こんなにも多くの人がグラウンドでうれし涙を流す光景を見たのは、いつ以来だろうか。
優勝セレモニーで選手たちが弾ける笑みを浮かべる一方、その姿を見守る家族や関係者の目には、次々と涙があふれていた。
普段なら、父親に少し生意気な口をきくこともあるのだろう。そんなティーンエージャーの子どもたちも、この日ばかりは込み上げる感情を抑えきれなかった。
「お父さんが球団で働いているの」
そう教えてくれた三つ編みの14歳の娘さんも、隣に立つ、少し個性的な髪形のお姉さんも、あふれる涙が抑えられない。周囲の家族たちも、肩を振るわせ、大粒の涙を流した。
セレモニーが終わり、グラウンドで家族や友人と抱き合うと、今度は選手やスタッフたちの感情も一気にあふれ出した。
生え抜きのエース、ブランドン・ウッドラフもその一人だった。目を真っ赤にしながら、喜びをかみしめるように語った。
「最高だよ。言葉では言い表せない。世界で一番幸せな気分だ。みんなが泣いているのを見たでしょ? 僕だって、子どもみたいに泣いてしまったよ」
ウッドラフにとって、この優勝は特別な意味を持つ。長年、このチームで腕を振り続けてきたからこそ、喜びもひときわ大きかった。
「僕にとって本当に大きな意味がある。ここは、僕がずっとプレーしてきた唯一の場所だから。ここで優勝できたことは、何にも代えがたい。ここ以外で達成したい場所なんてないよ」
長いシーズンの間、家を空ける日々を理解し、送り出し、背中を押し続けてくれた家族。そして、表舞台には立たずともチームを支えてきたスタッフたち。世界一は、グラウンドに立った選手たちだけでつかんだものではない。それぞれの場所でチームを支え、ともに戦ってきた人々の思いが、この日の涙となってあふれていた。
「マーフボール」が結実した先に
今季、歴代球団最多の103勝を挙げたブルワーズは、ポストシーズンでも勢いを維持した。パドレスとの地区シリーズを3勝1敗で突破すると、リーグ優勝決定シリーズでは昨年4連敗を喫したドジャースに4連勝。雪辱を果たし、世界一への道を切り開いた。
しかし、球団初の世界一に至るまでには、長年の悔しさがあった。2018年のナ・リーグ優勝決定シリーズでは、ドジャースとの第7戦に敗れ、あと一歩でワールドシリーズ進出を逃した。幾度も味わった悔しさを乗り越え、ついに歴史を塗り替えたからこそ、歓喜の涙には特別な重みがあった。
快進撃を支えたのが、パット・マーフィー監督のもとで浸透してきた「マーフボール」だ。固い守備はもちろん、ストライクを積極的に狙い、ボール球には手を出さない。進塁打や犠牲フライで走者を進め、必要な場面で自分の役割を果たす。個人の数字よりもチームの勝利を優先する姿勢を、春季キャンプから徹底してきた。
求めるプレーができなければ、厳しい指導が飛ぶ。求める姿勢を貫けるまで妥協しない。そうして一人ひとりにチームのために戦う意識を根づかせてきた積み重ねが、球団史上初の世界一という結果につながった。
優勝後、マーフィー監督は街や州の人々と喜びを分かち合えることへの感謝を口にしながら、あえて「今年のチーム」に目を向けた。
「街や州の人々にとって、本当にうれしいことだと思う。みんながこの経験を分かち合うことになるだろうし、誰かにとっては初めての経験になるはずだ。ただ、私が考えたいのは、あくまで今年のこのチームのことだ。ブルワーズの歴史も、かつての選手たちも大好きだ。でも、今はここにいる、この選手たちのチームについての話なんだ」
球団の歴史や過去の功労者に敬意を払いながらも、指揮官が評価してほしいと願うのは、今季、目の前の勝負に全力を尽くし、自らの手で歴史を切り開いた選手たちなのだろう。
選手たちの笑顔も、家族の涙も、この世界一にたどり着くまでに積み重ねてきた日々の重みを物語っていた。ブルワーズはこの日、球団の歴史に新たな一ページを刻んだ。そして、世界一の誇りを胸に、新たな歴史を歩み始める。
MLBの最新ニュースを見逃さない!
- 【毎週日本時間金曜配信】日本語版ニュースレターに登録
- 【自分のスタイルでMLBを楽しむ】日本語公式アプリをダウンロード
- 【2026年より開設!】MLB Japan公式Youtubeチャンネル