9月初旬の時点で、佐々木朗希(23)の今季は終わったも同然と思われていた。3A・オクラホマシティで4度目のリハビリ登板を終えた佐々木は、5回4失点。平均球速は94.4マイルにとどまり、メジャーとマイナーを通じた12登板の中で2番目に遅い数字だった。
デーブ・ロバーツ監督は、その時点でリハビリ中の佐々木に対し、これまでになく厳しい評価を口にしていた。
現状の戦力構成では、ドジャースに佐々木の居場所はないという現実である。
「3Aの打者相手なら、もっと圧倒してほしい。いまチームは優勝争いの真っただ中だ。先発で起用されるには、彼自身に強い危機感と支配的なピッチングが必要だ」とロバーツ監督は9月3日に語っていた。
それから7週間後、状況は一変した。
佐々木はチームに居場所を見つけただけでなく、いまや最も信頼されるリリーフ投手のひとりになり、ドジャースが連覇を目指す中、11番はまさに「秘密兵器」となった。
「先発のときと同じで、完璧な投球なんて毎回できるものではない。どんな状況でも3つのアウトを取る方法を見つけるしかない」と佐々木は話す。
ポストシーズン8イニングで1失点、3セーブ。この姿こそ、ドジャースがずっと期待していた「本来の佐々木」である。それを引き出す鍵を見つけることが、すべてだった。
「本当に規格外の腕の持ち主だ。才能は十分すぎる。だから、こうした活躍もまったく驚きではない」とアンドリュー・フリードマン編成本部長は語る。
佐々木は今オフ、最も注目された投手のひとりで、わずか23歳ながら先発ローテーションの柱になり得る存在とみられていた。しかし、NPBでの最後の2年間は球速が落ち始めていた。ドジャースは、佐々木が移籍候補の球団に出した「課題」をクリアしたチームだった。
それは「なぜ球速が落ちたのかを分析し、修正のための具体的な計画を示してほしい」というものだった。ドジャース側の提案に対し、佐々木自身は変化を受け入れる姿勢を見せていたが、心の奥にはやはり迷いもあったという。
「彼には自分のやり方がある。それを尊重するつもりだった。同時に、信頼関係を築いて協力できる関係性を作ることが重要だった。焦って変えるのではなく、時間をかけて進めた」とフリードマンは振り返る。
シーズン序盤、佐々木は右肩インピンジメント症候群で離脱するまで、8試合で1勝1敗、防御率4.72。24三振に対して22四球と、内容は芳しくなかった。
5月以降、4カ月以上もメジャーのマウンドを離れたが、その間に本来の自分を取り戻すための再構築を進めていた。
「アリゾナのピッチングコーチに感謝している。リハビリ中に問題の原因を明確にできたし、根本的な課題について共通の理解を持つことができた」と佐々木は通訳のウィル・アイアトンを通じて語った。
リハビリ期間、佐々木は投球フォームを根本から見直した。これまで肩や脇腹のケガをかばううちに、メカニクスのバランスが崩れていた。さらに、ストレングス&コンディショニングコーチのトラヴィス・スミスと共に、シーズンを通して体力と強さを維持するルーティンを構築した。
すべてが噛み合い始めたのは、4度目のリハビリ登板を終えた直後だった。オクラホマシティでの不安定な投球を受け、映像分析を再度実施。そこで、下半身の使い方を改善する方法を見出したという。肩の動きが自然になっていた佐々木は、その次の登板で平均球速98.3マイルを計測し、見違える投球を見せた。
ただ、当時のドジャースは6人ローテーションで絶好調で、先発枠に入る隙はなかった。一方で、ブルペンは不安定で模索状態にあった。
そこでフリードマンとブランドン・ゴームズGMが佐々木と面談し、残りのシーズンをリリーフとして過ごす案を提示した。「『やりたくないなら無理にやる必要はない。リスクもある。でも、挑戦する気があるなら、優勝に貢献できるチャンスがあると思う』と伝えた。すぐに答える必要はないと言ったが、翌日彼から『やります』と連絡が来た」とフリードマンは語る。
オクラホマシティとドジャースでそれぞれ2登板ずつ、計4登板を経て、佐々木はポストシーズンのブルペン枠を勝ち取った。ワイルドカードシリーズではレッズ戦を締めくくり、NLDSではフィリーズとの第4戦で3イニングを完全投球。さらにNLCSではブルワーズとの4試合中3試合に登板した。
NLCS第1戦では、リリーフ転向後初の失点を喫し、9回を投げ切ることができなかった。3日前に複数イニングを投げた疲労が原因だった。
「2〜3日で再び最高の状態に戻すのは、誰にとっても難しい。彼はまだリリーフ転向から2週間ほど。ブルペンのリズムをつかんでいる途中だ」とマーク・プライアー投手コーチは語った。
それでも佐々木は、この新しい役割の中で自分を取り戻しつつある。記者から「球速と自信、どちらが先に戻ったのか」と問われると、彼は「両方」と答えた。いまの時期にチームの勝利に貢献できていることも大きいが、何より「自分らしく投げられている」という実感が一番の違いだという。
「精神的な強さは、技術的な自信から生まれる。自分の能力に確信があれば、気持ちは簡単には揺らがない」
ケガと不調を乗り越え、リリーフという新たな役割で輝きを取り戻した姿は、まさに「朗希再生」の証だ。
