区優勝に留まった。
「チームとしては検討すべき事案だが、フランチャイズとして、ファンにそのようなメッセージを送るのはいかがなものか」とアメリカン・リーグの幹部は語った。
一方、トレードの時期も重要だ。
パイレーツは過去にゲリット・コールをトレードしている。2018年シーズン前にコールはFAまで残り2年というタイミングでアストロズにトレードされた。獲得したリターンは当時としては妥当だったものの、「コールがピークに向かう前の段階で動いていれば、もっと大きな見返りが得られた可能性が高い」という意見もある。
コールはオールスターに出場した2015年は(19勝8敗、防御率2.60)でナ・リーグのサイ・ヤング賞投票で4位にランクインしていた。その2年前ならばリターンはさらに高かった可能性が高い。しかしパイレーツは98勝を挙げ、ワイルドカードを獲得した年にエースのトレードなど考えもしなかった。
とはいえ、コールとスキーンズではチームの現状、打撃力などで大きく異なり、一概に語ることは難しい。
残留かトレードか。どちらが現実的かはチーム次第だ。
スキーンズが残留すれば、数年間にわたってローテーションの中心として安定した成績を見込めるほか、ファンベースの維持、拡大に効果的だ。
一方、トレードすればソトの1.5倍のように最高の市場価値で、トッププロスペクト複数、プラス即戦力の獲得の可能性がある、組織再建を一気に進められる。
パイレーツのフロントの選択に注目だ。
