【投手編】FA市場で狙うべきは?タイプ別の特徴とおすすめ選手

November 13th, 2025

あなたは、優勝争いに加わるための大型補強、あるいは最後の一押しとなるピースを探している球団のGMだとしよう。チームに最適な投手を見つけるためには、フリーエージェント(FA)市場について理解しておかなくてはならない。

今年の市場は興味深い。才能は豊富で、特に中堅クラスの先発投手は多いが、球団の姿を一変させるほどの選手はいない。過去数年はアーロン・ジャッジ、大谷翔平、フアン・ソトがいたが、今オフにそのレベルは見当たらない。その代わり、さまざまなポジションやタイプ、スキルの選手が揃い、チームにぴったりはまる人材を選べる状況である。ベースボール・サバントの新機能「スタットキャスト・ホット・ストーブ・トラッカー」を用い、ニーズに応じてどんな候補がいるか見ていこう。

なお、村上宗隆や今井達也といった日本のスター、あるいはコディ・ポンスやアンソニー・ケイのように外国リーグから復帰する米国人選手など、国外リーグからMLB入りする選手については、2025年のStatcastデータが現時点で公開されていないため、ここには含まれていない。

こちらの記事では、投手を紹介する。

投手編

優れた先発投手が欲しい!

ここでは最低投球回を100イニングに設定する。期待防御率(xERA)は、打者編で紹介した期待加重平均出塁率(xwOBA)と似た考え方で、打球の質と量の双方を考慮し、防御率に置き換えたものだ。球場、守備、運の要素を取り除くことが目的となっている。

期待防御率

  1. 3.14 レンジャー・スアレス
  2. 3.43 ディラン・シース
  3. 3.77 フランバー・バルデス
  4. 3.96 ニック・マルティネス
  5. 4.04 今永昇太
  6. 4.04 エイドリアン・ハウザー
  7. 4.10 アーロン・シバーレ

特に際立っているのはスアレスとシース。今永はカブスからのクオリファイング・オファー(QO)を受諾するかどうかを11月18日までに決める必要があるため、そもそも市場に出ない可能性がある。ここにはないが、ブランドン・ウッドラフも今永と同様にQOの判断を控えており、投球回は64回2/3にとどまったものの、xERAは2.18と自己最高を大きく上回った。

「スアレスは本当に優秀」という点以外に、ここでの示唆は2つある。

  • まず、シースが高評価を得る理由の一端だ。過去3年で2度目となる防御率4.55と、一見トップレベルの先発に見えないかもしれない。だが、彼は5年連続で200奪三振を記録しており、同期間で3度を超えた投手は他にいない。この耐久性と空振り能力だけでも十分価値があるうえ、球団側は表面上の防御率を超えて評価するだろう。
  • 次に、「エース級は少ないが、中位ローテ級はとにかく多い」ということだ。年齢や負傷歴、実績を踏まえて2025年が実力相応か偶然かを精査する必要はあるものの、100回以上投げてxERAが4点台前半の投手を探すなら、選択肢は豊富だ。メリル・ケリー、クリス・バシット、ジャスティン・バーランダーなどのベテランをはじめ、低調だったシーズンを経たザック・ギャレンが復調するか。さらには、ザック・リッテル、クリス・パダック、マイケル・ロレンゼンなど。またxERA5点台に目を向ければ、マイルズ・マイコラス、ルーカス・ジオリト、ウォーカー・ビューラーなど、枚挙にいとまがない。

優秀な救援投手が欲しい!

ここでは最低投球回を40イニングに設定する。

期待防御率

  1. 2.45 エドウィン・ディアス
  2. 2.49 ケイレブ・シールバー
  3. 2.67 タイラー・ロジャース
  4. 2.82 ブラッド・ケラー
  5. 2.84 フィル・メイトン
  6. 2.91 エミリオ・パガン
  7. 3.00 ショーン・アームストロング
  8. 3.02 ピート・フェアバンクス
  9. 3.02 ルーク・ウィーバー
  10. 3.09 デビン・ウィリアムズ
  11. 3.09 カイル・フィネガン

当然ながら、ディアスがこの市場最大のスター救援である。数値上はシールバーが肉薄しているが、ディアスは7歳若い。また、意外性のある注目株もいる。例えばケラーは長らく下位先発だったが救援転向で変貌し、フェアバンクスはレイズで数年にわたり一流のパフォーマンスを続け、今回が初のFAとなる。

ここでリストをやや拡張したのは、ウィリアムズを含めるためでもある。表面上は「防御率4.79」とネガティブな印象でFAを迎えるが、シースと同様、より詳細な指標は依然として魅力的であり、球団は特に救援投手をERAだけで評価しない。

アンダースローのロジャースが高位置にいる点にも注目しておきたい。後ほど再び取り上げる。

空振りを奪える投手が欲しい!

