レッドソックスはいかにして2025年シーズン全体を「支援のシーズン」に変えたのか

November 27th, 2025

21世紀に入ってから、レッドソックスは地域社会を支える活動が評価されていることに大きな誇りを持ってきた。

がん研究のための資金を集めるジミー基金(Jimmy Fund)とのたゆまぬ協力関係にせよ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の影響を受けた多くの退役軍人を支援してきた球団のホームベース・プログラムにせよ、レッドソックスは常に自分たちの持つ発信力を社会のために生かしてきた。

そして、そのためにはレッドソックスのような組織も常に活動を進化させ、広げていくことが求められる。

ボストンの球団は今季、新たにメンタルヘルスに悩む人たちを支える取り組みを立ち上げた。

数カ月にわたる調査と準備を経て、コミュニティ・リレーション担当のスタッフが5月に打ち出したのが「チェンジアップ・ザ・カンバセーション(Changeup the Conversation)」だ。メンタルヘルスへの意識啓発に関する活動を球団として筋道を立てて、意図を持って行えるようにしたプログラムである。

メンタルヘルスの問題は、ありがたいことに近年少しずつ偏見が薄れつつある。その流れは、レッドソックスのような組織が、この尊く、場合によっては命を救うことにもつながる取り組みに関わることで、さらに後押しされている。

このプログラムが始動したタイミングも、これ以上ないほどよかった。外野手ジャレン・デュランが、ネットフリックスのドキュメンタリー番組で2022年に自殺を図ったことを明かすという衝撃の告白をしてから、ほんの数週間後のことだった。

シーズン中、レッドソックスは毎月、ニューイングランドを拠点とするメンタルヘルス関連の非営利団体を一つ取り上げ、球場内での体験型イベントや、スポーツにおけるメンタルヘルス、ストレス管理、自殺予防など特定のテーマに焦点を当てたソーシャルメディア(SNS)を通じて紹介した。

レッドソックスが提携した6団体のうちの一つが「サマリタンズ」。

自殺に関する電話とテキスト(携帯電話メール)のホットラインを運営している。

この取り組みがきっかけとなり、レッドソックスの広報スタッフとして長年働き、1月に球団を離れてサマリタンズのシニアライター兼メディアリレーションズマネジャーに就任したジャスティン・ロング氏とのつながりが生まれた。

「『チェンジアップ・ザ・カンバセーション』の一員になれたことを本当にうれしく思っています」とロング氏は話す。

「私たちにとって、メンタルヘルスについて率直で正直な会話をすることはとても大事です。レッドソックスが、私たちが球場にいたその1日だけメンタルヘルス支援を取り上げるのではなく、シーズンを通した取り組みにして、多くの団体が年間を通じて行っている大きな意味を持つ活動を紹介してくれたことに感謝しています。

困っている人のための命を守るサービスはたくさんあり、自殺で誰かを亡くした人や、自ら命を絶とうとした経験のある人のための支援グループもあります。レッドソックスというプラットフォームがあったからこそ、私たちはそうした支援策をより大きな層に届けることができ、それが命を救うことにつながる可能性があります。本当に大きな違いを生んでいると思います」

Members of the Red Sox's Changeup the Conversation initiative pose for a pregame photo.

ロング氏には、メンタルヘルスの苦しみに関してあまりにも個人的な経験がある。高校生のとき、自ら命を絶とうとしたのだ。

「私が特に強調したかったのは、自分自身の経験です」と語る。

「自殺予防やメンタルヘルス支援の啓発において、プロの選手やチームがどれだけ大きな影響力を持っているかを、私たちは見てきました。高校生のとき、私は自分の命を絶とうとしました。とても孤独で、自分だけが苦しんでいると感じていたからです。もしあの頃、レッドソックスの選手が自分の経験を語る姿を見ていたら、あの多感な年頃の自分にどれほど大きな影響を与えてくれたかと思います。憧れの選手も同じように悩んでいて、そのことを話すのを恐れていないと知ることは、私にとって計り知れない支えになったはずです」

「それは、4月にあのネットフリックスのドキュメンタリーが公開された後にも表れていました。『988』への電話の件数や、『Hey Sam』へのテキストの件数が増えたのです。レッドソックスには、こうした啓発活動を行い、支援につながる情報を多くの人に伝えるうえで、本当に大きな影響力があります」

Members of the Red Sox's Changeup the Conversation initiative pose for a pregame photo.

