わずか1カ月前、佐々木朗希(23)はマイナー3Aのオクラホマシティで投げていた。いや、正確に言うならば、苦戦していた。5試合のリハビリ登板で防御率は6.75。ナ・リーグ新人王の大本命というイメージは、とうの昔に薄れていた。ドジャースにとってポストシーズンの切り札として佐々木を起用するという考えは、せいぜい楽観的なものに過ぎなかった。
わずか2週間前、ジェイコブ・ミジオロウスキー(23)も不振に陥り、ブルワーズはポストシーズンの構想から若き剛腕を完全に外す可能性も十分に考えられていた。8月から9月にかけて防御率6.06だったミジオロウスキーは、少なくとも地区シリーズでは先発ローテーションから外れ、佐々木に代わって新人王を獲得する可能性もほぼ消滅した。ましてやポストシーズンの切り札として起用するという考えもまた、楽観的なものに過ぎなかった。
10月を迎え、この2人の新人右腕をめぐる状況は一変した。佐々木はワイルドカードシリーズと地区シリーズで5回1/3をほぼ完ぺきに抑え、2セーブを挙げた。ミジオロウスキーは地区シリーズで2戦合計7回1失点の好投で、チームをシリーズ突破に導いた。
今や2人は不可欠な存在になった。どちらも新人王を獲得することはないだろうが、それ以上の栄誉に手が届くところまできている。
ドジャースのデーブ・ロバーツ監督はミジオロウスキーとブルワーズのブルペン陣について「やるべきことは山積みだ」と語った。
一方、ブルワーズのパット・マーフィー監督も「最終回に100マイル(161キロ)とスプリットを投げる投手?そんなの不公平だ。リーグに嘆願して、何かの理由で出場停止処分を受けさせられるかどうか検討するつもりだ」と佐々木について冗談を飛ばした。リーグ優勝に向けて避けては通れない右腕との対戦を前に、ユーモアで先制攻撃を試みた。
佐々木とミジオロウスキーは多くの共通点を持っている。2人ともまだ23歳で100マイルを超す剛速球を投げ込む。そして今季はともに不振の期間があった。
ドジャースの開幕ローテ入りした佐々木は、最初の5先発では防御率3.20を記録したが、その後は不調に陥った。5月中旬には右肩のインピンジメントで負傷者リスト入りし、9月下旬まで戦線を離脱していた。復帰後はリリーフとして起用されているが、ロバーツ監督によればこの配置転換には「少しの思い切り」が必要だったという。
もう、そうではない。復帰後、佐々木はレギュラーシーズンとポストシーズンを合わせて7試合連続無失点を記録。今やドジャースの事実上のクローザーとなった。
「今年は(レギュラーシーズンでは)全然貢献できなかった分、 今年残されたシーズンで自分のできることをチームに貢献したいと思っていた。そういった意味では今は少しですけど貢献できて良かったなと思います」と、フィリーズとの地区シリーズを制したあとに佐々木は語った。
ミジオロウスキーにも佐々木の気持ちが分かるだろう。ミジオロウスキーは佐々木ほどではないものの有望株として期待され、鮮烈デビューを飾った。最初の5登板で4勝、33三振を奪い、ナ・リーグのオールスターにも選出され、一躍脚光を浴びた。
しかし、後半戦は苦戦。9月下旬には先発ローテーションから外れ、ポストシーズンまではリリーフ登板が1度だけだった。そのため、ミジオロウスキーを地区シリーズのロースター(出場選手登録)に入れるのは、大胆な決断だった。
ミジオロウスキーはその懸念を覆し、シーズン前半のような好投で火消し役を担った。
「ようやくすべてが上手くまとまりつつある。こんなに早く実現するなんて、ちょっと信じられないくらいだ」とミジオロウスキーは語る。
「ポストシーズンの環境がそういう結果をもたらすのは面白いことだね」とブルワーズのクリス・フック投手コーチも右腕の復活を喜んでいる。
佐々木はドジャースの守護神として、リードしている試合の九回(あるいは終盤)に登場することだろう。強力な先発陣(スネル、山本、大谷、グラスナウ)の後を受けるブルペン陣は不安も残るが、佐々木が最も重要な場面で登場し、ピンチの芽を摘むことに期待がかかる。
一方のミジオロウスキーは、ブルワーズがブルペンデーに出るときに多くのイニングを任されるはずだ。あるいは、先発登板も視野に入るだろう。ミジオロウスキーは今、主砲クリスチャン・イェリッチが「はみ出しおもちゃの仲間たち」と呼ぶ集団の重要な一員となっている。
それは、困難を経験した投手や過小評価されてきた投手、あるいはその両方を抱えた者たちの集まりであり、今やチームの未来を左右する存在となっている。
マーフィー監督は先発予定についてまだ明らかにしていない。
「全員で準備を進めている。彼ら(投手陣)は何でもやる準備ができている」