空振り率(最低40イニング)

  1. 41.5 エドウィン・ディアス
  2. 37.7 デビン・ウィリアムズ
  3. 36.2 フィル・メイトン
  4. 35.3 カービー・イェーツ
  5. 33.4 ディラン・シース
  6. 33.3 セランソニー・ドミンゲス
  7. 31.9 ジャスティン・ウィルソン

打者部門でのシュワーバーやアロンソ同様、ディアスがこうしたリストで上位に現れるのは当然だ。ウィリアムズが防御率以上に関心を集める理由もここにある。そして注目すべきは、先発で唯一名を連ねるシース。メイトンも要注目で、カットボールとカーブに特化することで奪三振率を23%から33%へと引き上げ、昨年の有資格投手で2番目に大きな伸びを示した。

打たせてとる投手が欲しい!

ゴロ率(最低40イニング)

  1. 61.6% タイラー・ロジャース
  2. 59.4% フランバー・バルデス
  3. 56.6% ブラッド・ケラー
  4. 53.8% ホビー・ミルナー
  5. 52.7% ルーク・ジャクソン
  6. 51.6% グリフィン・キャニング
  7. 49.7% ケイレブ・ファーガソン

ここでもロジャースが登場し、従来どおりゴロ量産型の投球を継続している。バルデスは同世代屈指のゴロ職人だ。ケラーは球速と三振が大幅に向上しただけでなく、どうやらゴロ傾向も強く、注目を集めるだろう。

球が速い投手が欲しい!

フォーシーム/シンカー平均球速(最低40イニング)

  1. 99.1 ライアン・ヘルズリー
  2. 98.6 ロバート・スアレス
  3. 98.5 ライン・スタネック
  4. 97.7 セランソニー・ドミンゲス
  5. 97.7 カルロス・エルナンデス
  6. 97.2 エドウィン・ディアス
  7. 97.1 ブラッド・ケラー
  8. 97.0 ディラン・シース

ケラーはここでも存在感があり、シースは「イニングを投げられるリリーバーのような先発」という姿が浮かび上がる。ロバート・スアレス(フィリーズ先発レンジャーではなくサンディエゴの救援)は35歳を迎えるが、球速は衰え知らずだ。

最も興味深いのはヘルズリーだろう。エリート級の速球を持ち、2022〜24年はカージナルスで成功を収めたが、2025年はメッツへトレード後、20回で防御率7.20と悲惨な結果に終わった。球は速かったものの、捉えられる場面が多く(被打率.422、長打率.667)、投球動作にクセがあって、球種がバレていた可能性も議論されたが、それにしてもダメージは大きい。とはいえ、球速と実績を評価し、立て直せると見る球団は現れるはずだ。

強い打球を打たせない投手が欲しい!

被バレル率の低さ(最低40イニング)

  1. 2.1% タイラー・ロジャース
  2. 3.1% ケイレブ・ファーガソン
  3. 3.6% フィル・メイトン
  4. 4.0% グレゴリー・ソト
  5. 4.0% エドウィン・ディアス
  6. 4.8% ピート・フェアバンクス
  7. 5.2% ダニー・クーロンブ
  8. 5.5% レンジャー・スアレス

打たれたハードヒット率の低さでは、ファーガソンに続いてタイラー・キンリーが来るが、ここでは、空中への強い打球、「バレル」の打たれづらさに焦点を当てたい。ロジャースが単に風変わりなだけでなく優れている理由が見えてくるはずだ。他のリストと重なる名前が多いことからも、この市場で上位に来る救援が誰なのか輪郭がつかめる。

また、メッツ加入後に奇妙な変化を見せたソトにも注目したい。左腕はオリオールズ時代に比べ四球率を半分以下に抑えた一方で奪三振率も低下し、総合的な結果は概ね以前と同程度に落ち着いた。

極端な腕の角度(アームアングル)を持つ投手が欲しい!

現代の投球要素の一つはどれだけ「変」かどうかだ。つまり、同じ球種でも見え方・角度・球種配分を多様化することが重視されている。変わったアームアングル自体は善し悪しを決めるものではないが、興味深い特徴ではある。なお、90°が完全なオーバースロー、0°が完全なサイドスロー、平均は38°前後を指す。

腕の角度が最も低い(最低40イニング)

  1. -61° タイラー・ロジャース
  2. -6° ホビー・ミルナー
  3. 13° ライアン・ヤーブロー
  4. 19° カービー・イェーツ

腕の角度が最も高い(最低40イニング)

  1. 62° ライアン・ヘルズリー
  2. 59° ピート・フェアバンクス
  3. 58° ニック・マルティネス
  4. 57° ダニー・クーロンブ

当然際立つのは、ロジャースだ。84マイル(約135キロ)の速球でもMLBで成功できる理由がここにある。ヘルズリーはニューヨークではうまくいかなかったが、メッツがロジャースとヘルズリーを同じ日に獲得したのは偶然ではないだろう。マウンドから登ってくるような84マイルの後に、真上から100マイル(約161キロ)が降ってくる。これほど打者を混乱させる組み合わせは他にない。