外野で6度のゴールドグラブ獲得のベッツ、遊撃手としてもエリートの領域

October 24th, 2025

ムーキー・ベッツ(33)だけが、この展開を予想していたのかもしれない。

遊撃手として初めてフルシーズンを戦った今季、ベッツはゴールドグラブ賞の最終候補に名を連ねた。これまで右翼手として6度のゴールドグラブを受賞してきた男が、いまや新たな守備位置で最高の栄誉を狙う立場にいる。

メジャーの遊撃手になるまでに費やした膨大な時間と努力を、誰よりも本人が分かっている。もちろん、もう一つトロフィーを手にするのは悪くない。だが、すでに十分な証明がある。

「自分にはできると分かっていた。自分を信じていたし、ずっとそうしてきた」とベッツ。

「でも、正直いってそんなことはどうでもいい」

その姿に感嘆する声は、コーチ、チームメート、さらには対戦相手にまで及ぶ。

「自分もあんなに多くの守備防御点を記録したシーズンはなかった」と語るのは、同じくユーティリティ部門でゴールドグラブ賞の最終候補に入ったベテランのミゲル・ロハスだ。
「それは、打撃がどうであろうと、毎日試合に出続ける意志の強さを物語っている」

ブルワーズのパット・マーフィー監督もこう付け加えた。

「今年このチームに本当に価値をもたらした選手の話をするなら、私はムーキー・ベッツがナンバーワンだ。(NBAのスター選手)ステフィン・カリーが『よし、パワーフォワードをやって相手のベストプレーヤーを守る』と言うところを想像してほしい。そんな感じだ。つまり、相手のベストプレーヤーを、相手の方が大きかろうと、彼がマークする。やったことのない役割でも彼はこなす、しかもチームは勝ち続ける。さらに1試合30点超を挙げる」

そして、ベッツの監督の言葉がすべてを表しているのかもしれない。

「ムーキー・ベッツがこの議論の中心に来ると信じていた人物は、この地球上で1人だけだった」とロバーツ監督。

「ムーキー・ベッツ本人だ」

遊撃手部門でベッツと同じナ・リーグのゴールドグラブ最終候補は、ブレーブスのニック・アレンとカージナルスのメイソン・ウィンである。ウィンは今季わずか3失策(120試合以上の遊撃手でのシーズン最少に並ぶ記録。1990年カル・リプケンJr.、2000年オマー・ビスケル、2021年ケビン・ニューマンと並ぶ)にとどめており、栄誉をさらう可能性が高い。ただし、ベッツは評価のためにプレーしているわけではないと語っている。

もっとも、最終候補入りの意味は、ベッツ本人の言いぶり以上に大きい可能性がある。今ポストシーズンの早い段階で、ベッツは今季をドジャースの正遊撃手として終えられるか確信が持てなかったと打ち明けている。

ベッツは2024年に二塁でプレーするつもりでスプリングトレーニングに臨んだが、同年に遊撃へ回った。ギャビン・ラックス(現レッズ)が遊撃で守備に苦しみ、ドジャースは方針を転換してベッツをコンバートした。

守備位置の転向は簡単ではなかった。昨季ベッツは遊撃で自己最多の9失策。それでも6月に左手を骨折するまで遊撃にとどまった。復帰後は再び遊撃に戻る見込みだったが、チームが攻守で最良の布陣を組めることを理由に、シーズン終盤は右翼手として戻った。

今季は、ポジション変更に向けてオフの全期間を準備に充てることができた。練習で実戦をできる限り再現しようと、打ち込んだ。妻のブリアナがゴロを転がして手伝うこともあった。

そのため、ベッツは7度目のゴールドグラブを必ずしも目標としていない。エリートを目指しつつも、何よりチームのためにできることを優先している。

「自分にできる限り最高であることを目標にしていた」とベッツ。

「ゴールドグラブがついてくればうれしいし、ついてこなくてもかまわない。やれることはすべてやったと分かって眠りにつける。それだけが重要だ」

今季は試練の年だった。スプリングトレーニング終盤に胃の不調で約18ポンド(約8キロ)体重を落とし、打撃ではシーズンの前半で不振に陥った。現在は、スランプはその大幅な減量の影響だ考えられている。

それでも守備で価値を示した。今季、OPS0.732以下の規定打席到達者の中で、ベッツはベースボールリファレンスの算出する勝利貢献度bWAR4.8でトップ、ファングラフスのfWAR3.4で3位を記録した。これはメジャー12年のキャリアで最低のOPSだったにもかかわらずだ。

守備指標では、遊撃の規定到達者でDRS(守備防御点)17をマークし、2位のエンゼルスのザック・ネトより4多かった。OAA(平均的な野手よりどれだけ多くアウトを取ったか)は6で全体8位タイだった。

「彼は休まない」とロハスは語った。

「オフ日でも球場に出て、どうやって上達するかを探している。毎日たゆまず取り組む姿勢の成果だ」

ベッツの守備は、ドジャースが過去6年で3度目のワールドシリーズ制覇に迫るプロセスに大きく貢献している。道中でも無数の価値あるプレーがあり、その中でも特にフィラデルフィアでの地区シリーズ第2戦のホイールプレー(走者一、二塁からのバントシフト)、リーグ優勝決定シリーズ第3戦でのジーターばりのジャンプスロー(三遊間を好捕&好送球)が象徴的だ。

現時点では、遊撃でのプレーは右翼と同じくらい自然になっている。自分の居場所があると彼は受け止めている。

「打球に追いつきさえすれば、自分の運動能力を信じてアウトにできると確信している」とベッツは自信を持って、守備につく。