カイルケアーズ(KyleCares)は、このプログラムが始動した5月、メンタルヘルス啓発月間にフェンウェイパークで最初に紹介された団体だった。このプログラムを率いているのは、2018年に当時19歳だった息子カイルを自殺で亡くしたジム・ジョンソン氏だ。

言葉にできない悲劇を経験しながらも、ジョンソン氏とカイルケアーズは、カイルが抱えていたような苦しみと向き合っている人たちを支えるための活動にいっそう力を入れてきた。

「自殺は15歳から24歳までの若者にとって死因の第2位になっています。だから私たちは高校と大学に対象を絞り、そうした学校にプログラムを導入できるように取り組んでいます。学校の運営側や生徒が、その校舎にいるすべての生徒のメンタル面の健康を支えられるようにするためです」とジョンソン氏は話す。

「それができれば、自殺を考えたり、実際に試みたり、自分を傷つけてしまうかもしれない子どもの数を減らすことにつながります。それが私たちの究極の目標です」

Singer-songwriter Noah Kahan visits with patients at the Jimmy Fund Clinic at the Dana-Farber Cancer Institute in Boston in 2024.

では、レッドソックスはどうやって、その最終目標の実現をさらに後押ししているのか。

「まず、私たちは小さな団体です。活動を始めて6年半になりますが、規模は小さいですし、私たちのプラットフォームは、当然ながらレッドソックスほど広く遠くまでは届きません」とジョンソン氏は話す。

「だからこそ、レッドソックスが自分たちのプラットフォームを使って、全米的な課題となっている問題に光を当ててくれることは本当に大きな意味があります。レッドソックスという組織が、自分たちの選手のメンタルヘルスを気にかけているだけでなく、カイルケアーズのような財団や10代のメンタルヘルスについても真剣に向き合っている証しです」

そして、デュランがネットフリックスで自らの経験を公表したことの影響の大きさは、計り知れない。

「ジャレンのような人が、自分が抱えていることについて勇気を持って話し、弱さを見せて、薬を服用していることやセラピストに通っていること、そして心身の健康とセルフケアを優先することの大切さを語ってくれる。それが若い人たちに『自分は一人じゃない』『周りが思っているほど、自分は他のみんなと違っているわけではないかもしれない』と気付かせる助けになります」とジョンソン氏は言う。

「プロのアスリートがそのことを進んで口にして、支援を求めているのなら、『自分も同じようにしていいはずだ』と思えるようになるのです」

「チェンジアップ・ザ・カンバセーション」が今季提携したその他の団体は次の通りだ。

・Active Minds(アクティブ・マインズ)
若い世代がメンタルヘルスについて率直に語り合えるよう背中を押し、全米のキャンパスや学校で支え合うコミュニティづくりに取り組んでいる。

・Doc Wayne(ドク・ウェイン)
スポーツと遊びを取り入れた療法を提供する団体。子どもと大人向けにグループおよび個別セッションを行うほか、保護者や専門家向けの研修も実施している。

・OUT MetroWest(アウト・メトロウエスト)
LGBTQ+の若者が仲間や、支えてくれる大人のロールモデル(手本)とつながれるプログラムを通じて、支援的なコミュニティを築いている。

・The Jed Foundation(ジェド財団)
10代と若い成人の心の健康を守り、自殺を防ぐことを目的とする非営利団体だ。

「チェンジアップ・ザ・カンバセーション」とは別にレッドソックスは世界的な影響力を持つ歌手ノア・カーハンとも提携している。「Busyhead Project(ビジーヘッド・プロジェクト)」は、この地域を代表するメンタルヘルス関連の基金の一つとなっている。

カーハンは11月20日に、フェンウェイパークに隣接するMGMミュージックホールでレッドソックス財団と協力して初のチャリティーコンサートを開いた。この公演は総額200万ドル(約3億1000万円)超の収益を上げ、その純益はすべてビジーヘッド・プロジェクトとレッドソックス財団の間で分配された。

「変化は一夜にして起きるものではありません。ただ、私たちのような小さな団体がレッドソックスと組み、さらに私たちにはペイトリオッツ(NFL)とのとても良いパートナーシップもありますが、あのような大きな影響力のある組織が一歩踏み出して、この問題に光を当て始めてくれると、本当に大きなうねりが生まれます」とジョンソンは言う。

「それによって若い世代も大人も一度立ち止まり、『これは重要な問題だ。自分たちに何ができるだろうか』と考え始めるきっかけになるのです」